価値観バトルロワイヤル———金か、家族か、仲間か
「———あっ、本当だ。皆吉愛生、また生き返ってる……はぁ、また殺すのかよ。めんどくせぇな」
コーラを飲み干して、赤井紅は、舌打ちした。
確か、蘇生代って3000万ぐらいするんだろ?一回死ぬだけで家一軒分とか、馬鹿かよ。これだから金持ちは。
赤井はバイクに跨がると、エンジンを吹かそうとして———その瞬間。
首筋に、冷たい刃が触れた。
「……ああ?誰だ?」
「みぃんな大好き、お金ぇも大好き、賀茂黄船どす〜」
「賀茂……!?なんで、お前が……!?」
「なんでってぇ。そりゃあ、依頼どすからぁ」
「依頼ぃ?誰からのだよ」
「そりゃ、この状況から推測したらぁ、普通の人なら一発でわかりまっせ?———ああ、君ぃは頭の回転鈍いさかい。わからんかぁ?」
「このっ……!!相変わらずムカつく守銭奴だなテメェは……!!それぐらいわかるわ!!えっと……えーっと……皆吉愛生を守りたい人物ってことだろ……?えーっと……」
「……ほんま……回転鈍いなぁ」
「———わかった!医里渇探流だ!」
「せいかい」
ニッコリと、賀茂黄船は笑った。
その笑みは、『仕事』の顔だった。
———時は、少しだけ遡る。
「———機器不良」
「はい……原因不明でして……申し訳ございませんが、しばらくお待ちください」
———渇探流は、眉を顰めた。
今現在、渇探流達は銀行の受付で賀茂黄船に『送金』をする手続きで躓いていた。
「なんとかなりませんか?急いでるんです」
「すみません……只今全力で対処しておりますので……」
「……そう……ですか」
渇探流は『また青山の嫌がらせか?』と思いながらも、席についた。
ネットで手軽に送金出来ればよかったのだが、渇探流のスマホは全て死んでいる。
そして、この銀行の、システム不良。
———嫌がらせが、とことん徹底しているな。
はあ。と、ため息を吐いて、渇探流は足を組んだ。
「私が肩代わりいたしましょうか?」
「いい。お前に借りを作ると、何を要求されるかわからん」
「渇探流君のためでしたら、この身を投げうつ覚悟ですよ?」
「……やめてくれ」
「……渇探流君が、そう仰るのでしたら」
ウィルフレッドは、うっすらと微笑んだ。
「私が侵食しているようで、何よりです」
「キモい。侵食してない」
「ふふっ。そういうことにしておきましょうか」
———その時点で、もう全ては『手遅れ』だった。
そして、現在。
「はっ。お前、依頼遂行できてねぇじゃん?皆吉愛生は、既に一度『死んでる』ぜ?」
「はあ。それはうちのせいやありませんしぃ」
「……どういうことだぁ?」
「送金確認が取れへんかったさかい。やからぁ、うちのせいやなくて———渇探流はんが、送金遅かったせいやな!」
「……この、守銭奴が……よっ!」
紅は、重心をズラしてナイフの刃から少し距離を取ると、バイクに差していた金属バットを引き抜き、横薙ぎに振るった。
「おっとぉ。野蛮どすなぁ」
「ナイフ突きつけて来たやつが何言ってやがる!俺の邪魔すんなら、お前も殺す!!」
「ははあ。もうあんさん、詰んどりますのに?」
「———あっ?」
「あんさんの大事ぃな『家族』、人質に取らせてもろてます」
その一言で、紅の顔色がザッと青ざめた。
「……てめぇ……!!」
「いやー。弱点がわかりやすい相手ぇは、楽どすなあ———こんなふうに、すぅぐ攻略できる」
「家族に手を出したら……!!どんな手を使ってでも、テメェを殺す……!!」
「殺されても、蘇生屋に蘇生してもろたらええ。あんさんところと違ぅて、うちは『金』があるさかい」
「金の亡者が!!」
「世の中、金で買えんものはないんですわぁ。絆?友情?親愛?恋愛?———それ、何の足しになります?」
「生きる糧になるだろうが!!本当に寂しいやつだなテメェは!!」
「はて———寂しいっちゅうのは、懐事情の話でっか?あいにくうちは潤ってますんで、関係ありまへんなぁ」
「……この……!!」
紅が怒りに任せて、バットを振るおうとした時———不意に、二人のスマホが『ジャック』された。
『———ストップ。二人とも』
「青山輝!?」
「あらぁ、青山はんやないの」
青山輝は、合成音声で、淡々と話し始める。
『今回、医里渇探流の『壊し』は、成功してる。だから、赤井。無理に戦う必要はない。賀茂———いくら積まれた?その倍出そう。僕の陣営につかないか?』
「青山!?」
「あらぁ。魅力的ぃなお話でんなぁ」
倍、倍かぁ———と、黄船は口の中で転がしてから、ニンマリと笑った。
「ほな、一応聞きまひょか?……200億、ポンと払えまっか?」
『にっ……!?』
「その反応やと———無理そうやね」
青山の反応を見て、黄船は興味を失った。
「今回ぃの『医里渇探流』は、えらい話のわかる男やさかい。余程の金額積まへんと、うちは動きまへんえ?」
『……あいつも、なりふり構ってないな……』
「まあ?うちが依頼されたのは『皆吉愛生』を守ることどす。このまま手を引いてくれはるなら、深追いは、せぇへんよ?———赤井ぃの家族も、解放しましょ」
「……青山……!!俺は、降りるぞ!!家族が一番だ!!」
『……君ならそう言うだろうね、赤井。まあ、今回いい仕事してくれたから、報酬は支払うよ———で、賀茂』
「なんやぁ?」
『君は、医里渇探流側についたんだね?』
「ちょおっと誤解がありまんなぁ?うちは、お金ぇの味方や。お金払いのええ方に、うちはつきまっせ?」
『……そう。考えておくよ』
その言葉を残して、スマホから青山輝が、消えた。
「ほな、赤井はん。手を引いてくれまっか?」
「引く!引くから———家族を、返してくれ……!!」
「はいはいぃ。焦らせんといてやあ」
黄船はスマホを取り出し、部下へと連絡する。その様子をハラハラとした表情で見つめる赤井は———つい先ほどまで、『2回目の殺人』を企てていた人物と、同一人物だとは、とても思えなかった。
「……ウィルフレッド」
「はい、渇探流君」
ウィルフレッドに手を引かれながら、渇探流は帰路につく。その手は、弱く握り返されていた。
「お前は……壊されない……よな?」
「ええ。私は、壊れませんよ。渇探流君」
だから、安心してください。
そうのたまうウィルフレッドに、渇探流は複雑な心境を抱えながらも———とりあえずは、頷いておいた。
「……怖い、な……」
ポツリと呟かれた言葉は、雑踏に踏み散らされた。




