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探索者インワンダーランド

「いっけなーい!遅刻遅刻〜!!」


———その日も、世界は通常運転で理不尽だった。

渇探流、ウィルフレッド、黄船と、いつもの三人でかしましく街を歩いていると———目の前に、時計を持った白兎が古の少女漫画の台詞を吐きながら突撃してきたからだ。


「あぶねぇなぶつかるぞ!?」


渇探流はその可愛らしい白兎を避けようとしたが、当たり屋か?という勢いで直角に曲がってきた白兎は、渇探流の足にしがみついてきた。


「君たち!!遅刻だよ大遅刻!!首を刎ねられちゃうよ!?」


白兎はとにかく焦った様子で「遅刻遅刻!!」と、まくし立ててくる。


「———はあ?」


渇探流がそう言った瞬間———目眩。

思わず道連れだと言わんばかりに、渇探流はウィルフレッドと黄船の腕を掴んでいた。


「渇探流君……!!」


感動したような声と。


「渇探流はん……!?」


困惑した声が聞こえて来て———暗転。

次に目覚めたそこは———ワンダーランドでした。


「出たよいつものクソ展開!!どこだここは!?」

「こりゃ……あれでっしゃろ……?有名な童話の……」

「渇探流君、何があるかわかりません。私の後ろに」

「うるさいぞウィルフレッド、俺に指図するな」


渇探流はウィルフレッドの言葉を無視して、辺りを見回す。

そこは鬱蒼とした森のど真ん中らしく、見たこともない植物が青々と茂っている。

渇探流は頭の中から植物辞典を取り出してパラパラとめくってみたが、該当する植物は見つけられなかった。


「これは……!!新種の植物、か……!?」


渇探流は手袋をはめると、キラキラした瞳で植物を触ろうとして———その手を、ウィルフレッドに取られた。

ムッとして、渇探流はウィルフレッドを睨みつける。


「ウィルフレッド、手を離せ」


渇探流がそう言った途端———ウィルフレッドの手が、まるで何かに弾かれたかのように、渇探流の手から『吹っ飛んだ』。


「……へっ?」

「———っ、———」


さらに、ウィルフレッドは、ハクハクと口を動かしているのに、声が聞こえて来ない。


「ウィルフレッド……?」

「おやおや、新しいお客様は、さっそくやらかしちゃったみたいだにゃ〜」

「———今度はなんだ!!」


頭上からかかった声に、渇探流たちは顔を上げた。

そこには一匹のチェシャ猫がおり、のんびりと木の枝に寝そべっている。

くしくし、と、顔を撫でながら、チェシャ猫は続けた。


「ここはワンダーランドだにゃ〜?意味のある言葉はナンセンス。意味が成立した瞬間、それは現実になるんだにゃ〜」

「全くもって意味がわからないが!?」

「ヒッヒッヒ。そこの人間が話せなくなったのは、あんたのせいだにゃ〜。答えを出してあげるなんて、わちしは優しいチェシャ猫だにゃ〜」


そう言うと、チェシャ猫の姿は段々と薄くなっていき、しまいには———消えた。


「ウィルフレッドが話せなくなったのは……俺のせい?どういうこと……だ?」

「あのチェシャ猫、意味が成立した瞬間現実〜とか、言うてはりましたが……」

「意味が成立……?意味が成立……おいおいこれ……もしかして……?黄船、少し離れていろ」

「……?了解でっせ」


黄船が少し離れたことを渇探流は確認すると、こう、喋ってみた。


「俺は、10センチほど浮くことができる」

「………はい?」


黄船は頭に盛大なハテナマークを浮かべたが———次の瞬間、渇探流は本当に———10センチほど、浮かび上がった。


「はいーーー!?ちょ、これ……渇探流はん!?」

「うおっ、ちょっと楽しいなこれ……いや、違う違う。洒落にならん。黄船、ウィルフレッド……この世界———言った言葉が、そのまま真実になる———世界っぽいぞ」

「…………ヤバない?それ」

「あっ、バカ」


ヤバない?と黄船が言った瞬間——その言葉が『意味を持った瞬間』、地面の影がざわりと動いた。


「ツッコミに気をつけろ!!こういう事態に陥る———あっ!!」


———『陥る』という言葉に呼応するように、地面が崩れた。


「かっ、渇探流はんのアホーーー!!」


渇探流達の地面は割れ———一瞬の、浮遊感。

その後、重力へと従い、三人は深い深い穴へと、落ちていった。

ちなみに、ウィルフレッドはずっと何かを喋り続けていたが、誰にもなんにも伝わらなかった。

———そして、黄船は重大な失敗をしたことを、後で知ることになる。

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