最後の接触
「———ってなわけですさかい。渇探流はん、うちにご褒美くれてもええんとちゃいます?」
「よし、口座に振り込んでおこう」
「ちゃいます。もぉっと、価値あるもんどす」
「……金塊とかか?」
影が蠢く大都会———東京のカフェテラスで、渇探流は黄船から報告を受けていた。
昨日よりも、明らかに『影』が、多い。その影達はまるで自分達が生きているかのように振る舞い、その一つなどは、渇探流に話しかけるような動作をしている。
その影を———ウィルフレッドが、踏んだ。
それだけで、その影は、『消滅』する。
渇探流はゲンナリとした視線をウィルフレッドに向けた後———黄船に、視線を戻した。
「本体を失った人間が、影だけ残る。と、黄船は言いたいわけだな?」
「全員が全員とは言えへんと思います。本体が消えたちょい後に影が消えることもあるさかい。規則性がわかりまへん」
「……考えられるとしたら———『罪の重さ』とかか?」
「はいぃ?罪ぃの重さぁ?」
「古来より、罪は個人に蓄積されていく。罪のない者、少ない者はスムーズに天国に。逆に、罪が重い者は現世を彷徨ったり、地獄に落ちるまでに幾度もの裁判を受けることになる———」
「ほなら、罪ぃの重いもんが、『影』になっとるっちゅうわけですか?渇探流はん」
「あくまで推測だ……響なら、違う見解を出すかもしれん。あいつは『熟練者』だからな、黄船生徒」
「……うちは生徒扱いでっか?渇探流はん」
「頼れる情報屋だとも思っている。こうして、俺が聞く前に調べてくれてたわけだしな」
「……ウィルフレッドはんよりも?」
「はっ?当たり前だが???」
渇探流のその言葉を聞くと、黄船はいつもの胡散臭い笑顔ではなく、純粋に嬉しそうな表情をするものだから、渇探流の方が驚いてしまった。
黄船はニコニコと笑いながら、席を立つ。
そして、渇探流の鳥の巣頭を撫でてから、その場から離れた。
「ほな、また情報集めてくるさかい、期待しとってや〜」
「あっ、黄船!!あいつ……さり気なく会計押し付けやがったな……!?」
「渇探流君、賀茂黄船は危険人物です。心を許してはいけません」
「一番許しちゃいけねぇやつがほざくな、死ね」
渇探流は仕方なく二人分の会計を済ますと、店の外へと出ていった。
———その頃、赤井紅は、焦りに焦っていた。
『家族』と、連絡が取れない。
ミミ、タケミ、カズヤ、アカリ。
その全員と、連絡が取れないのだ。
「クソッ……今日は、アイツらに仕事はねぇ日のはずだ……!!なのに、なんで……連絡が取れない……!?」
紅は、苛立たしげに、床を蹴る。そんな紅を———シロが、宥めるように制した。
「紅、たまたま連絡が取れないだけかもしれない。そんなに焦るな」
「ああ!?焦るに決まってるだろ!?家族の連絡は何よりの最優先事項———」
「紅、みんな、聞いてる」
その言葉で、ぐっ、と、紅の口は止まった。
シロは、冷静に紅の肩を叩く。
「他の家族と一緒に、俺も探してみるよ。戦闘では役に立たないから———これぐらい、俺に任せてくれ」
「シロ……」
紅は一瞬、迷ったが———シロを信じない。なんて選択は、無かった。
「わかったぜシロ!!ちゃんと見つけて———説教してくれよな!!説教はシロの方がうめぇんだから!!」
「誰に向かってもの言ってる———任せとけ、紅」
そう言って、二人は拳を合わせた。
———それが、最後の2人の、接触だった。
その日の夕ご飯、そして、深夜になっても、家族とシロは、帰ってこなかった。
紅は、元々気が短い性格である。シロ達を探そうと、深夜に家を出ようとした。
———その時。
「……こーにぃ?どこに……いくの……?」
純正が、紅の服の裾を、掴んだ。
眠いのだろう。シパシパと目を瞬かせながら、それでも紅の服は、離さない。
紅は、やんわりと、その手を離させた。
「シロが……戻ってこねぇんだ…他の家族も、何人か戻ってきてない……だから、ちょっとだけ、探しに行くだけだ」
紅がそう言うと、純正は首を振って嫌がった。
「もう……間に合わないよ……一緒に寝よう?こーにぃ」
その言葉に、紅の息が詰まる。
「まっ……間に合わないって……どういうことだ……?純正……」
「……??よくわかんないけど……たぶん、もう……間に合わないよ……?」
その言葉を聞いて、逆に紅は、純正の手を振り切って、夜の東京へと駆け出した。
———一縷の、望みにかけて。




