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未来から来た娘が、俺を『パパ』と呼んだ

『皆様———生贄を、出して下さい。世界存続の為には、生贄が必要です。ただし、その生贄には、条件があります。繰り返します———』


黄船との小旅行からすぐ———世界は、通常運転で理不尽だった。


「……アホらしい」


そんな頭に響く声を聞きながら、渇探流は即、爆睡した。

———その日から、テレビ、ラジオ、ネット、全ての媒体で、この話題が席巻した。

その裏で———『自称生贄』が、三人、死んでいた。


「———生贄を、探せだあ?」


渇探流は、国防省怪異対策部特務課、課長室に呼び出されて、また無茶振りをされていた。

ビックピックは、偉そうに咳払いをして話を続ける。


「そうだ。既に『自称生贄』が、何人も死んでいるらしい。『条件を満たした』と勘違いしてな。これは世界存続のための———」

「アホらしい。そこまで言うならお前が生贄になれ」

「生贄には条件があるって言ってたでしょ!?死んだ自殺者の中に、条件を満たすものはいなかった———その条件を特定するのも、お前の仕事だ!!」

「仕事ぉ……?」

「条件付きの生贄ですか、非合理ですね」

「一番の非合理はテメェだウィルフレッド。俺の隣に立つな死ね」


渇探流は、鳥の巣頭をボリボリとかいた。やる気がないのがはなからわかる。

国防省怪異対策部特務課課長は、額に青筋を浮かべながら、渇探流を部屋から蹴り飛ばした。


「いいから!!世界存続の危機だ!!働け医里渇探流!!」

「テメェらはホントに勝手だよなおい!!」

「渇探流君、私が側にいますから大丈夫ですよ」

「テメェがそばにいることが一番の不安要素だ馬鹿野郎」


渇探流は文句を言ったが、一応は給料を貰っている立場である。

ブツブツと文句を言いながら———相変わらずクラクラとする扉を抜けた先は、いつも通りクソみたいな東京だった。


「とりあえず撃っていいか?お前といると吐き気がするんだ、ウィルフレッド」

「私は幸せしか感じませんが」

「よし、撃つか」


渇探流が腰のホルスターからグロック19を抜き出す前に———京都弁が、割り込んできた。


「あらあらあ。相変わらず、なかようございますなぁ?妬けてまいますわあ」


いつの間にか、渇探流の隣に、賀茂黄船かも きふねが歩いていた。

ウィルフレッドの表情が、一気に険しくなる。


「———賀茂、黄船。邪魔だ死ね」

「おおこわっ。でもお、うちは渇探流はんの『臨時護衛』やさかい。離れるわけにはあきまへん」

「渇探流君には私がいれば充分です。消えろ」

「むしろお前と二人きりの方が俺の情緒が死ぬんだよ。消えるならお前が消えろウィルフレッド」

「……渇探流君……」

「あらあ。振られてまいましたなあ?士道はん———ざまあ」

「はっ?」

「んっ?」


バチッと、二人の間で火花が散った。

黄船はわざとらしく、渇探流の肩を掴んで己に寄せる。


「渇探流はんも、こないな束縛強ぉ男より、うちのがええやんなあ?」

「……ノーコメントだ」

「つまりは肯定どすな?ウィルフレッドはんはいらないぃと———ええ判断、しとりますえ」

「貴様の脳みそはスポンジか?渇探流君はノーコメントと言ったんだ。つまりは、貴様にはかける言葉すらないと言うことだ」

「はっ?」

「あっ?」


再び、二人の間で火花が散った。

もうどうにでもしてくれ状態の渇探流は、黄船に引き寄せられたまま歩く。

———あの小旅行から、やたらと黄船の距離感が近いのに多少違和感があったが、それよりも強力な距離バグ野郎が側にいるので、渇探流は黄船の行動をスルーしていた。

やいのやいのと頭上で言い合うウィルフレッドと黄船に渇探流がゲンナリとしていると———不意に、道の曲がり角から、小柄な人影が出てきた。


その少女は、立ち止まる。

まるで、『最初からそこにいたもの』を、見つけたかのように。


「———パパ!!」


———その声だけが、やけに近かった。

雑踏の中にいるはずなのに、まるで耳元で囁かれたような距離で。

一瞬、何の話だと思った。

———次の瞬間、少女は、まっすぐ自分を見ていた。

その笑顔は、やけに『完成されすぎていた』。


「…………パパ…………?」


渇探流は、わけがわからないというように、少女の言葉を繰り返した。


「パパァ!!会いたかったぁ!!」


金髪の髪を高い位置で二つに結び、クルクルと巻いている10歳ほどの少女は、そう言いながら渇探流に突進してきた。

避けるわけにもいかず、渇探流が戸惑いながらも受け止めようとして———ウィルフレッドが、少女の首根っこを掴んで止めた。


「なんなんです貴方は?渇探流君はパパではなく、ママでしょう?」

「これ以上場を混乱させないでくれ」

「金髪っちゅーことは……つまりうちがパパってこと……でんな?」

「黄船、お前は一度頭の病院へ行け」

「離しなさいよ!!アレね!?貴方がウィルフレッドで、こっちが黄船ね!?相変わらず情けってものがないの貴方達は!!」

「……まあ、コイツら有名人だから、名前知っててもおかしくはねぇか……?」

「きーーー!違うわよパパったら!!私はシャルロット・ウェンライト!!パパの———」


ここで、シャルロットは一瞬、言葉に詰まった。


「———娘よ!」

「……とりあえず、警察に連絡するか……」


渇探流はスマホを取り出そうとして、そう言えば青山のせいで使えなかったんだと思い出し、黄船に警察に連絡するよう伝えよう———としたら、少女がめちゃくちゃに暴れ出した。


「私は!!パパを助けるために!!『未来』からきたの!!」


その言葉で、騒つく雑踏の音が一瞬だけ、止まった。

胸の奥が、ざわついた。

———この手の予感は、外れたことがない。

そして、大抵——碌でもない。

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