家族の終わらせ方
「純正お前……両親はいないって、言ってたよな……?父親は、どうしたんだよ……!!」
「えっ?殺したけど」
ざあざあ。
雨が、降る。
紅は、理解できないと頭を振って、声を張り上げた。
「お前がやってることも、結局は人殺しじゃねぇか!!」
「違うよお。全然違う。パパはね、ママのこと、しょうがないって言ったんだ。人殺しのことを、許そうとしてた。そんなの———許せるわけ、ないじゃん」
理屈が通っているようで、通っていないな———と、渇探流は冷静に呟いたが、その言葉は、雨音にかき消された。
紅は、それでも諦めない。
「なあ、純正———こんなこと、止めよう?なっ?これからは、俺がお前の『家族』になるし、人殺しも———やめる。だから」
「過去に起こした出来事は、消えないよお」
無邪気に、純正は笑った。
紅は、青ざめた。
渇探流は———冷めた視線で、二人のやり取りを見ていた。
「こーにぃ、大好きだよ。だから、世界が浄化されるのを、僕のそばで見て———それで、死んで?」
紅は、何も答えることが、できなかった。
純正は間違っている。
それだけはわかるのに———なんと言葉をかけたら伝わるのかが、まるでわからない。
黙った紅を見て、純正は渇探流たちに視線を向けてきた。
「もちろん、君たちも排除対象、だからね?」
「心当たりが、まるでないんだが?」
「医里渇探流は、助けられた命を切り捨てた罪。士道ウィルフレッドと賀茂黄船は、そのまんま、殺人罪」
みーんな、皆殺し!
崩壊している理論を振りかざして、しかし少年の目に、迷いはない。
「人殺しがいない世界!!すっごくいい世界でしょう!?ねっ、こーにぃ!!」
「……だめだ」
「えっ?」
「……だめだ!!純正!!」
紅は、純正に近づいていった。
純正は、小首を傾げて、それをただ見ている。
紅は、純正のすぐそばまでくると———純正を、抱きしめた。
「……こーにぃ?……冷たいよ……」
「純正、その考えは、間違ってる……!!だから、だから———」
「間違い?」
その言葉で、明らかに純正の温度が、下がった。
純正は軽く手を動かす。
しかし、その仕草だけで、紅は数メートル、吹っ飛んだ。
「紅!?」
「あれま」
「……………」
渇探流はグロック19を引き抜き、黄船はアサルトライフル、ウィルフレッドは拳銃を引き抜く。
その中で———紅は、ゆらりと立ち上がった。
「じゅん、せい———」
「僕の何が間違ってるって言うの?こーにぃもやっぱり人殺しだから、狂ってるの?僕は———僕は、何も、間違ってない!!」
「純正……」
ふらつく足取りで、紅は純正に近づいていく。
純正は、ここで初めて、拒否の姿勢を見せた。
「来ないで!!来たらこーにぃのことも、殺しちゃうから!!」
「———ごめん」
「………えっ?」
「ごめん、純正———ごめん」
「なっ、なんだぁ、こーにぃ、わかってくれたの?」
目に見えて、純正の機嫌が上向いていく。
ざあざあ。
ざあざあ。
雨が、降る。
紅は———再び、純正を抱擁した。
それを、純正は喜んで、受け入れる。
紅の背中へと手を回し、キャッキャと声を上げた。
「こーにぃ、わかってくれた?これからも、僕の家族でいてくれる?」
「もちろんだ、純正———俺たちは、ずっとずっと、家族だ」
「えへへ、嬉し———」
パン。
と、乾いた音が鳴った。
「…………?」
純正は———わけがわからないといった表情で———倒れていく。
その、後頭部には———銃痕が。
「……ガハッ……」
『自分ごと撃ち抜くように』———純正を抱きしめたまま、拳銃を撃った赤井紅は、その死体のそばで、ゴロリと寝転んだ。
ざあざあ。
ざあざあ。
雨は、先程まで濡れていなかった純正を、容赦なく濡らしていき———その血を、広げていく。
「純正……俺も……すぐ、そっち……いく、からな……」
紅は、純正の手を、掴んだ。
その手は———まだ、温かかった。
「……結局、みんな……死んじまった、な……」
紅はそう言って、瞳を閉じた。
「———お前には、勝手に終わる権利すらない」
その、冷淡な言葉は、医里渇探流のものだった。
「……渇探流君、治癒の呪文は———」
「俺が使いたい時に使う。お前に意見を言われる筋合いはない」
そう言って、紅の側で跪いた渇探流が、聞き慣れない文言を口ずさむ。
紅の傷がみるみるうちに塞がっていくのとは逆に———渇探流の顔色は、みるみるうちに悪くなった。
ウィルフレッドと黄船が心配そうに渇探流のそばで、渇探流のことを見守っている。
「ああ……お前は……いい、なあ……」
紅は、自然とそう、呟いていた。
数分で———紅の傷は、ほとんど、完治していた。
紅は、ムクリと起き上がって———拳銃で自分の頭を撃ち抜こうとして、黄船に拳銃を、蹴り飛ばされた。
「渇探流はんが身体張って治したこと、無駄にせんといてくれます?」
「……黄船……お前……」
金一筋のやつが、何言ってんだよ。
そう思ったが、紅は、何も言えなかった。
青ざめた顔の渇探流が、紅に言う。
「死ぬな。背負え。それが———お前の、罪だ」
「……はっ、ははっ……」
ざあざあ。
ざあざあ。
雨の中———紅は、笑うことしか、できなかった。




