休む間もなく来る神話事象———これ以上厄介ごとを世界レベルで持って来ないでくれ
渇探流が愛生を失った夜———『世界』は、渇探流を休ませてはくれなかった。
『みっなさ〜ん⭐︎明日から『一人禁止制度』を導入しま〜す⭐︎家から出て一定時間一人でいると、罰ゲーム⭐︎みんなはたくさんの人といられてハッピー⭐︎僕もハッピー⭐︎それじゃ、明日から楽しみにしててね〜⭐︎』
———東京全土、大人から子供まで、全員の頭に響いた声は、次の日から———早速、猛威を振るった。
———警視庁、捜査第一課、特別捜査班は、即座に立ち上げられた。
今朝から『首から上のない死体』が東京全土、あちこちで大量発生しており、その共通点は『首から上が鋭利な刃物で綺麗に切断』されているというものであった。
その対策として、これから話し合いが行われるのだ。
響は一人暮らしであったが、そこは警視庁の独身寮であった。同僚と時間を合わせて共に仕事場へと赴き、こうして無事に、席へとついている。
「どっ、どどどうしよう……!!こんなゴミカスと一緒にいてくれる人とか……天使や聖女じゃないといないよぉ……!!」
「河野貫太郎、仮にも俺のバディだろ。基本二人行動だ。安心しろ」
響は隣で悲観しまくっている同期、河野貫太郎を呆れた視線で見やった。
この同僚、刑事としての能力は高いのだが、なにぶん性格が『これ』だ。相手方のバディはツッコミ疲れて最後は無言になると評判の男である。
渇探流と同じように目の下に隈をこさえた大男は、背中を丸めながら爪を噛んだ。
「響は優秀だし、友達いっぱいいるし、大丈夫だろうけどぉ……!!俺はボッチ極めてる陰キャなんだよ!?どうやってこの先生きていけって言うの!?死ねってこと!?」
「朝突然『二人で行かせてくださいお願いします』とスライディング土下座をかました男が何を言っているんだ??」
「それだけ必死だってことだよ!!それに———」
「貫太郎、時間だ」
響がそう言うと、貫太郎はピタリを口を閉じ、姿勢良く前を向いた。
———こう言うところは、好ましい。
警部補が正面入り口から入って来て、スクリーンパネルの前に立つ。そして手元の資料に目を下げながら、会議が始められた。
「皆、もう知っていると思うが———昨夜、テロ声明がなされた。そしてその意味通り———昨夜の深夜24時から今朝まで———つまり、一晩で102名の首なし死体が発見されている」
スクリーンには東京の地図に、死体が発見された場所がマーキングされたものが映し出された。
「———いつもの、『クソ事件』だ。原因、理由、手口、全て不明。今回は東京全土ということもあって、とある組織との『共同捜査』となる———皆も知っているだろう。怪異のプロフェッショナル、医里渇探流と、士道ウィルフレッドだ。彼らが共同捜査で派遣されてくるから、皆、失礼のないように」
「……カトゥール……!?」
「……なに……?響、誰……?それ」
「医里渇探流の本名だ」
「そんな話、聞いたことないけど?」
「直接本人に聞けばわかる」
「??」
その後の説明は、要約すると『何もわかってないからお前ら頑張って手がかりを探せ』という内容だった。
バディごとに死体が発見された場所へと向かうことになり———そこで響は、さっそく渇探流を見かけた。
「カトゥール!!こっちで会うのは初めてだな!!」
「……ひっ……響……!?」
響が親しげに話しかけると、しかし渇探流の反応は、芳しくないものであった。
一歩後ずさったかと思うと、キョロキョロと辺りを見回し、周囲を警戒して———すぐに「おっ、俺は別の場所へ向かうから……じゃあな」と、言葉数少なめに返したかと思ったら、逃げるように、足早にその場を去ってしまったのだ。
「……カトゥール……??」
その時の、士道のなんと嬉しそうなことか。まるでそうであることが当然であるかのように、微笑んでいた。
……なにか、やたらと周囲を警戒してたのも、気にかかる。
もやりとした感情を抱えたものの、響は自分の担当箇所である『キープアウト』の線を乗り越え、貫太郎と共に現場へと入っていった。
「さっきのが医里渇探流?なんか、テレビで見た感じとずいぶん違ったけど……?」
「気の良いやつだ。常識もあるし、人情もある」
「その割には、さっき様子、おかしかったよね」
「ああ。あんな反応される覚えはないんだが……致し方ない。それよりも、今は現場だ。俺は優秀な刑事だからな」
「うん、ゴミカスなりに塵芥程度には力になるね!!」
「お前のそのポジティブにネガティブな発言、どうにかならんか……?」
二人は現場へと入っていき———血の海の中に、ポツンと首なし死体があるという超常現象に、さっそく嫌気がさした。
「なに……?これ、これだけ血が広がってるのに、足跡とか、何一つついてない……普通、これだけ対象が血まみれだったら、犯人の方にもかなりの血液が付着するはず……」
ブツブツと呟きながら、貫太郎は死体へと近づいていく。血を踏まないギリギリまで近づくと、その首の様子をよく見てみた。
「……これは……」
響は、その首の切断面。滑らかすぎるその切り口に———見覚えがあった。
……スーツ姿の、首なし死体。
「……遊園……地……?」




