血を流しながら世界のルールをぶち壊してやった
———何度も、見せられている。
———びしゃ。
響の首が、飛ぶ瞬間。
首なしの響が、真っ二つになる瞬間。
———びしゃ。
———びしゃ。
「また……か」
「ひぇ……これ……」
「———胸糞悪い、映像だ」
「医里君……医里君……」
「気分が悪い。出るぞ貫太郎」
「うっ、うん———」
その時、全員のスマホに、渇探流の声が入った。
『———映写機?』
その一言で、全員の視線が、映写機へと吸い寄せられた。
『———この世界と、向こうの世界は、それぞれの『核』で、繋がってるんだ。こっちの核は『ルールブック』で、あっちの核は———映写機』
「———映写機?」
『うん、その映写機を———壊して?』
「お前、ルールがどうとかで、核のこと言えないんじゃなかったのか?」
『ふふっ、そんなこと、ぼく言ったっけ?』
「……まあ、いい……それより連絡手段が———あったわ。お前のハンディカメラ、全然活用してなかったわ」
『そんなに簡単なことじゃないよ?壊すのは、『同時』じゃなきゃいけない』
「同時にぃ??無理難題を押し付けるな。同時とか無理ゲー過ぎるだろ」
『しかも、向こうの時間とこちらの時間はズレてるんだ』
「クソゲーじゃねぇか!!」
『でも、やらなきゃ向こうが侵食されて、世界が終わるよ?』
「急にスケールをデカくするな!!」
『だって、本当のことだもの』
クスクスと、品よく亡霊は笑った。
渇探流は亡霊に案内されて、『スタッフルーム』までやって来る。ここには何故か———人はいなかった。
代わりに、『晶』だけが、いた。
晶は、困ったような笑顔で渇探流を見る。
「上司に相談しましたところ……『面白いからOK!』だそうです……」
「いやに軽い上司だな」
「それで……スタッフルームに、何のご用ですか?一般のお客様は入れませんよ?」
「仮にも俺は今『スタッフ』側だろう?入る権利はあると思うが?」
「……本当に……口がよく回りますね」
晶は呆れたような声を出して、スタッフルームの扉を指差した。
「『鍵』もお持ちのようですし———どうぞ?」
「ああ、邪魔するぞ」
ファンシーな外観を裏切って、中は事務的な部屋だった。ただ———時計が、壁にみっしりと、何個も、何十個も、かかっていることを除けば。
「カチカチカチカチ……耳がいかれそうだ……」
調べられそうな箇所は、机と本棚。渇探流はまず本棚に寄ったが———そこには夥しい数の『スタッフリスト』が詰め込まれていて、ゲンナリとした。
いったい、この遊園地はどれだけの人を殺してはスタッフにしているのだろうか。しかもタイトルは皆同じく血文字で『スタッフリスト』。分別を考えろ。
そんなことを考えながら、次に渇探流は机に行く。引き出しがあったので開いてみると———中には、『医里渇探流の生首』があった。
「……ひっ……!?」
しかし、渇探流が叫び声をあげるや否や、そいつはケタケタと笑いつつ消えて行く。
そして、消えた後に残ったのは———ルールブック。
「だからジャンプスケアは苦手だと言ってるだろうが!!」
『誰に怒ってるの?』
「この世の全てだ!!」
渇探流は怒りながらも、ルールブックを手に取った。
壊す———破けばいいのか?とも思ったが、一応中身にも目を通しておく。
そこには、ビッシリとこの園の『ルール』が記載されていた。
一つ、お客様には笑顔で接客。
一つ、一日に一度は死のう。
一つ、ルールを守れなかったら『処分』。
一つ———
「……クソルールが書いてあるだけのようだが———おっ?」
渇探流は当然のように速読で、パラパラとルールブックをめくっていく。
そして、その中で一つ、気になる記述を見つけた。
———ルールを変更したい場合、『書き込む』こと。
渇探流は、ニィッと、口角を上げた。
「このクソルール。ぶち壊してやる」
渇探流は、机から筆記用具を取り出し———亡霊に、ハンディカメラを回すように言いつけた。
「……カトゥール?」
映写機の中の映像が、変わった。
先程まで無惨な死を繰り返し上映していた映写機は、一人の青年を映し出す。
その青年は、ガリガリと本に何かを記載しているのだが、その手は時々、不自然に止まっている。
書き終えたのか、渇探流は———ハンディカメラを『見た』。
その顔は、鼻と口から、血が垂れ落ちていた。
『……けい……』
「カトゥール?何を言いたいんだ?」
響が問いかけるも、渇探流は一つの時計を壁から外したかと思うと、バンバンとそれを叩く仕草をする。
———なんだ?何が言いたい?
響が眉を顰めていると、貫太郎が呟いた。
「———時間?」
「時間……あの時計の時間に、合わせればいいのか……?」
響は、自分の腕時計を渇探流が持っている時計と合わせる。
そして、タイミングを見計らったように、渇探流がバッと、本を広げた。
『白石響が映写機を壊せば、この遊園地は崩壊する。時間がズレたら、世界が終わる』
「———なるほど?……わかりやすい!!」
———ズレたら、終わる。
一秒でも。
ほんの一瞬でも。
ズレたら、世界が、終わる。
———時計は、あの解釈で合っているのか?
「……上等だ」
響は、小さく笑った。
「クソルールに従って、死ぬくらいなら———」
警棒を、握り直す。
「ぶち壊す方が、性に合ってる」
———振り下ろした。
そして———映写機は、ものの見事に、砕け散った。




