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偽物だと分かっていても、あいつは止まらない

「……あきまへん。あきまへんて、これぇ……」


黄船はポチポチとスマホを操作するが———『圏外』という文字が右上に出ているのを見て、絶望した。


「詰んどる……」

「仲間は呼べず、か———黄船、この霧の中、外に出られるか?」

「無茶言わんといて……ここぉ来る時に、ほっそい崖通ったやろ……この霧ぃの中突っ込んでったら、崖から落ちて死ぬわ」

「だよなぁ……」

「渇探流!!黄船!!二人だけで話すなよー寂しいだろ!?とりあえず、今日はばっちゃんちに泊まるんだろ?案内するぜ!!」

「……愛生」

「渇探流はん、『アレ』は偽物どす。気ぃ抜かんといてや?」

「わかっている」


———わかってるって、表情じゃありまへんがな。

黄船はそう思ったが、それを指摘するのは仕事外だと割り切って、ため息を吐くにとどまった。

渇探流はヒョイとバイクの後部座席から降りて、無警戒に愛生に近づく。

黄船は悲鳴をあげそうになったが、愛生は満面の笑顔で、渇探流の肩を叩いた。


「久しぶり……でもねぇか!この間事務所まで来てくれたもんな!!せっかく私の故郷に来てくれたんだ!!今夜はご馳走作るからさ、楽しみにしててくれよ!!」

「あ……ああ……ありがとう、愛生」

「私と渇探流の仲だろ!?んな遠慮すんなって!!」

「……おう……」


渇探流は俯いて、ズビッと、鼻を啜った。

しかし———次に顔を上げた時には、いつもの、医里渇探流に、戻っていた。


「愛生、宿への案内、頼めるか?」

「任しとけって!!泥舟に乗ったつもりでいろ!!」

「そこは大船だろ」

「そーだったっけ?」


アハハ、と、朗らかに笑い合う二人を見て———一人、賀茂黄船は、渋面を作っていた。

これ、うちがしっかり気張らんと、金ぇも命ぃも、両方落とすで……?

渇探流は、今までの『医里渇探流』と違って、金払いがとても良い。

それだけで、黄船にとって渇探流は、『助けるべき存在』だ。

黄船は、胡散臭い笑顔を貼り付ける。


「ちょお、置いてかんといてやー」


口調は軽く、視線は鋭く。賀茂黄船は、二人と———皆『同じ笑顔』を浮かべている、村人達を睥睨した。

そして、一行が向かったのは、海からすぐ近くにある、一軒の寂れた旅館だった。


「ちっと古いんだけどよ、中はリフォームしてあっから、過ごしやすいぜ!!早速部屋に案内———」

「ちょお、待ってもろてええ?」

「……なんだ?黄船、どうした?」

「うちと渇探流はんの部屋、別々で取っとりましたけど———同じ部屋に変更、でけます?」


黄船の言葉を聞いて、渇探流は何かを察した様子で、少し俯いた。

愛生は、なんてことのないように笑う。


「まあ、ぶっちゃけ寂れた旅館だ!好きな部屋使っていいぜ!!」

「おおきに、おおきに〜」

「……………………」


渇探流は、なんとも言い難い表情をしていた。

そのまま愛生に案内され、二人部屋の———それなりに豪華な和室へと案内される。窓の外から、海が一望できる部屋だった。


「それじゃ!夕飯は18時からだからな!それまで村、色々見て回るか?」


さしてない荷物を置いている時に、愛生がそう提案してくる。スマホの時間を見てみると、まだ15時だ。一箇所や二箇所は、夕飯までに見られるかもしれない。


「いやあ、二人で見に行きますんで、あんさんは———」

「愛生、おすすめの場所はどこだ?」

「ちょおっ、渇探流はん……?」

「……村のことは、村の人間に聞いた方が、一番いい。フィールドワークの基本だ」


———それだけや、あらへんくせに。

黄船はよっぽど指摘してやろうかと思ったが、ため息を吐くにとどまった。

愛生は、カラッとした笑顔でお勧めしてくる。


「やっぱ一番は海かな!新鮮な魚介が食べ放題だぜ!!次は水族館!ちっちゃいけど、珍しい魚がたくさんいるぞ!あとは図書館とか役場とか……暇を潰せそうなところはこんな感じかな?」

「むっ……迷うな……」

「迷うならまずは水族館だな!今食べ物食べたら夕飯に響くだろ!!」

「よし、じゃあ水族館に行こう。行くぞ黄船」

「……横暴な依頼人どす……」


黄船は『仕事』だと割り切って、地獄が確定されている観光へと、乗り出した。

そして、徒歩で十数分、その小さな水族館は、村の真ん中に鎮座していた。

愛生はリュックから水を取り出すと、ガブガブと飲み始める。歩いて喉でも乾いたのだろうか?と思いながら渇探流が見ていると、愛生が「飲むか?」と、水を差し出して来た。


「いや、喉は乾いてないから遠慮する」

「そうか?なら、早く中入ろうぜ!」


愛生は蓋を閉めると、渇探流の手を取った。

今は11月だ。しかも海辺の寒村で、その手は———酷く暖かい、人肌の体温だった。

———暖かすぎるほどに。

ここまでお読みいただきありがとうございます。

この先も物語は続きますので、よろしければブックマークで見届けていただけると嬉しいです。

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