カーチェスの終わりと新たな異常
「俺は、カトゥール・ウェンライト———医里渇探流だ!」
———と、叫び続けて、はや1時間。
渇探流の唇は、紫色になっていた。
「まだ終わんねぇのかよ!?化け物どんだけ増えてやがったんだこれぇ!?」
「海が緑色になってきましたねぇ」
「海域汚染が半端ない!!頼むから海へ影響は出ないでくれ!!」
「渇探流はーん!!もうちょいやでーーー!」
「カトゥール、ラスト一体だ!!」
「ようやくか!!こちとら身体が冷え切って死にそうなんだ!!」
「私が暖めましょうか?」
「なんでその提案が通ると思った???」
———ボチャン。
———ジュワッ。
最後の一体が海へと消えていき———辺りが静かになったことを確認すると、渇探流は港へと泳いで行った。
海は化け物の液体なのか、真緑になってしまっているが———異形達の謎技術で、なんとかなると信じたい。
渇探流は緑色だらけになりながら、響と黄船に引っ張ってもらい、ようやく海から脱出した。
ウィルフレッドは普通に上腕二頭筋の力だけで上がっていた。素直に羨ましいやら、シンプルに死んで欲しいやら。
「……はぁー……化け物は……全員、死んだか……?」
「死んだ……と、思う。もし生き残りがいたなら、その時はまた海へダイブだな、カトゥール」
「今度は響も道連れにしてやる」
笑い合いながら拳を合わせる二人に、黄船が割り込んでいった。
「ちょお、渇探流はん?臨時護衛はうちどすえ?道連れにするならうちしてや」
「斬新な自殺志願者だな??」
「違います〜、渇探流はんとなら死んでもええっちゅうことです〜」
「はいはい、リップサービス分も、金額に上乗せすればいいんだな?」
「お金とちゃいます!!」
「お前に金以外何を払えと言うんだ!?」
「———渇探流君は渡しませんよ、賀茂黄船」
ぬらりと、全身緑色のウィルフレッドが、渇探流の前へと立ちはだかった。
渇探流は嫌な顔をし、黄船は嫌悪の表情を向ける。
しかしウィルフレッドだけはいつもの無表情で———渇探流へと向き直った。
「渇探流君———先ほどのお言葉、忘れないで下さいね?」
「先ほどのお言葉ぁ???」
「私が———他の『医里君』と、『貴方』を区別できた場合———考える、と」
その言葉を聞いて、渇探流はニヤリと笑った。
「できもしねぇ思想を垂れ流すのは勝手だが———俺は、行動でしか評価しねぇぞ、ウィルフレッド」
「はい。存じております」
そんな二人の背後———海が、一瞬『止まった』。
海面も、飛沫も、緑色の液体でさえ、止まる。
しかし———次の瞬間、何事もなかったかのように、時間は進み出した。
渇探流達は、誰もそのことに気がつかない。
「寒い!!とにかく着替えたい!!」
「ですから、私が暖めて差し上げます」
「うちの服着ます?ダボダボになりそうでんが」
「黄船のバイクでカトゥールの『家』に戻るのが最速だろう。それでいいか?カトゥール」
「響……!!頼むからそのままのお前で一生いてくれ響……!!」
「俺は一生優秀な刑事のままだが??」
「それでこそ響だ……!!」
「あかん。渇探流はんが壊れとる」
「一時間海にいましたからね。思考力も低下するでしょう」
好き勝手な言われようだったが、渇探流はそのまま家に帰り———暖かいシャワーを浴びてから、ベッドへと潜り込んだ。
———その時、すでに次の『異常』は、起こっていたのに。
そんなことすら露知らず、渇探流は、暖かいベッドで寝こけていた。
———その時が来るまで、あと、8時間。
渇探流は爆睡して、目が覚めて———何も考えずに洗面所に行って、顔を洗おうとした。
しかし———水が、出ない。
「……故障、か……?」
いくら蛇口を捻っても、水が出る様子はない。渇探流は諦めて、とりあえず服を着て———食堂へと向かう道すがらで、異様な光景を見た。
廊下で、まるで固まったように———というか、実際に『固まっている』、この施設の職員達。
既に異常に慣れてきた渇探流は、慎重にその一体を触ってみた。
———完全に、『停止』している。
「……こりゃあ……また新しい、異常か……?」
渇探流がそう言って頭をボリボリと掻いていると、背後から声が聞こえてきた。
「———渇探流君!!」
「……なんでお前は動けてんだよ、ウィルフレッド……」
胡乱げな瞳をウィルフレッドに向けて、渇探流は吐き捨てた。
ウィルフレッドは「運命ですね」なんて、トンチンカンな返事を返した。
———さて、新たな地獄の、始まりである。




