東京連続影残し失踪事件
「渇探流君」
「うん?んっ、んむ」
突然、渇探流はウィルフレッドに口付けをされたので———その土手っ腹に、発砲した。
乾いた銃声が、街中に響く。
「またやってるよあいつら……」
「士道のやつも相変わらず狂ってんなあ、そんなに医里渇探流がいいのかよ?」
「ありゃ不定の狂気だ、狂気」
はははは、と笑い声が響く。
その中で———
一人だけ、笑っていなかった。
「……なあ、今の見たか?」
「は?何を———」
「いや、今……あそこの通行人……」
男が指差した先。
人混みの中で———
一人分だけ、不自然に『空いている』空間があった。
「……気のせいじゃねぇの?」
「いや、でも……さっきまで——」
その言葉は、最後まで続かなかった。
なぜなら———
その男の姿が、スッと『消えた』からだ。
「……は?」
ざわめきが、広がる。
———男の影だけが、残っている。
一拍遅れて、それも、消えた。
———そこだけ、人の『流れ』が、歪んでいた。
「おい、今の……!」
「え、どこ行った……!?」
「消えた……!?」
騒ぎになる周囲をよそに、渇探流は———ゆっくりと、目を細めた。
そして、治癒の呪文によって当然のように回復したウィルフレッドを、横目で見る。
「……ウィルフレッド」
「はい」
「今の、見えたか?」
「ええ。確かに、観測できました」
その時だった。
「お二人さん、相変わらず仲がよろしいようで〜」
そんなことを言いながら、黄船が渇探流のそばへと寄って行き———その唇を、凄い勢いで拭き始めた。
摩擦で普通に痛い。
「きふ……やめ……」
「あーーー、なぁんか、渇探流はん、お口が汚れてますえ?これはシツコイ汚れどすなあ」
ゴシゴシ、ゴシゴシ、と唇を擦られて、渇探流はその手を叩き落とした。
「いてぇよ!!なんなんだよ!!」
「臨時護衛やさかい。渇探流はんの健康管理も仕事のうちやし〜」
「臨時護衛の守備範囲を超えている!!」
「まあまあ、冗談はこれぐらいにして———ここ最近の噂、知っとります?」
「噂?」
「そう、噂どす。なんでも———急に、人が消えるらしいんですわぁ」
「この世界じゃよくあることだろ?」
渇探流が興味なさげにそう言えば、黄船はチッチッチ、と言いながら指を振った。
「それが、この事件が始まったのはここ数ヶ月らしいんですわ。消えた人物は数知れず———更に、ある噂もありましてぇ」
「更に噂?」
「ええ、噂———なんでも、この現象を引き起こしてるのは———とある組織らしいでっせ?」
渇探流は、その言葉を聞いた途端、とても嫌な予感がした。
そして———その予感は、的中した。
「東京連続影残し失踪事件、調べてこい医里渇探流」
「……やっぱ、そうなるよなあ……」
渇探流が所属する国防省怪異対策部特務課、課長室で、渇探流はいつものごとくビッグピッグに、尊大に命令された。
———先ほど、目の前で起きた『消失』と、噂が、嫌に噛み合いすぎている。
それでも、渇探流は一応の抵抗を試みた。
「警察が動くだろう?俺が動く意義がわからん」
「警察は警察で動く。当たり前だ。それはそれとしてお前も動け———上からの指示だ」
「上からぁ?」
渇探流は胡乱げな視線を課長へと向けた。こいつの上———となると、それこそ国家クラスの『誰か』になるのだろうか。
渇探流は首を捻ったが、ウィルフレッドがまた、的外れなことを言ってくる。
「私がお守りしますので、大丈夫ですよ渇探流君」
「シンプルに死んで欲しい」
「……最近、渇探流君私に厳し過ぎじゃあないですか……?」
「自分の胸に手を当てて———いや、考えなくていい。とりあえずわかった。その事件とやら、解決してやる。ありがたく思え課長」
「お前、ホントに態度でかいよな……」
課長はゲンナリと言うと、虫を追い払うように、渇探流達を執務室から出した。
「とりあえず、黄船に情報収集頼むか……」
「渇探流君、このところやけに賀茂黄船がお気に入りですね?」
「はっ?お前より数万倍使えるからな。しかも金を積めば裏切らない。どこかの誰かさんみたいに『他』と俺を同一視しない。響や愛生に次ぐ信頼度だ。当たり前だろう死ね」
「でも、渇探流君を一番に助けられるのは———私です」
渇探流は、ハッ、と笑った。
「そんな言葉を、信じそうになってた時期もあったな」
渇探流はこれ以上ウィルフレッドと話すつもりはなく、無言で歩き出した。
その背中を———じっとりとした視線で、ウィルフレッドが見ていることにも、気づかずに。
———捜査、開始。
しかし、初手で予想外なことが起きるとは、この時点で想像すらできなかった。
———この時点で、『詰んで』いたのだから。




