家族という名の盲信
「……うっ……嘘だろ……!?純正……!?和也!!友成!!茜!!みんな……!!お願いだから、出てきてくれよぉ……!!さっきまで、みんな、寝てただろ……!?いつも通りに!!」
紅は真っ暗な廃墟で、あちこちを走り回りながら、家族の名前を呼ぶ。
しかし———その声に、反応する者は、誰もいなかった。
渇探流たちは中へと入るが、そこは———廃墟を無理矢理片付けただけの、屋敷だった。
床には埃が積もり、壁紙は剥がれ、生活の痕跡だけが中途半端に残っている。
「ここ……人が住める場所、ちゃうやろ……」
「……いかん。思わず同情しそうになった……判断が鈍る。立て直せ、俺」
「渇探流君、埃がついてますよ」
ウィルフレッドだけは通常運転で渇探流の頭に手を伸ばし、その手を叩き落とされる。
「触れる許可を出していない」
「許可なんていりません」
「はっ?死ね」
「死にません。あなたがいる限り」
「……うぜぇ」
渇探流はウィルフレッドから距離を取り、黄船の隣へと移動した。
ドヤ顔をする黄船に、渇探流の見えないところで黄船とウィルフレッドの火花が散ったが、その頃になってようやく———紅が、戻ってきた。
「みんな……!!みんな、いない……!!どっか、行っちまった……!!」
「その家族とやらは、何人いるんだ?」
「……30人、ぐらい……」
「……ふむ?ここから見る限り、争った形跡がない。出入り口付近に限るが、血の跡もない。紅、部屋が荒らされた様子は?」
「なっ……なかった……」
「そうか。ならば、考えられるのはこれだな。『全員が自主的にここを出て行った』。もしくは———『全員、消された』。失踪事件の———被害者としてな」
「なんで……!?なんで、俺の家族ばっかり……!!俺が、何したってんだよ……!!」
紅は再び泣き崩れる。———さっきまで、確かに『いた』はずなのに。
渇探流はそれを、冷たい瞳で見下ろした。
「今、東京中で『連続影残し失踪事件』として騒がれているが?何も消えたのは、お前の家族だけじゃない」
「他なんてどうでもいいんだよ……!!俺は……!!俺の家族さえ、いてくれたら……!!それでいいんだよ……!!」
渇探流は、鼻で笑った。
「狂ってるな———その理屈で、何人殺した?」
紅は、顔を青ざめさせる。
言ってはいけない言葉を、言ってはいけない人物へ、向けてしまった。
しかし、紅は———なんの弁明の言葉も思いつかず、ただただ、俯くことしか、できなかった。
渇探流はそれを見て、短く舌を打つ。
「……話にならん」
渇探流はそう言って———現場検証をしようと、足を踏み出した。その時———渇探流以外の全員のスマホから、音声が聞こえてきた。
『あー、あー、マイクテスト、マイクテスト〜。どうも、皆様こんばんは、秘密結社アーカイブの教祖、時留純正と言いまーす』
スマホから聞こえてきた軽い声に、一番の反応を返したのは紅だった。
「じゅ……じゅん、せい……!?」
『我々秘密結社アーカイブは———犯罪撲滅運動をしておりまーす!特に力を入れているのは、人殺しでーす!僕のママも、人殺しに殺されちゃったからね!』
あくまで明るい語調で、純正は語る。
『この世に犯罪者が生きてる意味ってあるの?日本の司法って甘すぎない?そんな思想を持つ仲間、大募集中だよ〜!今なら入団特典で、『消したい人を消せる権利』、あげちゃいまーす!!ヒントは、わかる人にはわかる、だよー!!あ、そうだ。紅くん———家族、ちゃんと送ってあげたからね!それじゃあ、君たちの入信、心待ちにしてるよ!!』
———そう言って、放送は切れた。
「違う……違う……純正は……そんなこと……」
「頭お花畑も、大概にしろよ?紅」
渇探流はブツブツと呟いている紅を、足蹴にした。
「現実を見ろ」
しかし、それにも紅は、反応しない。
「紅、さっきの純正は、お前が言ってた純正で、間違いないか?」
「……間違いない……俺は……家族の声を……間違えたり、しない……」
「そうか、ならば決定だな。お前の家族は———『時留純正によって消された』。が、答えだろう」
「……違う……違う……!!純正は、俺の、家族だ……!!家族が、家族を消すはず、ねぇじゃねぇか………!!」
「紅、人はそれぞれ、異なる価値観を持っている」
「……………………?」
紅は、何を言っているかわからない。という表情をした。
渇探流は、冷酷に言い放つ。
「お前が見ている、純正とやらの性格は———ただの『一面』に、過ぎないのではないか?……だから、見誤るんだ。俺と、同じように」
紅は、言葉を失った———否定する言葉すら、思いつかなかった。




