しらす
「いったあ〜……渇探流はん?大丈夫でっか?」
「しらす」
「……はっ?」
大きなキノコの傘部分に三人着地して、大した怪我もしなかった三人は———渇探流を見て、固まった。
そこには、アホ面を晒した、渇探流。
「か……渇探流……はん……?」
「しらす」
「———っ!?———!!」
「これ……なん……あっ」
バタバタと激しい動きをして何やら口を動かしているウィルフレッドを尻目に———黄船は、先程己が口走ってしまった恐ろしい言葉を、思い出していた。
『かっ、渇探流はんのアホーーー!』
「……えっ……あれ……あれが原因なん……?マジで……?」
「しらす」
「えっとこれ……どないしょ……まともに話せるのが、うちしかおらへん……」
「しらす」
「———っ!!———!!」
ちなみに、渇探流がアホ面でしらすしらすと言うたびに、空からシラスが降って来ているのだが、それは現在些事として片づけていいだろう。
「しらす」
———しかし、その言葉に呼応するように、空から降るシラスの量が、明らかに増えているが。
黄船が頭を抱えていると、ウィルフレッドがガシリと黄船の腕を掴んできた。
「なんや?」
「———っ!!———!!」
パクパクと口を開けて、『助けてくれ』と、口の動きで言ってくる。
黄船はハッとして———慎重に、口を開いた。
「士道ウィルフレッドは、言葉を話せる」
「———はっ……!!声が……出る……!!感謝する、黄船!!」
「なんや……」
———あんさんに感謝されるとか気味が悪いわ。と言おうとして、その言葉の何かが別のトリガーになりそうな気がして、黄船は黙った。
そして———ウィルフレッドは、しらすしらすと言い続けている渇探流の肩を掴んで、こう言った。
「医里渇探流は、士道ウィルフレッドを愛している」
「ちょおおおおおおお!?あんさんそれはあかんやろおおおおおおお!!」
「しら……す……?うぃ……うぃ、る……?」
「はい、貴方のウィルフレッドです」
「うぃ、る……ウィル……」
———言葉が、体の内側で軋んだ。
渇探流は、震える指でウィルフレッドの顔へと手を伸ばす。
———その途中で、盛大に吐血した。
「……はっ……?なん……」
「なんでやああああああ!!」
「うぃ……ゴホッ……ウィル……?」
「これ絶対さっきのが原因やろ!!渇探流はん!!あんさんは士道ウィルフレッドを愛してなんかおりまへん!!」
「このっ、黄船……!!」
「……愛して、ない」
パチクリ、と、渇探流は瞬きをして———また、盛大に吐血をし出した。
「ああ!!これどないしたらええんや!!ええと、ええと……!!医里渇探流の状態異常は、全てぇが治る!!」
「………………あっ」
そんな間抜けな言葉を最後に———渇探流の瞳に、理性の光が灯った。
「……黄船、ありがとう———大丈夫、みたいだ」
———だが、胸の奥に、言葉にできない何かが、引っかかっていた。
黄船はホッとして、言葉を慎重に探す。何がトリガーになるのかわからない今、いつものテンションで喋ったら『死』に直結するのは目に見えていた。
「とりあえず……渇探流はん、大丈夫どす……?」
「大丈夫だ。黄船のおかげだ。ありがとう」
「渇探流君……」
「ウィルフレッド———あとで、話があるから……逃げるなよ?」
「……はい……」
少し肩を落としたウィルフレッドの頭を軽くゲンコツしてから、渇探流は巨大キノコの下へと降りていった。
「士道はん……もうさっきのは無しやで?」
「わかってます……渇探流君がああなるなら、やる意味はありません……」
「……言いたいことが言えへんいうのは、もどかしおすなあ……」
絶対に、この世界から出たらどついたる。
そう決意しながら黄船もキノコから降りようとした時、下から「ぎゃーーー!!」と叫ぶ渇探流の声が聞こえたものだから、黄船はウィルフレッドと共に最速で下へと降りた。
下へと降りた先には———巨大な、キセルを吸っている芋虫がいた。
「———やあ、お客様。ここのルールは理解し始めたかい?意味のある言葉以外にも、ちゃんと言葉には意味があるんだよ?」
「……もう一度、理解ができるように言ってもらえるか?」
渇探流は巨大芋虫にビビって大声を出してしまったことに少しだけ気恥ずかしさを感じながらも、ゴホンと咳払いをして話を進めた。
巨大な芋虫はプカリとキセルをふかし、渇探流を気怠げに見やる。
「———そのままの意味さ。意味のない言葉なんてない……ただし、『誰』にとっての意味かは、別の話だけどね?」
「———つまり、相手側にとって、どう『解釈』をされるか?ということか?……いや……違うな。もっと厄介なものか?」
黄船とウィルフレッドは、首を傾げた。




