化け物護衛を変えたいのに絶対に認められないとか詰んでる
「———前にも言ったが、護衛は変えられない」
「アレは信用ならん。変えろ」
「だから———」
「『渇探流君』!!」
ウィルフレッドが、珍しく汗を流し、泣きながら、課長室へ入って来た。
「渇探流君……!!」
「……渇探流君……だあ?」
渇探流の機嫌は、急降下で下がって行く。
「貴方は、『渇探流君』でした……!!医里君であることに変わりはありませんが、名前を間違えたのは、謝ります……!!」
「本質をわかってねぇ」
スッパリと、渇探流は切って捨てた。医里であることに変わりはない……と。つまり、あの亡霊と同列に扱われていることが問題なのだと、この男は何故気がつかないのだろう?
———そうか。響の言う通り、『狂って』いるんだ。コイツは。
渇探流は、手の中でグロック19を弄び始めた。
「護衛を変えられない———コイツが死んだら、話は違うか?」
「蘇生屋に連れて行って元の木阿弥だ。諦めろ、医里渇探流」
「生理的に受け付けなくなった。もう無理だ」
「こちらこそ無理だ。お前の護衛は、『士道ウィルフレッド』にしか、務まらない」
「……チッ。なら、俺から護衛を指名する」
「……指名だあ?」
「警視庁、捜査第一課、『白石響』を、俺の護衛に推薦する」
「渇探流君!!嫌です!!貴方の護衛は、私だけです!!」
「んなこと誰が決めた。響なら信用できる。経験も豊富だ。引き抜け課長」
「———できない」
課長は、目を逸らした。
「はあああ?ここまで俺が譲歩してやってるのに、『できない』だあ?合理的な理由を提示しろ」
「まずもって、お前の生存率は『士道が護衛に付いている前提』で動いている」
「……コイツが有能なのは認めるが———」
「……更に、コイツは『医里渇探流』のためなら、己の命を顧みない」
「………………」
「更に、コイツは貴重な呪文も、複数取得している」
「………………」
「とどめだが———コイツが、『医里渇探流』の、死体を持って帰れなかったことはない」
「……………それは、以前にも聞いた。だが———」
「士道は、お前の護衛から外せない。話は以上だ」
「……くっ……この……!!」
渇探流はグロック19をホルスターに入れて、課長に掴み掛かろうとした。しかし、ウィルフレッドがその手を取る。
「渇探流君の護衛は、私しかいません———」
「触るな!!」
「諦めて下さい。この決定は、覆されません」
「おいっ、手を離せと言っている!!」
渇探流はそのまま、ウィルフレッドに引き摺られる。
「俺は諦めねぇからな!!」
最後にそう捨て台詞だけ残すと———渇探流は課長室から、引っ張り出された。
「手を離せ!!」
「嫌です」
「命令だ!!」
「受け付けません」
他の職員がなんだなんだと、2人のやり取りを遠目に見ている。ウィルフレッドはそんな視線をものともせず———というより、どうでもいいのだろう。そのまま、渇探流を部屋まで引っ張って行った。
渇探流は、ウィルフレッドと2人きりにはなりたくなかった。
しかし、純粋な力で———この男に、敵うはずもなく。
渇探流は部屋の中まで、引き摺られた。
一瞬の静寂。
渇探流は、ようやくウィルフレッドの手を振り払えた。
「……出ていけ」
「はい、ここにいます」
間髪入れずに返された返答に、渇探流は一瞬怯むが、すぐさま反論する。
「お前がいると、息が詰まるんだよ!!」
「……それでも、貴方を守ります」
「俺は俺の心を守りてぇんだ!!」
渇探流は言ってしまってから、しまった。と、思った。
ウィルフレッドは、うっすらと微笑む。
「それは———私がいると、心が壊れそうになる……という、告白ですか?」
「違う!!」
「違いませんよ。渇探流君、私は———貴方だけの、護衛です」
「違う……『医里渇探流』の護衛だ、お前は……!!」
「はい、そうです。私は医里渇探流のためだけの、護衛です」
渇探流は思わず浮かんだ言葉を吐き出しそうになって———飲み込んだ。
ウィルフレッドを拒絶するように、背中を向ける。
「もう一度言う。出ていけ」
「側におります」
「だから———」
言葉が、途切れた。
その瞬間———背中に、体温が貼り付いた。
「っ……!?」
呼吸が、一瞬止まる。
「……大丈夫です」
耳元で、静かに囁かれた。
「……離れろ」
腕が、回る。
「渇探流君、愛しています」
「……気持ちが悪い」
「なら、振り解いて下さい」
渇探流は少し身を捩り———
「……チッ」
諦めたように、力を抜いた。
「渇探流く———」
「……俺は、んな安い男じゃねぇんだよ!!」
渇探流は脱力からの、完全な不意打ちでウィルフレッドの顔面に、裏拳をめり込ませてやった。
———クリティカル!!
と、女神の声が、聞こえた気がした。




