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世界の外側で、君と

「私は……」

「やめて、寿々派をたぶらかさないで……!!」

「たぶらかしてなどいない。ただ、意見を聞いているだけだ」

「寿々派、このままでいいでしょう?このまま、二人で生きていきましょう?この異物二人は排除して———二人で」


異物を排除の時点でウィルフレッドが動きかけたが、それを渇探流は手で制する。


「渇探流君———」

「たぶん、大丈夫だ」


渇探流がそう言うそばで、寿々派は困ったように菜月を見ていた。

しばらく言葉を頭の中でまとめていたのだろうか。沈黙を挟んでから———寿々派は、話し始めた。


「あのね、菜月ちゃん———」

「いやよ。いや」

「……未来が見えたの?」

「見えたわ。寿々派が、私より世界をとる未来が」

「世界より、菜月ちゃんの方が大事だよ……」


渇探流は黙って、片眉を上げる。

しかし、口は出さない。

寿々派は、続けた。


「でもね、菜月ちゃん……私一人のために、みんなの時を止めちゃうのは———ちょっと、違うかなぁ……って、私、思うの……」

「私は、世界よりも寿々派が大事だわ」

「私もそうだよ、世界よりも菜月ちゃんが大事。大事だけど、それで世界を巻き込むのは———違うよ」

「いやよ、いや……!!寿々派……!!」

「だからね、菜月ちゃん———バイバイ、しよ」

「いやぁ……!!」


菜月は、泣き崩れた。

渇探流は少しだけ考えて———二人に、こう、提案する。


「寿々派、お前の言い分的に、菜月と二人でいるのはいいが、世界を巻き込むのが嫌。という考えでいいのか?」

「えっ……うっ、うん……菜月ちゃんとは、離れたくないけど……世界が私のせいで止まっちゃうのは……荷が重い、かな……」

「そうか———ならば」


渇探流は、ニヤリと笑った。


「二人だけを、世界から切り離せば、問題解決ではないか?」

「「……えっ?」」


キョトン、として、女子二人は、渇探流を見た。


「簡単な話だ。二人を観測されない世界へと『隔離』する。世界の時は動き出す。お前らはずっと二人きりの世界でいられる。Win-Winだろ?」

「そんなこと……できるの?」

「諸事情あって、別世界線への移動の仕方を研究していてな。その中に別世界線———というより、丸い別時空の球体を作り、その中に永遠に閉じ込める、という魔術があることを発見してな」


使えない魔術だと思っていたんだが———この状況に、ピッタリだろう?と言って、渇探流は笑った。

しかし、寿々派は難しい表情をしたあと、待って。と、声を上げた。


「その別時空に送られたら……私たち、どうなっちゃうの?」

「何も変わらない。時が止まったまま、永遠に、二人だけでその世界に存在し続けるだけだ」

「それって……もう、誰にも会えないし、パンケーキも、菜月ちゃんの作ったご飯も食べられないって……こと?」

「そうだな」

「寿々派……私、それでもいいわ……!!いえ、それがいいわ……!!貴方が死なない世界なら、何でもいい……!!」

「菜月ちゃん……」

「———選べ。柿本寿々派」


渇探流は、無表情で寿々派を見つめる。

寿々派は何度も口を開けては閉じてを繰り返して、中々言葉を発しようとしない。

しかし、渇探流は待った。

それから何分経過したか———いや、実際の時間は進んでいないのだが、かなりの間、沈黙が続いた。

寿々派は、泣きそうになりながら、首を縦に振った。


「お願い……します。菜月ちゃんと、一緒の世界に……閉じ込めて、下さい……」

「寿々派……!!」

「———いいんだな」

「……はい」


表情が明るくなった菜月とは対照的に、寿々派の表情は晴れない。

しかし———頷いたのだ。

渇探流は、手を差し出す。


「二人を隔離する前に、世界の時の進め方を教えてくれ。その腕時計が———核、だろう?」

「……ええ……そうよ。この時計を壊せば———世界は時を、取り戻すわ」


菜月はそう言って腕時計を外すと、渇探流へと渡した。

その腕時計を持った渇探流は、しげしげと観察をしてから、手の中に握り込む。


「では、やるぞ。二人とも、目を閉じろ。気持ち悪くなる」

「……わかったわ」

「はっ、はい……!!よろしくお願いします……!!」


二人は、ギュウッと、手を握った。

渇探流は片手を上げて、名状し難い呪文を唱え出す。

———正気度喪失、マジックポイント喪失。

渇探流の顔色は土気色になり、フラリと身体が揺れるが———それを、ウィルフレッドがそっと支える。

最後の文言を口ずさんだ時———空間が、歪んだ。


「その中に入れば———晴れて、二人だけの世界だ」

「ええ……ありがとうございます。行こう、寿々派」

「うっ、うん……ありがとう、ございました、渇探流さん……!!」


二人は手に手を取って、その歪んだ空間———いや、『檻』へと、自ら入っていく。


「……じゃあな」


渇探流がそう言ったあと、空間ごと———二人の姿は、消失した。


「……流石渇探流君ですね、合理的です」

「……どこがだ」


そう言いながら、渇探流は手の中の時計を、握りつぶした。

———世界が、動き出す。


「……さて、今日はどうしようか」


コーヒーを落とした会社員が叫んでいたり、突っ込んだダンプカーが人や異形を轢いたり、化粧をしながら歩いているOLが目にマスカラを入れたりと、世界は今日も騒がしい。

———その中に、あの二人はもう、いない。


「このままデートをするというのはどうですか?」

「最悪の提案をありがとうウィルフレッド。ちなみに———柿本寿々派と、鈴木菜月という人物に、心当たりはあるか?」


渇探流が問いかけると、ウィルフレッドは無表情で、小首を傾げた。


「……?いえ、存じ上げませんが……」

「だよな。さて、黄船でも呼んで———今日も元の世界に戻るための手がかりでも、探すとしよう」


渇探流は、いつもの足取りで、歩き出した。

———後ろは、振り返らない。

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