トングを譲渡したらパン屋が爆発した
「『あの子のハートを物理的に射止めるメロメロメロンパン(1%)』下さい」
「やめろウィルフレッド早まるな!!『物理的に』って文字が読めねぇのかお前は!!」
「ほなうちは『ワンチャンある食パン(成功率10%)』買うわ」
「何をワンチャンさせる気なんだ!?ギャンブルが過ぎないか!?」
「ちなみに食べるのは渇探流はんどす」
「純粋に何でだ!!」
カチカチカチカチ、トングを鳴らしながらのボケとツッコミに、渇探流は早くも疲弊してきた。こんな時に響がいてくれたら同じくツッコミに回ってくれるのに———と、渇探流が目を他の棚にやると。
『別世界線に行けるパン』
「こっ……これはちょっと……心惹かれる……な?」
「渇探流君!!だめですやめて下さい!!」
「せやで渇探流はん!!好奇心に負けたらあきまへん!!」
「———こちらのパン、オススメですよ———どこの世界線へ行くかは、運次第ですが」
「ふむ……しかし、ここよりクソな世界なんて、そうそう無いのでは……?」
「あかんわ渇探流はん、帰りまひょ!!もうパンとかどうでもええわ!!」
「珍しく意見があったな、黄船。そうです渇探流君、帰りましょう。このパン屋はクソだった、以上です」
「———おや、こちらの商品はお気に召されませんでしたか?では———こちらをどうぞ」
店員は、ショーケース内に一つだけ、ポツンと残っているパンを、指し示した。
『選択者の後悔』
「……はっ、ずいぶんとまあ、皮肉が効いてやがる———」
「当店、自慢のパンですよ」
「いらん。帰るぞ黄船、ウィルフレッド」
「当店、トングを取られたお客様は、商品を購入しないと帰れないシステムとなっております」
「———ほう?『トングを取られた』?ねぇ。俺には押し付けられたという認識なんだが?」
「手に取られた時点で、ルールは適用されます。ルールを破れば、爆発します」
「———では、このトングを『譲渡』しよう。ほら、受け取れ店員」
「———はっ?」
「あっ、ほならうちのもあげます」
「私のもどうぞ」
「えっ———?あっ、あっ……???」
店員は手に乗せられた三つのトングを持って、オロオロし出す。渇探流はそれを横目に見やって———踵を返した。
「出るぞ黄船、ウィルフレッド」
「はいな〜」
「はい、渇探流君」
「まっ……またのご来店を、お待ちしております……!!」
店員の焦った声を背後に、渇探流達は堂々と店を出た。
———瞬間。
一拍後。
ドォン、と、腹に響く音が、聞こえてきた。
振り向くと、そこには———木っ端微塵に吹き飛んだ、パン屋の残骸。
「ばっ……!!」
渇探流は、口元を抑えた。
「爆発オチなんて……クソッ!!言わねぇぞ!?絶対に俺は言わねぇからな!?」
「渇探流はんが何かと葛藤しとる」
「そんな渇探流君も可愛いです。結婚しましょう」
「寝言は寝てから言うてもろて」
「はっ?」
「はい?」
「やめろ俺を挟んでバトるな!!とりあえず———ランチだ!!まともな店でランチを取るぞ!!」
「フレンチ、予約しますね」
「もうそこでいい!!とにかく腹が減った!!そこらの怪しいラーメン屋とかでもいい!!」
「下手な店に入ると、客が調理されるさかい、気をつけなはれや」
「気をつけるの基準がバグってるんだよなあ!!」
そんな、いつもの会話をしながら道を行く三人を———『別の時空』から見る目が一つ。
「譲渡、とは、初めての手でしたねぇ」
綺麗な、無人の店内で、店員はにこやかに笑う。
ショーケースの中に一つだけ、ポツンと残されていたパンは———その、名前を変えていた。
『被験者:医里渇探流』
「あなたのこれからも———楽しみに、『観察』させて、いただきますよ」
クスクス、と、店員は笑って———消えた。




