大事なものを聞かれて『名声』って答えるやつ初めて見たんだが
———紅は、ウィルフレッドの前に出た途端、悟った。
殺される。
「……誰だ?」
「渇探流君、私の後ろにいて下さい」
しかし、その核心は、渇探流がひょこりと顔を出した瞬間に消え失せた。
なるほど、ウィルフレッドの弱点は『医里渇探流』か。
ならば、渇探流の弱点は———?
特別な関係なのかと、紅は2人を注視する。しかし、ウィルフレッドの方は明らかな『熱』があるのに対して、渇探流は悪い意味で『フラット』な視線で、ウィルフレッドを見ていた。
———渇探流にとって、ウィルフレッドは『家族』じゃ、ない?
1番近い存在なのに?
なぜ?
———では、この『渇探流』は、何が大事なのだろう?
紅はもう色々と面倒くさくなって、直接本人に聞いてみることにした。
「なあ、医里渇探流」
「俺の本名知ってるのはデフォルトなのか?怖いが??」
「お前の……大事なものって、なんだ?」
んっ?と、渇探流は一瞬不思議そうな表情をしたが、キッパリとこう答えた。
「———名声」
「……………めい、せい??」
「名声。俺の存在価値はそこにある」
「…………………??」
紅は聞きなれない言葉が突然出てきて、フリーズした。
……コイツ、完全に自分のルールだけで動いてやがる。
名声って———そんなもん、どう壊せってんだよ!?いや———そもそも……壊せるもん……なの、か……??いやいやいや、どうやって壊せってんだよぉ!?
やっ、やりにくい……!!
「……その……もうちょっと、わかりやすいやつで、頼む……」
「……わかりやすい……?」
「それは渇探流君の恋人である私一択でしょう」
「この頭お花畑野郎は気にしないでくれ。全てが妄言だ」
「……?……??……???」
情報の本流に、紅は速攻で置いて行かれた。
「ええと……士道は……特別な……家族では……?」
「ない。ただの護衛だ」
「全て照れ隠しです」
「ポジティブにもほどがある」
———まあ、士道は、『壊せない』から、むしろ大切じゃない存在だったのは助かったまである。
「その……人とか、物とかで……大切な物、は……?」
「フィールドワーク」
「ふぃーるどわーく……??」
ダメだ。コイツの価値観がわからん。
「というか……お前、俺の大切なモノとやらを聞いて、どうするつもりだ……?敵か?」
「———いや、敵じゃない」
えーと、えーと、と、赤井は頭を働かせて、言い訳を考える。捻り出した答えは、これだった。
「その……医里渇探流の……ファンなんだ……」
「……それならば、尚更期待には応えられないな」
「どういうことだ!?」
「そのままの意味だ」
「そのままの意味!?」
紅は、素直に混乱した。頭からプシュー!と、湯気が出てきそうだ。
「……俺は……『亜種』らしい……今までの医里渇探流とは、違った存在だ」
「なる……ほど……?」
紅は湯気が吹き出す頭を傾げて、それでも会話を続けようと試みた。
「……亜種は……何が違うんだ……?」
「性格が違う」
「せいかくがちがう」
「大和撫子の常識人かと思えば、狂った破壊人が出てくることもある———が、とりあえず俺は、『亜種』らしいから、参考にするな」
「今の!!お前を!!知りてぇんだよ!!」
「おっ、おおう……すごい熱量だな……?」
「渇探流君の魅力は私だけが知っていればいいんですよ引っ込んで下さい———行きますよ、渇探流君」
「おっ、おう……まあ、そうだな、銀行にも寄らなきゃいけないしな」
「紅蓮炎の頭、赤井紅。誰の差金かは想像できますが、これ以上渇探流君の周りをうろつくなら———排除します」
ウィルフレッドは渇探流の手を引っ張り、足早にその場から去っていった。「引っ張るな足の長さの差を考えろ!!」と渇探流がギャアギャア言っているが、お構いなしに、そのまま角を曲がっていった。
「…………………」
紅は、スマホを取り出す。電話する相手はもちろん———青山だ。
『もしもし?』
「青山ぁ。無理だわ。壊すってやつ。めいせーとか、どうやって壊せばいいんだよ?」
『……名声?』
ふふっ。と、電話の向こうから笑い声が聞こえた。
『医里渇探流は、そんな高尚な人間じゃない———士道のことは大事だし……そうだな、皆吉愛生なんか、ちょうどいいんじゃない?』
「みなよしあおい?」
『アレは、自分と関わった人間が死んだら、普通にダメージを負う人間だよ。まずは……簡単なところから。皆吉愛生のデータ送るから、そいつから殺してみて』
「……なんかよくわかんねーが、とりあえず殺しゃいいんだな?それなら任せろ!!」
『期待してるよ———それじゃ』
ぷつり。と通話が切れて、皆吉愛生のデータが、送られてきた。




