もう、間に合わないよ
ミミ、タケミ、カズヤ、アカリ———シロ。
紅は、スマホのGPSを使って、シロたちが最後に居たであろう場所に着いた。
東京の外れ、その場所には———無数の『影』が、蠢いていた。
「ミミ……タケミ……カズヤ……アカリ———シロ」
紅は、影の特徴から、正確にその人物を言い当てた。
影は紅に気がついたのか———紅へと近づいてきては、口々に話しかける仕草をする。
———シロは、肩を組んできた。
しかし、その感触は、紅にはない。
「うそだ……嘘だって……言ってくれ……ミミ、タケミ、カズヤ、アカリ……シロ———」
その言葉に反応をしたのか、影達がよしよしと、紅の影を撫で出した。
紅はそれを見て———気が、狂うかと思った。
「嫌だ……!!嫌だぁ……!!」
紅は、頭を抱える。
このまま壊れてしまえたら楽なのに、と、思った瞬間———背後から、声が聞こえてきた。
「夜の捜査に出てきてみたら———これはこれは、レッドギャング、紅蓮炎の頭、赤井紅じゃないか」
医里渇探流の声が聞こえてきた。
人類の希望。怪異のプロフェッショナル。
そう脳裏によぎった瞬間、紅は泣きながら、渇探流の足に縋りついていた。
———プライドなんて、どうでもよかった。
「医里……!頼む、お願いだ……!!たすけて、くれ……!!」
「俺を医里と呼ぶな。渇探流と呼べ」
紅は涙を拭うこともできず、渇探流の言葉をそのままなぞった。
「わっ、わかった……!!渇探流……!!もう間違えない、間違えないから、助けてくれ……!!」
「ふむ、ずいぶんと必死だな———誰か、消えたのか?」
「家族が……相棒が……!!影に、なっちまった……!!」
「そうか———それは、ざまあないな」
「———はっ?」
「いや、別に。とりあえずの答えだが———『わからん』。だから今、調査をしている」
「わからんってお前……人類の希望だろう!?頼むから、救ってくれよ……!!」
「俺は優秀な人間だが、万能な人間ではない。赤井紅……そうだな、たとえば、仲間が消える前と後、何か気になることはなかったか?どんな小さなことでもいい」
「どんな……?」
その言葉で、紅の頭に思い浮かんだのは。
『———もう、間に合わないよ』
「……じゅん、せい……?」
「……心当たり、あるみたいだな?」
「いや、でもアレは……子供のざれごとみてぇなもんだろうし……深い意味は、ないと思う……!!」
「ほう?ざれごと。その子供は、なんと言ったんだ?」
「…………………」
紅は、一瞬黙った。取り返しのつかないことを話してしまった気がして、汗が伝う。
しかし———仲間の影が紅の周りを囲んでいるのを見て、顔を上げた。
「もう、間に合わないよ……って……言ってた……」
「ほう?どうやら———限りなく、クロに近い人物……そうでなくても、何か情報は握ってそうだな。なあ?黄船」
「いやあ、うちはクロやと思いまっせ?」
ヒョコリ、と渇探流の後ろから黄船が、更に、仏頂面をしたウィルフレッドが出て来て、紅は少したじろいだ。
この、流れからすると———
「さっそく、その子供がいる場所に行こうじゃないか。フィールドワークの基本は聞き込みだ」
「……断る」
「ああ?」
「……家族を、危険に晒せない」
「おかしな話だ。先ほど俺はお前に、助けてくれと縋りつかれたはずなんだが」
「それは……!!シロたちを元に戻して欲しくて言ったんだ……!!俺の家族に疑いをかけるなら、連れて行けない!!」
「本当にお前は……家族家族と、虫唾が走る———家族以外は、どうでもいいくせに」
渇探流は、目に見えて不機嫌になった。
紅は、項垂れる。
「その……皆吉愛生の件は……本当に……悪かった……あれも……家族のためで……」
「その件だが、なんで俺は、その皆吉愛生とやらに大金を叩いているんだろうな?黄船」
「渇探流はん、人間、気がつかない方がええ事実ってのはあるさかい」
「のらりくらりとかわしやがって」
チッ、と渇探流は舌打ちをした後、紅を見下ろした。
「今更どう足掻いても、結果は決まっている。自分でその子供のところへと案内するか———もしくは、無理矢理『案内させられる』か」
選べ。と、渇探流は尊大に言い放つ。
紅は、迷った。
迷いに迷って———己の影に、相変わらず親しげに接する家族の影を見て———顔を、上げた。
「……案内、する」
「最初からそう言えばいいんだよ」
しかし、そう言って紅が案内した家には———人っこ一人、いなかった。
———静かすぎるほどに、空気が凍っていた。




