止まった世界で、今日死ぬ君と
「二人だけしか動けない世界って、なんだか幸せですね、渇探流くん」
「よし、とっとと原因究明して世界救うぞ。お前と二人きりとか息が詰まる」
「それを人はトキメキというのでは?」
「ほざいてろ。そして死ね」
渇探流は一通り施設を見て、渇探流とウィルフレッド以外に動く人物がいないことを確認すると、外へと出ていった。
相変わらず通るとクラクラくる出入り口を通って、東京へと降り立つ。
———そこは、完全に停止した世界であった。
ちょうど通勤時間帯だったのだろう、多くの人がスクランブル交差点を通ろうとしたまま、固まっている。
そこに突っ込むダンプカーも、コーヒーを手元から落として慌てている会社員も、歩きながら化粧をしているOLも、全てが全て、止まっている。
「みんな———止まってる……な……」
「はい、動けているのは私と渇探流君ぐらいのようですね」
「……毎度毎度、なんで俺とお前はこういうとき、動けるんだろうな……」
「それは、私と渇探流君だからですよ」
「答えになってねぇ」
とりあえず渇探流は何か異変はないかと探し出そうとして———そのとき、甲高い女性の声が響いた。
「あーーー!!動いてる人がいるの!!よかったの!!菜月ちゃん、他にも動いてる人がいたのーーー!!」
「そうね……寿々派……予定より早かったけど……よかったわね……」
明るく元気な女性と、物静かな女性の、二人組だった。
一人は高い位置でくすんだ金髪をポニーテールに縛っている快活そうな女性で、もう一人は黒髪ストレートで、大人しそうな女性だった。
二人は手を繋いで、渇探流たちへと駆け寄ってくる。
「お二人はなんで動けてるんですか!?私と菜月ちゃ———っと、自己紹介が先ですね!!私の名前は柿本寿々派っていいます!!今日が誕生日で、20歳になるはず———でした!!こちらは鈴木菜月ちゃん!!私と同級生の大学生です!!」
「……どうも……」
「こんちに———いや、時間帯的におはようございますか?俺の名前はカトゥール・ウェンライト———より、ここでは医里渇探流と名乗った方がいい……のか?こっちは士道ウィルフレッド。俺の護衛……だ」
渇探流は苦い表情でそう言ったが、寿々派の表情がパァッ、と、輝いた。
「あの医里渇探流さんですか!?テレビとだいぶ印象が違いますね!?あっ、変な意味じゃないですよ!?ただテレビとかなり印象が違ったってだけで失礼な意味は一つもないんですーーー!」
「寿々派……話せば話すほど、墓穴を掘ってるわ……」
「ええーーー!?なんで!?」
「……かしましいお嬢さんだな……」
「処理しますか?」
「お前は行動を慎め」
「時の止まった世界で渇探流君と二人きりでいたいという願望が少し出ました」
「一生心の奥底に沈めとけそんな願望!!」
「お二人とも、仲が良いんですね!!私と菜月ちゃんみたい!!」
「———んんっ、ゴホン」
渇探流は咳払いをしてから———スクランブル交差点のど真ん中で話している二人に、改めて向き直った。
そして———菜月を、見る。
「鈴木菜月とやら———先ほど、『予定より早い』と言っていたな?あれは、どういう意味だ?」
渇探流の言葉に、鈴木菜月は、微かに笑った。
「……そのままの意味よ。本当は———もっと後で、会うはずだったから」
———その瞬間。
止まっていた信号機の光が、一瞬だけ『切り替わった』。
「菜月ちゃんはね、ちょっとだけ未来が見えるの!!」
「———未来?」
「うん!だから、そのことだと思う!!二人が会うのはもうちょっと先だったって———ねっ、菜月ちゃん!!」
「……そうね……そういう意味も……あるわね……」
「ふうん?」
渇探流は少し引っかかりを覚えたが、それをここで追求するべきではないと考えた。
まずやるべきことは———フィールドワークだ。
「俺たちは、とりあえずこの世界を見て回ろうと思う。二人はどうする?」
「えっ、もちろんついて行かせて下さい!!二人だけは心細いものー!!」
「……寿々派は……私と二人は、嫌なの?」
「えっ!?そういう意味じゃないよ!?でもほら、私と菜月ちゃんだけだと、何かトラブルが起きた時に大変でしょう!?渇探流さんたちはこういうののプロ?だし、一緒に行く方がいいと思うのー!!」
「私は……寿々派と二人がいいわ……」
「でも、菜月ちゃん、私———今日、死ぬんでしょう?」
その言葉は、やけに重く、世界に響いた。




