表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

62/74

朝市に来たら全員海を見て固まってるんだが

「「———!!」」


二人は、同時にガバリと起き上がった。

死ぬ時の感触が、生々しく残っている。

———骨が鳴る音が、まだ耳に残っていた。

二人は汗だくになりながら、顔を見合わせた。


「あっ———」

「えと……」


そして二人は同時にこう思った、『こいつの名前、なんだっけ?』と。


「えっと……ええと……き、ふね……そうだ……きふね……だよ、な……?」

「ええ、ええとぉ、そんな、名前やった……気ぃ、します……あんさんは……ええと……かた……る……はん?で、あってましたっけ……?」

「……俺……そんな……名前……だった……っけ……?」

「「…………………」」


二人は、間抜けな表情でお互いを見つめあったあと———青ざめた。


「……あかん。あかんでかたるはん。ホンマ早くここ出ないと———取り込まれますわ」

「そう……だな……やっぱり……おかしい……よな……」

「しっかりしておくれやす!!『人類最後の希望』どすえあんさん!!」

「だからそれは俺が望んだことじゃないって言ってるだろう!?」

「おーーーい?渇探流ーー?黄船ーー?起きてんなら、朝食にするから支度して出てこーい」


愛生の声が入り口から聞こえてきて、黄船は警戒し、渇探流はホッと息を吐いた。


「よっ……よかった……名前、あってた……」

「この……!!ホンマそろそろシャンとせんと、ぶっ飛ばしますえ!?」

「わっ、わかってる。わかってるよ!」

「ホンマこのポンコツ……!!」

「誰がポンコツだ誰が!!」

「あんさん以外に誰がおりますぅ!?」

「朝から元気だなーお前ら!」


あはは!と、愛生の笑い声が、入り口から聞こえてきた。

そして身支度を整え———愛生が用意してくれたこれまた水みたいな食事を食べた後、渇探流と黄船は早速探索しに旅館を出た。

もちろん、愛生もいっしょだ。

愛生は渇探流と手を繋いで、カラッとした笑顔で、「今なら港のほうで朝市やってるぞ!」なんて言ってる。


「腹……は、減ってる、が……」

「あきまへん。かたるはん、あきまへんえ」

「わかってるよ!愛生、図書館って何時から開いてるんだ?」

「ん?そうだな、8時30分からだから、まだ開いてないなー」

「そっ、そうか……」

「役場も同じ時間に開くから、今行けるとしたら朝市ぐらいだぞ?」

「…………………」


渇探流は黄船の方を見る。黄船は、ため息を吐いた。


「ほな……時間潰しに行きまひょか……」

「おっ、おう」

「朝市だな!おすすめスポットなんだぞ!!」


愛生は渇探流の手を引いて、港へと連れて行った。

———そしてそこは、地獄だった。


「……なんで……みんな……海を見てるんだ……?」

「えっ?だって、海は見るものだろう?」


渇探流の言葉に、愛生は軽く返答した。

しかし———状況は、全くもって軽くなかった。

朝市で魚を売っている店員、船に乗っている漁師、買い物に来た客。

その全てが、全員が———海の方を向いて、ボーッと突っ立っているのだ。


「……あきまへんなぁ……」

「愛生……これ、買い物はできないんじゃないか……?」

「えっ?できるさ!おばちゃーん!これ『もらって』いくな!」

「えっ……?」


愛生はそう言って、店先に並べられていた刺身を取った。

店員は、ボーッと海を見ている———その、瞳に、蝿が止まった。


「あっ、愛生……これ……!!」

「んっ?なんだ?どうした渇探流」

「いや……買い物とか言う次元とちゃうて……」

「おばちゃんがいいって言ってるんだからいいんだよ!なー!!おばちゃん!!」


愛生がそう声をかけるが、店員は相変わらず、ボーッと海を見たままである。

蝿が、その瞳を駆け上がって———飛び立った。

その間、店員は———いや、この朝市にいる全員が、瞬きひとつ、しなかった。


「……っつ、愛生……」

「……かたるはん、そろそろ、受け入れまひょ……」

「それは……!わかって、る……」


渇探流は、拳を握りしめた。


「———あっ、おーい」


突然、愛生が海に向かって手を振り出した。

渇探流と黄船はつられて海を見てみるが———何もない。いや、何か———違和感。


「……愛生?」

「今日も元気だなー!」


愛生は『何か』に向かって手を振っているが、その視線は———海を見ていない。

ここで、違和感の正体がわかった。

波のさざめきが、聞こえて来ないのだ。海のさざめきどころではない。この、朝市の空間全体の音が、『無い』のだ。


「……早く行きまひょ、かたるはん」


黄船は、渇探流の手を取った。

黄船が少し引っ張ると、渇探流の手は、するりと愛生から抜け出る。

愛生の温かい手とは違って、少し、黄船の手はひんやりとしていた。

———これが、通常の、人間の体温、だよな……


「こっちは順調だぜー!」


渇探流は未だに海に向かって手を振っている愛生を見て、泣きそうになった。

少しでも続きが気になったら、ブックマークしてもらえると励みになります。

———この世界は、選ぶたびに何かを失うので。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ