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後悔なんてしてない、だから、少しだけ胸を貸せ

——肉片を抱えて、俺は思った。

本当に、『こいつ』に任せて、大丈夫なのだろうか。


「確かに受け取ったわ〜ん!じゃあ、貴方達は待合室で待ってなさい!」


蘇生屋は慣れ過ぎた手つきで愛生の肉片を受け取ると、奥へと進んでいった。

渇探流が出来ることは、もうない。

後はただ、ウィルフレッドと共に、祈りながら———待つしかない。


「……ウィルフレッド、『完璧とはいかない』けれどもとは、どう言った意味だ?」

「そのままの意味ですよ。『完璧』な蘇生とは、いくらこの世界でも無理なのです」

「……じゃあ、愛生はどうなる?」

「さあ。蘇生されてみるまで、わかりません」

「……どうしてお前は……そこまで冷静なんだ……?」

「渇探流君が、生きてるからですかね」

「お前も、何度もここにきたのか?」


ウィルフレッドは、少し、儚く微笑んだ。


「ええ———何度も、何度も、ここに来ました……貴方の、亡骸を抱えて」

「……そうかよ」


渇探流はなんと言葉をかけていいかわからなくて、結局はぶっきらぼうな言い方になってしまった。

それに、少し気まずくなって———

そっと、渇探流は、ウィルフレッドの手を、握った。


「……!?かっ、渇探流、くっ……!?」

「……待つだけってのは……苦しいな。一人だと、なおさら」

「……そっ、そうです……ね……」


顔を真っ赤に染めたウィルフレッドが、渇探流の手を、思わず強く掴んでしまった。


「……痛い」

「……すっ、すみませ……」

「痛いから……これは、痛みのせいだ……」

「……?渇探流、君……?」


そこには、ハラハラと涙を流す渇探流がいて———ウィルフレッドは、強烈な『嫉妬』に、晒された。

渇探流が今、考えているのは『あの女』のことであって———それが、自分ではないことが……許せなかった。

渇探流は、自分の物なのに。


「渇探流君———」


そう言って、ウィルフレッドが行動に出る、その前に。


「終わったわよ〜ん!!」


と、蘇生屋が戻ってきた。


「早すぎないか!?」

「今回は死体が新鮮だったからぁ〜!早く終わったわ!さっ、出てきてちょうだい!『皆吉愛生』ちゃん!」

「あー……なんか……身体の節々が、バキバキする……」

「あっ、愛生……!!」


渇探流は、ウィルフレッドの手を振り解いて、愛生に駆け寄った。

———ウィルフレッドの、その視線に、気がつく余裕すら、なかった。

愛生は、近づいてきた渇探流を見て、不思議そうな表情をする。


「あー……『あんた』が、私を蘇生させてくれたのか?サンキューな!!」


ニッコリと笑う愛生に対して、渇探流はピキリと固まった。


「あ……愛生……?」

「その様子だと、私と親しかった感じか?すまねぇ!!」

「あっ……えっ……?愛生……?」


愛生は、笑って言う。


「覚えてねぇんだわ!!」

「えっ———?」


——その、瞬間。

世界が、音を立てて崩れた。


「———渇探流君」


ウィルフレッドの声が、優しく響いた。


「記憶が無い以上、彼女はもう『別人』です」


そっと、渇探流の手を掴む。


「……貴方が、執着する理由は、もう無いかと」

「……えっ……いやっ……でも……」

「その感じだと、私とかなり親しかったっぽい?蘇生屋まで連れてきてくれたんだもんな!サンキュー!!お代は自分で払うからさ!『あんた』は何にも気にしないでくれよ!!」

「あ……」


渇探流の瞳から、勝手に涙が流れ出た。


「どっ、どした!?なんで泣いてんだ!?大丈———」


愛生が渇探流に手を伸ばすのを、ウィルフレッドが阻んだ。


「大丈夫です。お気になさらず。貴方、どこまで覚えておいでで?」

「えーっと……自分の名前と……職業と……あと、大事な幼馴染の、こと……?」

「それだけ覚えていれば十分です。さあ、貴方は貴方の場所に『帰って』下さい」

「おっ……おう……?でも、そいつ———」

「渇探流君のことは、私が責任を持って『お守り』いたしますので」

「そっ、そうか……?わかった」


愛生はコクリと頷いて、蘇生屋から出て行った。

蘇生屋から出る瞬間、「渇探流……カトゥール……?なんだっけ……この、名前……」と、不思議そうに呟きながら。

後に残されたのは、静かに涙を流す渇探流と、ウィルフレッド。蘇生屋の店長は、訳知り顔で奥へと引っ込んでいった。


「渇探流君……?大丈夫ですか……?」

「だっ……だいっ、丈夫……だ……!!」

「だから言ったでしょう?『後悔する』と」

「こっ……後悔なんて……!!していない……!!」

「……あの女のために、涙なんて流さないで下さい」


ウィルフレッドは、そっと、渇探流のことを抱き締めた。


「……そんな価値は、あの女にはありません」


いつもならすぐに突き放されるその腕は、無意識なのだろうか、ウィルフレッドの背中に回される。


「こっ、後悔なんて……するか……!!おっ、俺が……選んだ……『選択』だ……!!」

「……ええ、ええ。渇探流君、貴方は何も間違っていません。皆吉愛生は、貴方が『救った』んですから」

「……少しだけ、胸貸せ……」

「渇探流君のためなら、いくらでも」


額を、泣きながら胸に押し付けてくる渇探流を、ウィルフレッドは心底愛おしそうに———抱え込んだ。

絶対、誰にも、渡さないように。


「おーう、青山、とりあえず皆吉愛生は殺したぜー?」

『……そう……そのあと、どうなった?』

「へっ?殺した後すぐ逃げたから、知らね」

『……蘇生屋に連れていかれた可能性がある……赤井、もう一度、皆吉愛生の安否を確認してきて』

「えー?それで、万が一生きてたらどうするつもりなんだよ?」

『確認できたなら———再度、処理して』

「…………はいはい。『家族』のためだからな、頑張りますよっと」


赤井紅は、軽く頷いた。

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