お化けが『はい、これ』って軽く渡してきた鍵は、命懸けで取ったものだった
『はい、これ』
お化けが差し出してきたのは、小ぶりな鍵だった。
「なんだ……?これ……」
『報酬』
「なんのだ!?」
思わずツッコんだ、その瞬間。
———もう、目の前には誰もいなかった。
手の中には、鍵だけが残っている。
「……報酬って、何なんだよ……」
嫌な予感しかしねぇ。
だが、考えても仕方がない。
渇探流は、その鍵を白衣のポケットに突っ込んだ。
———それを使う『場面』が、用意されているとも知らずに。
———その鍵は、『取った時点でアウト』の代物だった。
「ふっ、雰囲気あるね……」
「本物の廃病院を模した、『本物』の廃遊園地のお化け屋敷だからな」
「あの方は、どこにいるんでしょう」
「……あの方、だあ……?」
「ひっ、響、どうどう。おちちゅいて」
「……チッ」
響は舌打ちをすると、貫太郎と———ついでについてくるウィルフレッドも引き連れて、お化け屋敷へと入って行った。
そして。
「……おいおい……」
「なっ……なんで……こんなにたくさんの……『死体』があるのぉ……?」
「……」
一歩、踏み入れた先にあったのは。
———うず高く積まれた、『首なし死体』だった。
「これ……100や200じゃ、きかないよ……?」
「発見されている死体は、まだマシな方だったってことか」
「名前……なんでしたっけ……名前……」
ブツブツと一人呟いているウィルフレッドは放っておいて、響と貫太郎は、早速探索へと入った。
「うう……慣れてるとは言え……この数はキツい……」
「弱音を吐くな貫太郎、これが『刑事』という職業だ———一番は、人命だがな」
「それは、そうなんだけど———お?」
貫太郎は、死体の山の中で、光る物体を見つけた。
「……なんだ、あれ……?」
それは、鍵だった。
血の海の中で、そこだけ不自然に———『汚れていない』。
「……」
一歩、踏み出す。
———ぐちゃり。
靴の裏で、何かが潰れた感触。
だが———それ以外の音が、しない。
……静か、すぎる……?
さっきまで聞こえていたはずの、
自分達の足音も、呼吸音も、やけに遠い。
「……おい、貫太郎?」
響の声が———一瞬だけ、遅れて届いた。
「え?」
違和感。
だが、それが何かを理解するより早く、
貫太郎は、鍵へと手を伸ばしていた。
ひやり、とした感触。
「……カギ……?」
その、瞬間。
———『ズレた』
横一文字に、空間そのものが歪む。
音が消える。
色が裂ける。
「———へっ?」
間抜けな声を上げる貫太郎を———『何か』が、勢いよく押し除ける。
「……えっ?」
「貫太郎!?」
貫太郎の目の前に、その『何か』が、立っていた。
それは———首なしの、響で。
「えっ……なん……これ……?」
———そしてそれは、真っ二つになっていた。
「……響……?」
「貫太郎!!」
『首がある方』の響が、貫太郎を引っ張った。
風切り音と共に、貫太郎がいた場所に、『何か』が通る。
「とりあえず進むぞ!!貫太郎!!」
「えっ……響……?えっ……」
貫太郎は混乱しながらも、先程まで自分がいた場所を見た。
そこには———引き裂かれた、『首なしの響』
「なんで俺……生きてんの……?」
「ここは危険だ!!早く進むぞ!!」
「……うっ、うん———」
そう言う貫太郎の手の中には。
最初から何もなかったかのように、鍵は消えていた。
———まるで、『どこか別の場所に持っていかれた』みたいに。
「……なっ……なんだったの……?さっきの……ひっ、響が……響がぁ……」
「泣くな!!俺はここにいるだろうが!!アレは———『ああいう物』だったんだ」
「でっ、でも……おっ、俺の……せいで……」
「それは違う」
「……響……?」
「アレは、アレの『信念』で動いていた。それが貫太郎だろうが———あそこでブツクサ言っている狂人だろうが、『アイツ』の行動は変わらない」
「でも……でもさ……それじゃあ響……」
———『君』は———一体、誰を。
「……おっ、俺……頑張る、ね……!響を守れるぐらい、頼れるような、『バディ』に、なるね……!!」
「———ああ。期待している」
そう笑って、響は、頭ひとつ分高い貫太郎の頭を撫でた。
———血の、ついていない手で。
そんなふうにして手に入れた鍵を、渇探流はぞんざいに手の中で弄んでいた。
「どこの鍵だ?これ。おい、ポンコツナビ。たまにはナビの役目を果たせポンコツ」
『酷い言われようだなぁ』
ゆったりと、『医里渇探流の亡霊』は微笑んだ。
サラサラの黒髪に、陶器のような肌。女子が嫉妬しそうなほど赤い唇に、品のある所作。
まさに、『大和撫子』という言葉が、ピッタリの存在。
———そして、先程、ウィルフレッドと熱い接吻を交わしていた相手。
渇探流は訳がわからない感情で、亡霊を罵った。
「結局お前、役に立ってねぇじゃねぇか。さっき突然出て来たお化けの方がよほど役に立ってるぞ?この———どこのかわからん鍵を渡してくれたやつ」
『ふふっ。それね———命懸けで取った鍵だろうから、なくしちゃダメだよ?』
「……命懸け?」
『じゃあ、ナビらしいことをしてあげよう。その鍵は、スタッフルームの鍵だよ』
「……スタッフルーム?」
『そう。案内してあげる』
そう言って、亡霊は導くように歩き出した。
「……まあ、もう行くとこもないし……行くか……スタッフルーム」
———その言葉は、スマホを通じて、響達にも聞こえていた。
「スタッフ、ルーム?」
「響……今の……」
「……ああ、『医里君』の声だ……」
三者三様の反応を返しつつも、響達はお化け屋敷を探索して行く。
そしたら———突然、映画館に入った。
「……はっ……?」
「……映画館……だね……?」
「医里君……医里君……」
そして———その映画館では、映写機が一台、何かを再生し続けていた。
スクリーンに、響の死に様を映しながら。
——そしてその『死に方』は、つい先程見たものと———同じではなかった。




