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映写機を壊したら『本物じゃない俺』が選ばれた

『あはははははははははは!!』

「うおなんだ!?」


突然、『亡霊』が爆笑し始めて、渇探流は驚いた。

そんな中、事務室の時計がガタゴトと落ちていき———しまいには事務室が崩落し、外が見える。


『会える!!これで、もう一度、『彼』に、会える!!』

「そんなことを言ってる場合か!?」

「……彼は、狂っていますので」


ガラガラと崩れる遊園地で、晶は朗らかに笑っていた。

渇探流はこんなところにいられるかと、笑う亡霊と晶を置いて外に出る。

すると、そこには———


「カトゥール!?」

「響!!」


歪む空間、その先に———廃れた映画館と、響達がいた。

もちろん、ウィルフレッドも。

渇探流は少しムッとしたが、どうせ無視をしても向こうからやって来るのだ。

半分以上諦めて、渇探流が響達の———『現実』の世界へと歩き出したとき、一人の人物が、横を通り過ぎて行った。

———ウィルフレッドだ。


「……へっ……?」

「『医里君』……!!やっと、やっと見つけた……!!」


ウィルフレッドは『亡霊』に駆け寄ると、その身体を強く、強く抱きしめた。

脳みそが、理解を拒否した。

かひゅっ。と、意図せずに呼吸が止まる。

しかし、そんな態度を出してしまった己を恥じて、渇探流は視線をその『二人』から引き剥がすように前へと向き直ると、今度こそ、響達の元へ、『現実』へと、帰ってきた。


「……カトゥール……」

「響、ありがとうな。俺を信じてくれて……意味も、読み取ってくれて」

「ああ……その……」


チラリと、響は抱き合い、睦み合っているウィルフレッドと亡霊を見た後、少し言いにくそうに、渇探流に話しかける。


「なぜ……士道ではなく、俺だったんだ?」

「あいつは……精神が、おかしい。信用……できない」

「カトゥール」

「……その名前で呼んでくれるのは……響、だけだ」


渇探流は、肩を震わせて俯いた。

響は、何も言わずに、渇探流の頭を撫でた。

———その手は、少し、乱暴だった。


「もう、もう絶対、離しません……『医里君』……!!」

『うん、もう、離さないで下さい……僕と、ずっと一緒に———』

「はい、ずっと、『貴方』と共にいます」

『本当に?嬉しい———』


二人の会話に、吐き気が込み上げた。


「……響、行こう」

「そう、だな……行くぞ、貫太郎」

「えっ……でも……いいの?士道さん……」

「……放っておけ」


響がそう言いながら、渇探流の背中をそっと押す。

その場を三人が後にしようとしたとき———亡霊の、叫び声が聞こえて来た。


『あっ———やだ!やだやだやだ!!離れたくない!!士道さんとずっと一緒にいるんだ!!いやだぁ!!』

「医里君!?どうしたんですか!?」

『士道さん、僕を……離さ、ないで———』

「離しません……!!絶対に、離しませんから……!!」

『士道、さん……愛し……て、る……』


———消えた。

遊園地も。

亡霊も。

まるで、最初から存在しなかったかのように。


「………………」


誰も、何も言わなかった。


「……ミッション、コンプリートだな」


やけに、平坦な声が出た。


「行こう、響———と、貫太郎」

「ああ」

「えっ……う、うん……でも、いいの……?」

「何がだ?」

「うっ、うーん……君が、それでいいなら……?」

「何してる二人とも、早く行くぞ」

「おう」

「うっ……うん」


今度こそ三人は、その場を後にした。


「世界崩壊を阻止したんだ。今夜ぐらい、一杯やろう」

「報告書あげないとだよ響ぃ……」

「いいな、今は飲みたい気分MAXだ。報告なんか適当に済ませて———飲もうぜ!!」


———その時。


「医里君!!」


という声が被って、場の空気が氷点下まで下がった。


「……………」


渇探流は、その声を聞いても止まらなかった。響も止まらなかった。

唯一、貫太郎が少しだけ後ろを振り返ったが、それ以上はやはり、何も言わずに前を向く。


「愛生に教えてもらったスピークイージーにしよう。あそこは一度乗っ取られてからセキュリティを一新したらしいんだ。安心して話せる」

「カトゥール?俺は一応刑事なんだが??」

「スピークイージーに肩書きなんて無粋なもん、持ち込むなよ」

「………ねぇ、えっと……」

「なんだ?貫太郎とやら。酒は飲めないのか?」

「えっ、いや飲めるけど……」

「なら問題は何も」


ないな。という言葉は、後ろから抱きしめられたことによって、途中で途切れた。

渇探流の全身にサブイボが立ち、『気色悪い』という感情だけが、脳を支配する。


「響……!!」

「やめろ士道!!」


思わず響に助けを求めたら、響はウィルフレッドを渇探流から引き剥がしてくれた。

渇探流は素早くウィルフレッドから距離を取り、グロック19を構える。安全装置は———一応まだ、かけたまま。


「……俺を『医里』と呼ぶなと。何回言わせる気だ?てめぇの『医里君』は消えたんだろ?消えて悲しいなら、あとでも追え」

「……えっ……だって……医里君は……医里君じゃないですか……」

「違う!!俺の!!名前は!!カトゥール・ウェンライトだ!!」


渇探流は頭に血が上り、安全装置を———外した。

カチリと、軽く響くはずの音が、やけに———重く、聞こえた。

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