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護衛にいらないと言ったらぶっ壊れた

———引け。

———引け。

———トリガーに、力がこもる。

それからは静寂だった。しかし、いやに緊張感のある静寂だった。

銃を突きつけた渇探流は肩で息をして、今にも発砲しそうである。


「カトゥール」


響が、渇探流の肩に手を置いた。


「っ、触るな!!」


ウィルフレッドが叫ぶが、それは渇探流の神経を逆撫でするだけだった。


「お前は何を言っているんだ?触るな?俺は『あの医里渇探流』と違って、お前のものじゃない!!」

「何を……医里君……あんなに……愛し合ってたじゃないですか……?」

「気持ちの悪いことを言うな!!」


トリガーに、更に力がこもる。

——もう、半分まで引かれていた。


「カトゥール。士道は狂人だ。相手にするな」


しかし、そこに冷や水を浴びせかけたのは、響であった。

それでも渇探流はふうふうと、息を荒げてウィルフレッドを睨みつけている。

響は宥めるように、渇探流の頭を撫でた。

———すると、ウィルフレッドから視線が刺さる。

響は、ため息を吐いた。


「士道、お前は『選んだ』上で『失った』んだ。もうカトゥールに執着するのはやめろ」

「……貴方に言われる筋合いはありません」

「なら俺が言ってやる。ウィルフレッド。お前は、『いらない』」


———その言葉で、ウィルフレッドの顔から色がなくなった。


「か……たる……くん……」


———その言葉に、返事は無かった。


「チッ」


渇探流はトリガーから手を離し、安全装置を掛け直した。そして、腰のホルスターに滑らかにしまう。


「行こう。響」

「ああ」

「えっ……ええ……?」


唯一、貫太郎だけが戸惑っていたが、三人はそのまま———本当に、飲みに行った。

心ゆくまで飲んで、騒いで、愚痴を言って、青山輝のこともしっかり釘を刺して「もう会わない方がいいかもしれない」と渇探流は話したが、響達は「刑事を舐めるな」と言って、渇探流の頭を撫でてくれた。

———信じたい。と、思ってしまった。

すっかりいい気分で帰って来た渇探流は、部屋の前で座り込んでいるウィルフレッドを見つけて、急速に酔いが覚めていった。

無言のまま生体認証をパスして、部屋の中へと入る。すると、当然のようにウィルフレッドも付いて来て、渇探流は短く舌打ちをした。


「ウィルフレッド、お前は『いらない』。何度同じことを言えばいいんだ?」

「私は……貴方の、護衛です……」

「『医里渇探流』の護衛だろう?あいにくと、俺の名前はカトゥール・ウェンライトなんだ。人違いだな。帰ってくれ」

「この部屋に戻って来ると言うことは、貴方は医里君です……」

「———本物と偽物の区別もつかなかったくせに、何言ってやがる」

「……?どちらも、『医里君』でしょう……?」

「違う。俺の名前はカトゥール・ウェンライトだ。他を当たれ。どうせ、俺はそのうち帰るんだ———元の世界に」


渇探流はヒラヒラと手を振って、シャワーを浴びる。出て来てもまだウィルフレッドがそのまま部屋の中にいたので、舌を打った。


「しつこい」

「……何を怒っているのかわかりませんが……謝ります。すいません……」

「何も怒っていない。ただ、お前に失望しただけだ。出ていけ」

「嫌です」

「チッ」


渇探流は話すのも面倒になって、濡れた髪のまま、ベッドに横になった。すると、ベッドの横にウィルフレッドが移動して来る。彼は、ベッドに入ろうとして来て———


「フリーズ」


———額に、渇探流のグロック19を突きつけられて、停止した。


「出ていけ」

「……嫌です」

「これ以上の接触は許可しない」

「……嫌です」

「『医里渇探流』なら、本当にお前はなんでもいいんだな」

「はい」


ハッと、渇探流は吐き捨てるように笑って、グロック19を手に持ったまま、布団を被りなおした。


「勝手にしろ。俺は寝る。妙な真似をしたら———わかるな?」


渇探流はグロック19を握りしめたまま、本当に寝てしまった。


「……医里君……」


ウィルフレッドは、ベッドの横———床に、座り込む。

渇探流は、ウィルフレッドに背中を向けて寝ているので、表情がわからない。

ウィルフレッドの中では、遊園地で消えた『医里』も、目の前にいる『医里』も、同じ『医里渇探流』だ。

でも、この『医里渇探流』は、自分を『カトゥール・ウェンライト』だと言う。


「医里君は……医里君でしょう……?」


その呟きを拾って、渇探流はまた、短い舌打ちをした。

———それ以上、何も言わなかった。

そして、朝までぐっすり———眠れるわけもなく。

寝不足で起きた渇探流は、ベッドにうつ伏せて寝るウィルフレッドを見て、ため息を吐いた。


「……こんなやつ、どうでもいい……どうでもいいだろ……?カトゥール・ウェンライト……」


そのまま洗面所に行って顔を洗い、歯磨きをし、着替えてから———部屋をでる。

朝食をしっかり食堂で摂ってから、渇探流は国防省怪異対策部特務課、課長へと接触した。


「久しぶりだな、ビックピック」

「相変わらず失礼なやつだな。だが———昨日は、よくやった」

「別に、生き残るためにやっただけだ。だが、働きを評価してくれるなら、一つ頼み事を聞いてほしい」

「……嫌な予感はするが、一応聞いてやろう」

「———護衛を、変えろ」


国防省怪異対策部特務課、課長は、重い重い、ため息を吐いた。

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