海に来ただけなのに、友人が“二人に増えた”(しかも帰れない)
——発砲音が、また施設に響いた。誰も、それを止めない。
ここでは、それが日常だからだ。
「あー……またか」
「今日もやってらあ」
職員達の呆れた声を背に、渇探流はグロック19を構える。
「近づくなっつってんだろうが!!」
それでも———ウィルフレッドは、歩みを止めない。
「警告はしたぞ!!」
そう言って、渇探流は本当にウィルフレッドを撃った。
正確に、両足を撃ち抜く。ウィルフレッドの動きが止まる。
しかし———ウィルフレッドが低く呟くように呪文を唱えると、その傷はみるみるうちに治っていった。
チッ。と、渇探流は舌打ちをして、弾を装填する。
そうして———再び、ウィルフレッドの両足を撃ち抜いて動けなくすると、踵を返した。
———こんな毎日が、あの日から続いている。
ウィルフレッドの『治癒』は、一日に一度しか使えない。つまり、二度怪我をさせてしまえば、その日は動けない。
あのクソ課長も何か思うところがあったのか、渇探流のこの行動には、文句をつけてこない。素晴らしい。素晴らしい日々、万歳。
そして、今日も無事に『自由』になった渇探流は、清々とした顔で伸びをした。
相変わらず通る度にクラクラする扉を潜り抜け———東京へと、降り立つ。
「さて、今日はどうするか……」
「渇探流はん、今日ぉも、———」
背後から、ぬるりと声がした。
「ご機嫌がぁ、よろしいようでぇ」
「黄船、お前は嫌味を言わないと死ぬ病にでもかかっているのか?」
後ろから覗き込んできた『護衛』に、渇探流はうろんげな視線を向けた。
黄船は、わざとらしく揉み手をする。
「そんなぁ。金払いのええお客様ぁにむこうて、そないなこと言わんてぇ。信じたってやぁ」
「お前のことは信用していないが、お前の『金』に対する執着心は信じている。今日も働け、臨時護衛」
「わかってますがなぁ」
「———愛生の護衛は、手を抜くなよ?」
「ちゃあんと、うちの構成員が見張っとりますぅ。お金もろうたらちゃぁんと働く。それが『黄巾党』のもっとーですんでぇ」
「……ふんっ」
渇探流はチラリと賀茂黄船を見上げると、そのまま前を向いた。
「ほんでぇ、今日ぉも、ふぃーるどわーくっちゅーもんをやりますのん?」
「いや、そうだな……今日は———遠出をするか」
「へっ?」
「黄船、海に行くぞ」
「……はいぃ?」
「バイクの後ろに乗せろ。金は出す」
「えっ……今、11月……」
「ここ最近、しんどい思いばかりして来たんだ———息抜きに、小旅行に行くぞ!!そしてフィールドワークをするんだ!!」
「いつもとやってること同じやん!!」
「最適なスポットを探せ黄船!!俺はスマホが使えないんだ!!」
「ああもう!!けったいなお客様やでホンマ!!」
しかし、金をもらったならば仕事はする男、賀茂黄船である。スマホでササっと調べると、千葉方面にちょうど手頃な旅館が空いていたので、そこを予約した。
「お金ぇは、もちろんぜぇんぶ、渇探流はんもちやで!?」
「わかっている!!行くぞ黄船!!」
「もー……ホンマ……」
グイグイと引っ張られる袖に、黄船は苦笑をした。
さあ———新たな地獄の、幕開けである。
賀茂黄船のバイクに乗ってやって来た港町は———ハッキリ言って、寂れていた。
「……おわぁ……レビューとバチクソ違いますやん……」
「閉鎖的な港町ってロマンがあるよな!」
「渇探流はんの感性、死んどりません?」
そんなことを港町の入り口で話していた二人に気がついた村人が、笑顔で声をかけてくる。
「あらー。お客様?あれでしょ?皆吉さんところのお客様でしょう?いらっしゃいませ〜」
「海鮮類と小さな水族館ぐらいしかないところだけど、楽しんでいってねぇ」
わらわら。という擬音がピッタリなほど、村人達は口々に渇探流達を歓迎した。
「おーーー!来たのかお前ら!!」
——聞き覚えのある、声だった
村人の中から、『東京にいるはずの皆吉愛生』の姿が現れて、二人は同時に固まった。
そのカラッとした笑顔は、愛生過ぎるぐらい、愛生であった。
「———あっ、愛生!?なんでっ、お前———」
「なんで?なんでって、ここが私の故郷だもんよ」
「…………!?」
渇探流は黄船を睨みつけるが、黄船はスッと、スマホを取り出し、ビデオ通話を見せてくる。
そこには、普通に東京で生活している———『いつも通りの愛生』が、映っていた。
「……?……どう……」
「あきまへん。帰りまひょ、渇探流はん」
「なんだ?来たばかりなのに帰るのか?渇探流、黄船」
「ちょお、残念やけど、急用思い出したさかい。今日のところは帰らせて———」
と、黄船が後ろを振り返った、そこは。
———濃い、霧が、まるで膜のように、立ち込めていた。
「……あかん、閉じ込められたわ……」
黄船の、やってしまった。という声音が、ことの重大さを物語っていた。
——霧の向こうで、誰かが「おかえり」と、笑った。
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