腹が満たされないまま寝たら、ちゃんと殺された
———その食事は、満たされなかった。
「『人魚の活け作りコース』!うまいぞ!!」
「名前が不穏」
楽しい水族館を満喫した後は、お楽しみの夕食である。
黄船が「よもつべぐい系は勘弁してほしい」などと不穏なことを言っていたが、出された料理は———ごく、普通の旅館の料理だった。
思わずツッコんでしまったが、目の前には豪華な料理、美味しそうな匂いが鼻腔をくすぐってくる。
黄船は気が進まなそうではあったが、渇探流は愛生が勧めるままに、口をつけた。
———美味い。
「美味いな……?」
「おっ、気に入ってくれたか?新鮮な魚介ってやっぱ美味いよな!!」
「……大丈夫なん……?いや、でも食べへんと、いざという時に動かれへんか……」
黄船は自分に言い聞かせるように言ってから、食事を口に含む。すると、とろけるように口の中で刺身がなくなり、黄船は驚いた。
パクパクと箸を進める二人を見て、愛生は満足そうに笑った。
しかし———結構な量を食べても、まるでお腹が膨れないのは、何故だろうか。
まるで、空きっ腹に水でも流し込んでいるかのような、感覚。
「よし!じゃあ飲むか!!」
「えっ?お酒———」
「飲まへんで。渇探流はん、絶対に飲んだらあきまへんえ??」
「……わかってる!!」
「今絶対心揺れ動いたやろ」
「なんだー?二人とも、飲まねえのか?私は飲むぞ?ほれ、かんぱーい」
「……乾杯」
愛生はビール、渇探流はお茶で、カチンと乾杯をした。こうしていると———
「スピークイージーの時のこと、思い出すなあ。青山が店内ジャックしてきてビビったなぁ、あの時は」
「……そう、だな」
「士道のやつがなんか暴れてた気もするし」
「ああ」
「でも、楽しかったなあ。また行こうな、渇探流!!」
「……おう……」
渇探流は、愛生の笑顔を直視できなかった。
黄船がそんな渇探流を横目に見つつ、室内をグルリと、油断なく見渡す。
———まあ、ぎょうさん、『監視』がおりますことで。
キッチン、襖の隙間、天井からですら———ここの村人達が、『笑顔』で、こちらを見ている。
渇探流は愛生との会話で、この異常事態に気がついていない様子だ。
———コイツ、なんで気づいてへんねん。
医里渇探流は、感情で動く人物だ。
それが今、黄船の中で確定した。
……黄船が、一番苦手とする相手だった。
まあ、それでも、『金』の前では、全てが些事。
どうやったらこの村から出られるのか、明日はもっと探索を進めないと———詰む。
和気あいあいと話し込む渇探流と愛生を見ながら、黄船は水のような食事をかきこんだ。
「……なんか……腹が膨れた気がしない……」
「奇遇ですなぁ。うちもどす」
愛生との楽しい食事を終え、大浴場温泉に入り、夜の真っ暗な海を眺めたあと、二人は布団が敷かれた部屋へと戻ってきていた。
腹を押さえながらそう言う渇探流に、黄船はなんてことないようにそう答える。
あの食事、ホンマに大丈夫やったんか?という後悔はあれど、食べないよりはマシ———なはず、である。
今は、そんなことよりも。
「渇探流はん、あんた、皆吉愛生のこと、なんだと思うとります?」
「……なんだとって……『偽物』だろ……?」
「今日ぉの態度見させてもらいましたけど、とてもそう思ってはるとは思えへんのやけど」
渇探流は、気不味そうに視線を逸らす。
「大丈夫だよ……ちゃんと、偽物だって、警戒してる」
「はー……これぇが、『人類の希望』とか、やっとられませんわ」
「っつ、うるせぇな!!俺はなりたくてそうなったんじゃねぇ!!」
「なんやん。都合が悪くなったらブチ切れはるん?」
「違う!!んなことは———……ねぇ……」
すまん。と、呟いてから、渇探流は布団へと入って行く。ちゃんと、グロック19は枕元に置いてある。
それを見届けて、黄船も布団へと入っていった。
———そして、夢を見た。
そこは、暗くて、身体が重くて———理解しがたい、昼間見た『人魚』があちこちを泳いでいて。
巨大な、幾何学模様のような建物が、『深海』に、聳え立っていた。
「深海……やよな……?なんで普通に……呼吸できるん……?」
「……」
「……あっ……渇探流はん……」
その水の中を、歩いて行く渇探流を見かけて、思わず黄船はその腕を掴んだ。
掴まれた渇探流はぼんやりとしていて、腕を掴まれているにも関わらず、歩みを止めようとしない。
「ちょお、渇探流はん?……渇探流はん?しっかりしぃや!!」
強めに頬を叩くと、初めて渇探流の目の焦点があった。
「……いてぇ……ちょ、なに……?」
「なにやあらへんで!!あないな怪しい建物に入ろうとしてるさかい、止めたうちを褒めてほしいわ!!」
「……たて、もの……?うおっ、なんだ、あれ?すげえ建築物だな……ってか……ここ、どこだ……?」
「……わかりまへん」
二人して、途方に暮れた。
———とたん。
巨大な———タコのような足が、二人を絡めとり。
———プチリ。
いとも簡単に、潰してしまった。
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———この世界は、選ぶたびに何かを失うので。




