角から来る時間の猟犬
「……これが……パレード……?」
「ああ、ちゃんと見えるか?シャル」
「見えるわ……!!凄いの……!!キラキラなの……!!」
渇探流とシャルロットは、手を繋ぎながらパレードを眺めていた。
煌びやかに光るネオン。踊るキャスト。まさに———夢の国の、集大成。
シャルロットは、食い入るように、そのパレードに見入っていた。
それを見て———渇探流は、また、既視感を覚える。
『パレードって何?パパ』
『電飾で装飾した車みたいなものが、ゆっくり走っているんだ。たぶん、シャルは気にいると思う』
『そうなの!?シャル、見てみたいわ!!』
『……過去にでも戻らない限り、無理な話だな』
———知らないはずの記憶が、思い浮かぶ。
いや、違う。
『思い出した』ような、気がした。
「パパ、綺麗なのだわ」
そう言って、握りしめられた手は———とても小さく、そして、温かかった。
「ああ、綺麗だな」
渇探流は、シャルロットの瞳を見ながら、そう言った。
「パパ、明日は水族館に行くのだわ」
「ああ、いいぞ。どこへだっていこう」
渇探流は、強く握られる手を、そっと握り返した。
———それからの時間は、あっという間に過ぎていった。しかし、やけに長くも感じた。
護衛付きではあるが———二人で水族館へ行き、チョコミントアイスを食べ、映画館にも行ったし、年甲斐もなく、はしゃいだりもした。
「パパ!!シャルは幸せなのだわ!!パパと一緒に遊べて、幸せなのだわ!!」
———だから、もう大丈夫。
「……なんだ?何か言ったか?」
「ううん、なんでもないのだわ!!」
「そうか、それならいいんだ」
渇探流は、シャルロットが幸せそうに笑うたびに、満たされていった。
こんな感覚は、初めての感覚だった。
水族館のガラスに手を当てて、笑うシャル。
チョコミントアイスを鼻につけて、恥ずかしがるシャル。
———幸せとは、こう言うものなのだろうと、渇探流は実感した。
———しかし、世界は残酷に時を刻み出す。
『生贄を捧げる期限まで———あと、六日』
『生贄を捧げる期限まで———あと、五日』
『生贄を捧げる期限まで———あと、四日』
毎夜聞こえるそのカウントダウンの声は、確実に———今の時間を、削り取っていく。
シャルロットの様子も、何故か日を追うごとに、おかしくなっていった。
やたらと、『角』を怖がる。
「この部屋は角が多いのだわ……!」
シャルロットは、部屋の隅を見ていた。
まるで———そこに、何かいるかのように。
シャルロットがそう訴えたことを、渇探流が課長に伝えたところ、即座に『角がない部屋』へと、移動させられた。
まるで、最初から『そのために用意されていた』かのように。
普段ならば「いやなんでこんな部屋が最初から用意されてんだよ!おかしいだろ!!」とツッコむ渇探流であるが、しかし、渇探流はそれを疑問に思うどころか、『シャルが安心するなら』という考えでもってその部屋へと移動した。もちろん部屋は一緒だ。
ウィルフレッドは、「シャルロットがきてから渇探流君がおかしくなってしまいました」状態だし、黄船は「渇探流はんが楽しいならええんとちゃいます?別に嫉妬なんてしへまへんけど。別に」と言うばかりで、普段よりも当てにならない。
しかし、シャルロットは今日も笑顔で、元気にわがままを言う。
「パパ!!今日は公園に行きたいのだわ!!」
「シャルは毎日元気だなぁ」
ウィルフレッドと二人きりになりたくない渇探流にとって、シャルロットは良い緩衝材だった。部屋の隅で控えてはいるが、流石に子供の前で不埒な行動に出るほどバカではない———というよりは、『一週間』という期限がついているから静観している、といった感じか。
課長は、何故かシャルロットが現れてから、仕事仕事と言わなくなった。
それを少し不気味に思いつつも———いや、ただ考えたくなかっただけかもしれない———今日も、渇探流はシャルロットと遊ぶ。
———世界が終焉を迎えるまで、あと三日の日だった。
公園で渇探流とシャルロット、ウィルフレッドと黄船が遊んでいると———遊具の角から、強烈な腐臭が漂ってきた。
「なっ、なんだ……?」
「パパ!!逃げるの!!」
———ぬちゃり。
何かが、『角』から這い出てきた音がした。
渇探流が反応すると、すぐさまシャルロットが渇探流の手を掴んで走り出す。渇探流は戸惑いつつも、シャルロットに従った。
完全に、シャルロットのことを信用していたのだ。
しかし———世界はそんな親子を、嘲笑う。
シャルロットが逃げた先で、また『角』から、腐臭が漂った。
前と後ろ、両方から挟み込まれ、渇探流、ウィルフレッド、黄船、シャルロットは———完全に、囲まれた。
「———『時間の猟犬ですね。戦うことはお勧めしません。なんとか逃げ切って下さい。もしくは———原因を、排除して下さい』」
とてつもなく久しぶりに、渇探流の口が勝手に動いた。例の謎記憶だ。渇探流は口を止めようとしても、舌が勝手に動いて、止められなかった。
そして———全員の視線は、シャルロットへと、注がれる。
シャルロットは、渇探流だけを、まっすぐに見つめ返していた。
———まるで、全てを知っているかのように。




