家族は、二度死ぬ
———紅は、家族を全て失った現実に、涙が止まらなかった。
それでも紅は、渇探流の言葉を否定しようとして———『家族ルール』の中で、過去は詮索しないという不文律に従った、過去の自分を思い出した。
純正は、自分の過去を話したがらなかった。だから、聞かなかった。
俺———そういえば、純正のこと……何も知らねぇや……
明るくて、甘ったれで、優しくて、守りたい、家族。
それだけでいいと思っていた。
思っていたのに———
「先ほどの放送、アーカイブの位置は、わかる人にはわかるといっていたな?」
「わかる人———つまり、来てもらいたい人という点では、やはり赤井紅ではないですか?」
「そうでんなあ。なあ、紅———心当たり、ありまっか?」
「……お前ら……なんでそんなに冷静なんだよ……!!」
紅が泣きながら吠えると、渇探流の目が据わった。
「泣いて悲しめば、家族が戻ってくるのか?お前は今、いたずらに時間を浪費しているだけだ。家族のためを思うなら———行動しろ。考えろ。それがたむけだ」
「ぐっ……うっ……」
ぐうの音も出ない正論で、紅は唸った。
「しかし———暗いな。明かりをつけろ」
「はい。スイッチは……ここですかね?」
ウィルフレッドが真っ暗だった室内に電気をつける。
すると———そこには、みっしりと、影、影、影がいた。
その数、約30。
しかし———人間の形にはとても見えないやつもいるので、正確な数は、わからない。
「……み……みんな……?」
紅が震える声でそう言えば、影全員が紅に向かって、微笑んだ。
「みんな……ここにいたのかよ……!!気づかなかった……」
紅はまた泣き出して、その影の一体に触れる。
そうしたら———影が、弾けて消えた。
「えっ……?」
その瞬間、紅の頭の中にイメージが直接叩き込まれる。
笑う仲間、皆で食べる夕飯、純正。
「なっ……なんだ?これ……」
「どうした?紅」
「頭の中に、映像が———そっ、それより、今、西宮が、消えちまった……!!」
「———ふむ」
先程まで影がいた場所を、紅は触れる。しかし、そこにはもう、何もない。
渇探流は、なんでもないことのように、言い放った。
「なにかヒントになるかもしれん。影を触れ、紅」
「———はっ……?お前、なに、言って……?」
「どうせこのまま時間経過で消えるものたちだ。消える前に何かヒントがあるかもしれないから———触れ、紅」
「いっ……いやだ……!!」
「では、アーカイブ———純正が出したヒントについて、何か思い出すことはあるか?」
「ねっ、ねぇよ……!!そんなもん……!!」
「———ふむ」
渇探流は、ペタリと、近場の影に触れてみた。
「お前……!!」
紅が反射的に渇探流を殴ろうとするが———影は、消えずにそのまま、蠢いていた。
「どうやら、誰でもいいわけじゃないようだな」
さて。と、渇探流は紅に向き直った。
「紅、選べ———無意に時間を浪費するか?それとも、『有意義』に、使うか?」
「……あっ……うっ……」
紅は頭をフル回転させた。自分が、純正の場所さえ言い当てたら———少なくとも、まだ、『家族』と、共にいられる。
しかし———焦りばかりが募る中、紅の頭の中は、ぐちゃぐちゃになっていった。
「このままだと……この影達も———ただ消えるだけの、『無意味』になるぞ?」
「———っ……!!」
渇探流の言葉で、紅は再び、泣き出した。
「ごめん……!!ごめんな、みんな……!!不甲斐ない頭で、本当に、ごめん……!!」
悠太のイメージは、最初に出会った場所だった。
ルリのイメージは、家族で団子になって寝る場面だった。
直也は、フミは———
一人、また一人と、紅は泣きながら触れて———『消して』いった。
最後に残ったのは———いやというほどいうほど、見知った『影』。
「……シロ……お前……ずっと、ついて来てたのかよ……」
乾いた笑い声を響かせて、紅は最後の一人に触れる———前に、手を止めた。
しかし、もう一度手を伸ばして———消す。
———そして紅は、しばらくの間、動かなかった。
全員の呼吸音だけが、廃墟に響く。
紅は、今度こそ、笑い出した。
「はは……ははは……なんだよ……簡単なこと、だったじゃねぇか……なんでこんな……大事なこと……俺、忘れてたんだよ……」
「なにか掴めたか?紅」
「……ああ……純正は、紅蓮炎の集合場所———困った時に必ず行く場所……原宿の廃ビルに———いる」
「闇雲に動くより、余程合理的な動きができるな———じゃあ、行くか」
「———行く」
紅は、ゆらりと立ち上がり———金属バットと拳銃を手に持って、歩き出した。
「お前の選択が、今から楽しみだ」
「渇探流君が楽しそうで何よりです」
「いやあ、えぐいですなあ、渇探流はん」
「テメェら、うるせぇ……殺すぞ……」
守りたいのか、殺したいのか———それすらも、選べないまま。




