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護衛対象の名前だけ思い出せませんが、必ず守ります

ワッと、襲ってくる『異形の人影』達に、響は警棒をぶん回す。


「———手応え、あり」


人の感触だろうが、異形は異形だ。

確かな手応えを響は感じたが、響はそこで———一体だけ、首を上下にガクガクと震わせた個体がいるのを発見した。

あれは確か、カトゥールが『異様に反応していた個体』———

そう思った瞬間、視線はそいつの足元に落ちていた。

ダッシュ。

一気にそいつの懐に入り込み、警棒ではなく、ニューナンブを引き抜いて———ゼロ距離射撃。

乾いた音が二発鳴り、その異形は———地に倒れ伏した。

響は、そいつから視線を外して、周りを警戒する———が。


「………はっ?」


———気がつけば。そこには、誰もいない廃遊園地が、広がっていた。

———あり得ない。

先程までの異形達は、影も形もない。

何故だ?と思って辺りを見回してみれば———ウィルフレッドと、貫太郎が、ゴンドラから降りてきていた。


「士道、貫太郎———大丈夫だったか?」


あらゆる意味で響はそう言ったが、ウィルフレッドは夢見心地、貫太郎は悪夢心地で、話にならない。

とりあえず、響はこれだけ言っておいた。


「士道、後でカトゥールのフォローはしてやれよ」

「……カトゥール……?誰ですかそれ……?……そんな名前、知りませんが」

「……お前の護衛対象だろうが!?医里渇探流!!カトゥール・ウェンライトだよ!!ずっと一緒にいただろうが!!」

「……護衛対象はいましたが……おかしいですね……」

「……士道?」

「……さっきから、何かが……欠けている気がするんです……そう、だ……『名前』が……思い出せません」

「士道、お前……!!」

「ですが、問題ありません……顔は覚えていますし、どんな対象でも……必ず守りますから」

「……その、護衛の顔は?」


そこでウィルフレッドは、頬を薔薇色に染めた。


「サラサラの黒髪に、陶器のような肌、ピンク色の唇に———大和撫子のように、品のある方」

「士道……!?誰だそいつは!?そいつじゃなくて、カトゥールは……!!」

「ひっ……響……お、おちちゅいて……!!」

「……チッ!」


響は警棒とニューナンブをしまうと、踵を返した。

カトゥールも、きっと同じ行動を取るはずだ。

次———ジェットコースターへ、響は足を向けた。


『ごめんね、別世界線の僕』

「何も謝られる必要は無いし何に対して謝っているかもわからんからその謝罪は受け取らないし興味も無い」

『……もの凄く怒ってるじゃん……』

「怒っていないし怒る理由が無いと言っている」

『ほら……久しぶりだったからさ……その……盛り上がっちゃって……?』

「聞きたくもないと言っているのが、わかんねぇのか!!」


怒鳴ってしまってから、渇探流はハッとして、口を噤む。


「……すまん」


一言そう謝ってから、渇探流はおもむろに、胸を抑えた。

———何か、こう……スカスカ、するような……?

しかし、渇探流の足はジェットコースターへと向かって行った。


『……まあ……もう、ほとんど手遅れ……なんだけどね』


そんな彼の後を、『亡霊』は、笑いながらついて行った。

———愉快でしょうがない、というように。


「……地獄絵図……か……?」


渇探流は、首なし死体製造機を見て、ゲンナリとした。

ジェットコースターは人気があるのか、人が長蛇の列を作っている。その並んでいる人達がジェットコースターに乗り、去っていき———全員が、首なし死体となって、帰ってくる。

こんなアトラクション、誰が乗るか。

渇探流は並んでいた列から飛び出して、次のアトラクションへと足を向けた———お化け屋敷へと。


「……これは……当然ながら……動きません、ね……」


ウィルフレッドはしげしげとジェットコースターを見るが、感想はそれだけだった。

響と貫太郎は、他に何かないか、ジェットコースターのレーンまで降りて、確認する。

しかし———何も、なかった。


「このアトラクションは、ハズレか……?」

「さっきみたいに、いきなり動き出すとかはないかな?」

「どうだろうな、しかしここで動くか動かないかわからんアトラクションに割く時間はない。行くぞ貫太郎」

「うっ、うん……」


貫太郎は、チラチラとウィルフレッドを見ながら、それでも響について行った。

———ウィルフレッドも、独自で色々見た後『何もなし』と判断したのか、響達について来た。

そして———到着したのが、お化け屋敷である。


「前は……扉を開けたら首なし響がいて、かなりビビったな……」

『えっ、なにそれ、怖い』

「黙ってろカマトト」

『いきなり厳しくなってない……?』


渇探流は、お化け屋敷の扉を開けた———が、そこには、首なし響はいなかった。

代わりに、受付のお姉さんが、にこやかに「いらっしゃいませ♪」と、出迎えてくれる。


「えっ……と……2名?で、いいですか……?」

「はい、料金はお一人さま、正気度を10、頂戴いたします♪」

「はっ……?」

『あっ、言い忘れてた』

「おいこのポンコツ!!おい!!」


文句を言っているうちに、渇探流の中の『何か』が、確かに削られて行くのを、感じた。

———これは、続くとヤバイぞ。

クラクラと、確実に削られた何かが、渇探流の脳を揺らす。

逆に、幽霊は平然としていた。


「お前は……平気なのか?」

『平気だよ。だって僕、もう正気なんてもの、無いもの』

「……無い……?」

「正気度のないお客様は、無料となります♪」

「……相変わらず、理不尽な遊園地だな……」


渇探流はツッコむのも面倒くさくなって、そのまま幽霊と共に、お化け屋敷へと入って行った。


『……士道さんに忘れられたら……今の僕はどうなるのかな……?』


楽しそうに、『亡霊』は笑った。

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