三回目までは、大丈夫
「それはもちろん———」
「ウィルフレッド!!」
渇探流はウィルフレッドの答えを止めようとした。コイツらならば絶対に、『皆』よりも『渇探流』を選ぶ。
———ならば。
渇探流は、グロック19を己のこめかみに当てて———引き金を、引いた。
「……えっ……?」
乾いた音。
ウィルフレッドの、間抜けな声が聞こえる。
ゆらり、と、身体が揺らめき———そのまま倒れる前に、ウィルフレッドに抱き止められた。
「渇探流……君……」
ウィルフレッドが抱き止めたその身体から、力が抜け、頭から———血が、じんわりと、広がっていた。
『あらら〜⭐︎選ぶ前に、選ばれちゃいましたね〜⭐︎選択フェーズをスキップされたので、再度問いが投げられます⭐︎被検対象はまだもちそうです⭐︎』
マスコットが何か言っているが、ウィルフレッドはそれを完全無視して、治癒の呪文を使っていた。
傷はみるみるうちに塞がった。が———渇探流は、起きない。
「……なぜ……!?」
呪文は確かに効いたはずだ。渇探流の傷は治っている。
「なぜ……起きない……!?渇探流、君……!!」
血を吐くように、ウィルフレッドは叫び、渇探流の身体を、抱きしめた。
ウィルフレッドの耳には、もう何も、届かない。シンとした静寂と、まだ温かい、再生された渇探流の身体だけが、彼の中にはあるのみだ。
「今回は……長持ちすると……思ったのに……!!」
涙が勝手に出てくる。視界が歪み、渇探流の顔が、よく見えない。
「———なにやらよくわからんが、とにかくウィルフレッド、お前が最悪だと言うことは理解した」
そこに、ウィルフレッドの背後から、『正常な医里渇探流』が、なんてことない足取りで歩いてきたので、ウィルフレッドは混乱の坩堝に落とされた。
「……へっ……?えっ……あっ……あっ……!!渇探流、君……!!」
ウィルフレッドは、眠るように死んでいる渇探流の『死体』を放り出し———そのまま、『生きて、立っている』渇探流を、抱きしめた。
『———探索者特典⭐︎ですよ⭐︎さあ、ウィルフレッド様⭐︎もう一度だけ選んで下さい⭐︎渇探流様だけ助かる世界と、渇探流様だけ助からないけど皆が助かる世界……どっちがいい?⭐︎』
「———なるほど」
渇探流は考える。
———このクソみたいな『問題』の、最適解を。
「かっ、渇探流君……!!渇探流君……!!」
ガタガタと、らしくもなく震えながら、ウィルフレッドが力強く、渇探流を抱きしめた。
渇探流は考えながら———ウィルフレッドに、こう告げた。
「ウィルフレッド。俺を選ぶな」
「嫌です……!!渇探流君がいないと、私は生きていけません……!!」
「———3回目までは、大丈夫だったはずだ。そうだろ?クソ兎」
『あれれ〜?君、記憶力いいですね〜⭐︎そうですよ⭐︎3回目までは———大丈夫⭐︎です⭐︎』
「だそうだ、ウィルフレッド。皆を選べ」
「嫌です!!渇探流君を選びます!!」
『———それで、いいんだね⭐︎』
「———ウィル!!」
渇探流は、初めてウィルフレッドに、『自分から』、口付けた。
「俺を———信じろ」
「……えっ……あっ……」
『回答権剥奪まで、あと五秒———四、三……』
「ウィル!!」
「……貴方は……ずるい人だ……!!」
ウィルフレッドは、叫んだ。もはや、それはヤケクソであった。だって、『今までの渇探流』なら、こんなこと、言わなかった。されなかった。
———ちくしょう。
「……『皆』を、選びます!!」
『一……選択フェーズ、完了。渇探流様は死にます⭐︎』
その———瞬間。
ウィルフレッドの中で『生きていた』渇探流の首から上が消失し、まるで噴水のように、渇探流の首から、血液が溢れ出した。
「ああ……渇探流……君……これで、だめだったら……違う……次は……もっと、上手く……」
ウィルフレッドは、渇探流の温かい血液を浴びながら、先ほどまで『生きていた』渇探流の死体を、抱きしめた。
その足元には、眠るように死んでいる、『頭を撃ち抜いた方』の、渇探流の死体。
そんな地獄絵図の中、マスコットキャラだけは、そのままのテンションで話し続けた。
『ウィルフレッド様は『皆』を選びましたので、渇探流様は『いらない』ということですね!⭐︎それでは、さようなら⭐︎』
「……はっ……?」
マスコットが———デッドちゃんが、消えた。
渇探流は———いくら待てども、戻ってこない。
血まみれになりながら、ウィルフレッドはその場にへたり込んだ。
———側にあるのは、『死体』のみ。
「嘘だ……渇探流君……?3回目までは……大丈夫なはず……でしょう……?」
渇探流君。と、虚空に呼びかけ続けるウィルフレッドは———正しく、『狂人』であった。




