カーチェイス!!
浜田純正が死んだあと———世界は一時的な平和を取り戻した。
世界は、異常が終わったかのように振る舞っていた。
———それが、最高に気持ち悪かった。
紅は、消えた。
雨の中———「ありがとう、渇探流」と、礼だけを言って。
———振り返らなかった。
それが、最後だった。
そして———渇探流は、現在。
絶賛、追われている。
「響!!響いいいいい!!これ大丈夫なのか!?ダメじゃないか!?」
「ふっ、俺にまかしておけ———なんてったって俺は、優秀な刑事だからな」
「ドライブテクニックに刑事関係ありまへんやろ!?」
「あっ、次左に曲がらないと———死にますよ」
「俺は!!なんで理不尽に!!巨大生物に追われているんだあああああ!!」
渇探流の叫びは、車内でこだました。
———その瞬間、『それ』が進路を変えた。
名前を呼ばれた対象を『生贄』と誤認識する———そんな雑すぎるルールで動く、化け物が。
渇探流は泣きそうになりながらも、声を張り上げる。
「こんなところで、死んでなんかやるものか!!親の死に目なんて見たくねぇけど、自分の死に目は自分で決めてぇんだ、俺は!!こんなクソ世界なんて!!いつかぶっ壊してやるうううううう!!」
「おっ、犯行予告でっか?渇探流はん」
「余裕かよ黄船シンプルに死ね!!」
というわけで、時は少し遡る。
白石響は、内密に警部補に呼び出された。
ふっ、これはさては、優秀な俺にしかできない仕事か?まあ泣く子もゲラゲラ笑うほど活躍しているこの白石響様に解決できない事件などないがな———などと考えながら会議室へと赴くと、上司は開口一番、こう言って来た。
「白石、君、医里渇探流と仲よかったよな」
「えっ?はい。仲はいいです」
「そうか、じゃあ。ちょっとその人類の希望、救って来て」
「んんんんん??」
「とある宗教団体が、医里渇探流を生贄としてタゲったらしい。医里渇探流を連れて、逃げろ———ついでに、その教団、潰して来て」
「ふっ、この優秀な白石響にお任せを。それで、何人でこの任務につくんですか?」
「えっ?優秀な君なら一人でできるでしょ?」
「えっ?ひっ、一人ですか!?」
「えっ、できないの?」
「できますけれども!!」
「だよね、できるよね。ちなみに、止められなかったら世界滅亡するから———頑張って」
「なんで応援よこしてくれないんですかその規模で!!」
そんな会話がなされたあと、響は早速渇探流———は、スマホが使えないので、黄船に連絡し、渇探流と黄船とウィルフレッドを回収。その教団がある場所に向かおうとしていたところで———現在である。
「俺が一体何をしたっていうんだ……!!存在か?俺という輝かしい存在それ自体が罪だというのか?」
「いやあ、渇探流はん、案外間違うとりまへんえ?人類の希望でもありますし」
「そうですよ、渇探流君は色んな人間から狙われます。だから私が囲い込みます」
「ウィルフレッドはとりあえず死ね!!そんで俺のこと今守ってんのは、響の車だけどなあああああ!!」
バックミラーに映ったそれは———無数の目を持つ、異形だった。
目はそれぞれ勝手な方向を向き、触手は迷うように空を掻いている。
———まるで、『どれを狙うべきか』理解できていないかのように。
「響!!」
ギョロリ。
「なんだカトゥール」
ギョロリ。
「あいつ、名前呼ぶたびにこっち見てくるんだが!?なんか知らねぇか!?」
「これは、推測なんだが———」
「おーい悟ー!こっちこっち!ウケる化け物が———あっ」
その瞬間、触手が伸びた。
———その一般通行友人は、化け物の触手に絡め取られ、パックンチョされた。
「———とりあえず、『名前』を呼ばれたものを、片っ端から狙ってるんじゃないか?」
「ガバ判定にも程がないか!?今!!一般人が食われたぞおい!!刑事!!」
「大丈夫だ。既に何人も食われてるし、誰も止められてない」
「何も大丈夫じゃないが!?むしろ大丈夫な点を丁寧に一つずつあげていけ!!」
「あのぉ化け物、めっちゃ道路壊しながら追ってきとりますが、あれ……修繕費いくらかかるんやろ……」
「黄船はここでも金の心配か!?お前ら、人間性を保て!!ウィルフレッドはなんで生きてんだよ死ね!!」
「渇探流君と一緒ならいつでも死にますよ?」
「誰がお前と死ぬかバーカ一人で死ね!!」
車内は混乱の坩堝と化していたが、響だけはいつ通り、通常運転で平常心であった。優秀な刑事はどんな時でも心を乱さないものだ。by響。
響はマニュアル車の社用車、そのクラッチをベタ踏みする。ギアを即座に入れ替えて———最速で、最大馬力を叩き込む。
グンッ、と、車のスピードが上がって、渇探流たちの背中は、シートに押し付けられた。
「———よし、このまま、教団に突っ込むか」
「活きの良い自殺宣言が聞こえて来た気がするが!?」
「まあ聞け、カトゥール。あの化け物は非常に雑ではあるが———やんわりと、カトゥールのことは狙っている。今ついて来ているのが、その証拠だ」
「嫌な現実を突きつけて楽しいか??」
響は、フッと笑った。
「どうせ、追いかけて来るんだ———教団と潰し合わせたら、楽しいと思わないか?」
響の言葉に、渇探流はパチクリと瞳を瞬かせた。
そして———ニヤリ、と、笑った。
「なんだその最高のプランは———!!面白い!!やってやろうぜ響!!」
「渇探流はんも、ええ具合に染まって来ましたなぁ」
「死ぬなら二人きりがいいです渇探流君」
「ああもう会話がカオスなんだよ!!お前ら少しは脳みそ使って喋れ!!」
そうして車は順調に教団本部へと向かう———わけが、なかった。
なんか、化け物が二体に増えた。




