パパは昔から泣き虫だったのね
『———生贄を捧げる期限まで———本日です。生贄を捧げられなかった場合、世界は消滅します』
その日、世界はお祭り騒ぎだった。
あちこちで屋台が出て、至る所でお祭り騒ぎ。昼間からビールを飲み、騒ぎ、世界の終焉を皆で『祝って』いる。
笑い声ばかりが響いている。
———泣いている人間は、一人もいなかった。
そんな中、渇探流とシャルロットは手を繋いで、お祭りを楽しんでいた。
「今日で世界が終わるのだわ、パパ」
「そうだな、シャル———相変わらず、この世界の住民は狂っているな。世界終焉の日にお祭りだなんて」
「いるだけマシなのだわ!!パパ、シャル、次はあれが食べたいのだわ!!」
そう言ってシャルロットが指差したのは、ホットドッグだった。
渇探流は当たり前のようにホットドッグを買い、当たり前のように半分こにして、半分をシャルロットに渡す。
シャルロットも当たり前のようにそれを受け取ると、頬いっぱいにかぶりついた。
「美味しい……!!美味しいのだわ!!本当にこの世界は美味しい物がたくさんあるのだわ!!」
「そうか、よかったな、シャル」
二人でホットドッグ、かき氷、たこ焼き、焼きそばと、屋台の定番を食べ歩いて行った。
そんな最中———唐突に、シャルロットがこう言った。
「パパ。そろそろ行かなきゃなのだわ」
ほっぺに青のりをくっつけて、シャルロットは笑った。
まるで———時間を知っているかのように。
「……シャル……?」
「パパ、こっちなのだわ」
シャルロットは、渇探流の手を引っ張る。
渇探流はシャルロットの青のりを取ってやり、その手を柔らかく、引っ張り返した。
「……いかなくて、いい。シャル。このまま、ここでパパと遊ぼう」
「そうはいかないのだわ!!パパ、シャルはパパを助けに来たのだわ!!それに———シャル……もう、長くないのだわ……」
一瞬だけ、言葉が詰まる。
「……でも、大丈夫なのだわ」
———そう、言い聞かせるように。
シャルロットは、雑踏にも無数にある『角』を見ながら、そう言った。
そして、ニパッと笑う。
「パパ、行くのだわ!!」
「シャル……嫌だ……行きたくない……」
「パパは、昔から泣き虫だったのね!!そんなパパも大好きよ!!」
「シャル……」
「ふふっ、いつもと逆ね!!パパがわがままを言ってるのだわ!!」
「……わがままも、なんでも———お前を、失わないためなら……なんでも、言う……」
シャルロットは、震える手で、渇探流の両手を握りしめる。そして、ニコリと、いつもの笑顔で笑った。
「行くのだわ!!パパ———世界を、救うために!!」
「シャル……!!」
渇探流は、シャルロットを抱きしめて———泣いた。
祭りで賑わう中、抱きしめあって泣く親子を気にするものは、誰もいない。
ウィルフレッドと黄船だけは、それぞれ違う反応をしながら見つめていたが———シャルロットが渇探流をそっと突き放すと、再度手を引っ張った。
その目は、赤く染まっていた。
泣いていたからではない。シャルロットの虹彩が———赤く、輝いていた。
「時間よ、パパ!!」
そう言って、シャルロットは渇探流を引っ張る。渇探流は拒絶をしようとして———しかし、迷って、立ち止まって、引っ張られて……結局は、足を進めた。
シャルロットは、迷いなく足を運んだ。そしてたどり着いた場所は———この辺で1番高い、ビルの屋上。
何故かセキュリティは全て死んでおり、スムーズに屋上まで来ることができた。まるで———用意された、舞台みたいだな、と、渇探流は思った。
世界の空は、終焉へのカウントダウンが始まったかのように、赤く染まって来ている。
いつかの、赤い街のようだった。
屋上には、渇探流たち以外、誰もいない。
ビル下から、歓声が聞こえて来た。
世界の終焉だと言うのに、誰も悲観していない。
悲観しているのは———選ばされる、渇探流だけだ。
『パパ!!』
シャルロットの声が、二重に重なって聞こえて来た。
———片方は、今ここにいる声。
もう片方は、どこか遠くから、響いているようだった。
そんなシャルロットは、なんでもないことのように言う。
まるで、今から遊園地にいくのだわ!と、言い出しそうな表情で———笑顔で。
『パパ!!』
———選んで。
『パパ、私を、殺して欲しいのだわ!!』
なんでもないことのように———震える声で、そう言った。
渇探流は、泣き崩れた。
———選ばなければならないことを、理解して、しまったからだ。




