未来からきた娘に「パパ」と呼ばれたのでとりあえず遊園地に行くことになった
「未来から来たぁ?」
一瞬の静寂の後、渇探流はアホみたいな声を出してしまった。
「そうよ!!未来のパパはね———っとと、言っちゃいけないんだった!!」
シャルロットは口を両手で押さえて、言葉を抑える。
そんな彼女に対してウィルフレッドは———銃を突きつけた。
「怪しいですね、排除しましょう」
「お前は血も涙もないのか?知ってたやめろウィルフレッドお前を殺すぞ」
「渇探流君に殺されるなら本望です」
「狂人は置いておいて———シャルロットとやら、未来から来たという話は、本当なのか?何から俺を助けるんだ?」
渇探流は未だに首根っこを掴んでいるウィルフレッドの手を無理矢理引き剥がすと、しゃがんで少女と目を合わせた。
シャルロットは、キラキラとした瞳で渇探流を見る。
「そういうところはやっぱりパパだわ!シャル、パパのことだーーーい好き!!」
「えっ……ちょっ……おい……!?」
渇探流の首根っこに抱きついてきた少女をつい抱き止めてしまい、渇探流は途方に暮れた。
そんな様子の渇探流を見て、黄船がにやにやとしながら、渇探流の顔を覗き込む。
「渇探流はん、いや、渇探流パパって呼んだ方がええどす?そない可愛い娘さんがいて、羨ましいわぁ」
「黄船は昔からそんななのねっ!だからパパに嫌われちゃうんだわ!!」
「なっ……!?」
黄船は、何故か胸に走った激痛によろめいた。
「ふっ、惨めですね賀茂黄船」
「ウィルだって、パパはだーいきらいって言ってたわ!!パパが唯一信用できるのはシャルだけだって言ってたもん!!」
「……なん……です……って……?」
「ギャハハハハ!あんさんも人のこと言えへんみたいやなぁ!?」
「目糞鼻糞を笑う」
渇探流はため息を吐きながら、少女のことを首からやんわりと離した。
「シャルロットと言ったか?もう一度聞くが、未来から来たと言うのは本当なのか?俺を助けるためとは何なんだ?」
「シャルって呼んで!!パパはいっつもシャルって呼んで、頭を撫でてくれたわ!!」
「……………………」
渇探流は未来の自分が想像できなさ過ぎて、頭を抱えた。しばらく唸ったあと、ポンと手を叩く。
「よし、やはり警察に任せよう」
「いやよパパ!!シャルはパパと遊ぶの!!」
「助けるために来たんじゃなかったのか?」
「そうよ!!だからその前に、シャルと遊んで!!」
そうやって両手を合わせるシャルロットに———渇探流は、妙な既視感を感じた。
守らなければ。
そう、自然と思考する頭にハテナマークを浮かべながらも———一瞬、躊躇したが———結局は、渇探流は少女へと、手を伸ばした。
「……期間は?」
「1週間よ!!そうしたら———っとと、これも言っちゃいけないんだった!!でも———今起きてる『現象』は解決できるわ!!だって、パパはね、ちゃんと———」
一瞬、言葉が止まる。
「……ううん、まだ言っちゃダメなんだった!」
また口を押さえながら、それでも主張する幼い少女。
少しの嫌な予感が、渇探流の脳裏をよぎったが———
まあ、1週間だけなら付き合ってやるか。と、渇探流は苦笑した。
「じゃあ、シャル。何がしたい?どこへ行きたい?」
渇探流は、無意識にシャルロットと手を繋いでいた。
シャルロットは、無邪気な笑顔で言う。
「遊園地ってところに行ってみたいの!!あと、水族館っていうところと、あと———チョコミントの、アイスが食べたいわ!!」
「なんだ、1週間もかからないわがままだな。とりあえず———遊園地から、行くか」
「キャー!!パパ大好き!!」
「ちょっ、渇探流君……!?本気ですか!?」
「せやで渇探流はん、その子の言うこと、丸っと信じはるんでっか?」
「そうだな———」
普段の渇探流ならば、絶対に信じない。信頼できる刑事———響か、貫太郎にでも預けて、それで終いにするだろう。
しかし。
「パパ……シャルのこと、信じてくれないの……?」
「———信じる」
そう言った瞬間、自分でも理由がわからなかった。
だが———それでいいと、どこかで思っていた。
キャアッ、と、シャルロットは歓声を上げる。
「パパはやっぱりパパだわ!!昔からずっとずぅっと、かっこいいもの!!パパ、大好きよ!!」
「はいはい」
腕にしがみついてくるシャルロットに、渇探流はおざなりな返事をした。それは———気恥ずかしさの、裏返しだった。
———そして、地獄への入り口だった。
千葉にある有名な夢の国へシャルロットを連れていけば、シャルロットはそれはもう喜んだ。
「すごいわ!!パパがお話してくれた通りだわ!!」
——その言い方は、まるで『思い出している』ようだった。
目をキラキラとさせて渇探流を引っ張り、アトラクションに乗り、キャラメルポップコーンを食べる。
「美味しいわ!!こんなに美味しいもの、食べたことないわ!!」
「なんだ、大袈裟だな。未来の俺は甲斐性なしなのか?」
「かいしょーなしが何かはわからないけれども、パパは凄いのよ!!とっても凄い人なのだわ!!シャルはそんなパパのことが大好きなの!!」
「はいはい、そうなのか」
「もちろん、今のパパも大好きよ!!」
「そうか、それならよかった」
なにが『よかった』なのか、渇探流はわからないまま、口に出した。
護衛二人は完全に空気である。
『あの渇探流』が———朗らかに微笑み、側から見たら『良いパパ』を自然にこなしているのだ。空いた口が塞がらなかった。
普段の渇探流ならば、「ウルセェ知るかフィールドワークだ!こんなクソみたいな事件とっとと解決するぞ!」とでも言い出すだろうに、シャルロットと遊ぶ。つまり———無駄な時間を使うことに対して、躊躇いがない。
「士道はん……渇探流はんは、どないしてしもうたんやろ……」
「あの娘のせいだろう。少しでもおかしな動きを見せたら、排除する」
「血ぃも涙ぁもないどすなぁ」
そんな二人の護衛を置いて、二人は遊ぶ。
シャルロットは、笑いながら言った。
「未来のパパはね、魔術———ととっ、これも言っちゃいけないんだった!!」
「言ってはいけないことが多いな、シャルは」
渇探流は笑った。その笑みは、朗らかだった。
———夜のパレードが、始まる。
それが、『何の始まりなのか』も知らずに。
——ただ、笑っていた。




