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本物を選べと言われたが、本物がいないんだが

「これは……」

「カトゥールが……2人!?」

『ルールは簡単!どれが本物なのか当ててね⭐︎正解したら!!なんと!!スタンプを———押してあげるよ!!』


———なんだこの、クソゲームは。

『透明になった渇探流』は、呆然と、この茶番劇の一部始終を、観戦せざるを得なかった。

まずもって、声が出ない。響やウィルフレッドに触れようとしても、本物の幽霊のように、その手は空を切るばかりだ。思いっきり叫んでみたが、その言葉は空気を振るわせることなく、消えていく。

———幽霊。

その言葉が、ピッタリと当てはまる状態になっていた。


「「お前が偽物だろ!?」」


———いや、両方偽物だろ。

透明になった渇探流は、ギャアギャアと言い争う、『偽物達』を見て、頭を抱えた。

———『本物はいない』なんて回答は、普通この場で思いつかねぇだろ!?

クソゲーがよぉ!!と、動かした口は、ハクハクと、唇だけが形を成した。


「ふむ……これ、簡単じゃないか?」

「はい?」

「だって、カトゥールの左腕には、お前のネクタイが巻いてあっただろう?左の渇探流にはそのネクタイがない。よって、右側のカトゥールが本物だ」

「………………………」


違う!!違うって響!!両方とも偽物なんだって!!


「ふっ……浅い。浅いですね白石響」

「なんだと?」

「こういうとき、わかりやすい正否の証拠を残しておくはずがありません。すなわち、正解は———」

「……ネクタイが巻かれてない方……って、ことか……!?」


———違う。全てが違う。

ツッコミが出来ないって、こんなにストレスが溜まるもんなんだな。と、渇探流は思った。

しかし、ウィルフレッドは無表情で、違います。と、のたまった。


「あの2人、渇探流君じゃありません」


———えっ?


「———えっ?……とっ、どういう……ことだ……?」

「言葉のままの意味です。今『目に見えてるあの2人』は、渇探流君ではありません」

「……根拠は?」

「愛の力です」


寝言は寝て言え!!と、渇探流はハクハク口を動かした。

しかし、ウィルフレッドは懐から小さな子袋を取り出すと、それを辺り一帯にばら撒いた。


「士道……!?なっ、なにを……!?」

「不可視を、可視化する粉ですよ」


その粉は風に舞い、渇探流のところまでも飛んでくる。

そして———ウィルフレッドが少し辺りを見回したあと———視線が、合った。


「———ああ、ようやく……見つけた」


ニッコリ。と、笑うウィルフレッドは、確かに渇探流を見つめている。

渇探流は、少し泣き出しそうになって———首をブンブンと、誤魔化すように、縦に振った。

ウィルフレッドは、『可視化』された、渇探流へと歩み寄って行く。

そして、手を取ろうとして———その手が空を切った。

ウィルフレッドは、殺意を乗せた視線で、マスコットを射抜く。


「本物を見つけたぞクソ兎。早く渇探流君を解放しろ」

『あれれ〜⭐︎おっかしいな〜⭐︎ここ、どちらか選んでふせいかーい!貴方も今日からこの遊園地のスタッフです⭐︎っていう、爆笑必至のところなんだけど。というか、俺がその口だったんだけど』

「そんなことはどうでもいい。早く渇探流君を元に戻せ———ルールは、守るべきだろう?」

『それを言われちゃうと弱いな〜⭐︎ほいっ!』


マスコットがひらひらと手を横に振ると、渇探流はポンッ。という音と共に、実態を返された。


「———ぶはぁ!!よっ……よかった……!!はなっ、せる……!!」

「渇探流君!!」


ウィルフレッドが渇探流を抱き締めようとして来たので、渇探流はそれをヒョイと避けた。


「なんでですか!?ここは感動して再会の抱擁をするシーンでしょう!?」

「そんな台本は薪と一緒に燃やしてしまえ」

「カトゥール……すまん、間違えそうになった……」

「謝るな響。こんなクソゲーム当てられるの、チート野郎だけだ」

「今褒められました?」

「幸せな脳みそしてんなお前」


渇探流は片手をあげて、響と軽く拳を合わせる。


「とにかく返ってこれてよかった。お帰り、カトゥール」

「ただいま、響」

「……嫉妬で人間って殺せないんでしょうか……」

「ウィルフレッドも……その……見つけてくれて、助かった……あり、が……とう……」


その言葉を聞いて、ウィルフレッドの顔が、瞬間湯沸かし器のように赤く染まる。

ウィルフレッドは真っ赤に染まった手を口元に当てて、「これが……ツンデレ……!?」と、口走っていたが、渇探流はあえてそれを無視した。


「———よし、マスコット野郎、スタンプをよこせ」

『いいよ〜⭐︎ルールだもんね⭐︎どうぞどうぞ〜⭐︎』


ポンポンポン。と、ごく軽い調子でスタンプが3枚分、押されていく。

すると、そのスタンプカードが光り輝き———三つの扉が出て来た。


『その扉をくぐったら帰れるよ〜!皆でお手て繋いで帰れると思った!?孤独と闘いながら帰ってね〜⭐︎』


ケラケラケラケラ。と、マスコットは腹を抱えて笑い転げた。


「———それが『ルール』なら、致し方ないな」

「ああ、それじゃあまたな、カトゥール……今度は、普通に会いたいものだ」

「貴方が渇探流君に普通に会うことはありません」

「なんでお前がそれ言っちゃうの??普通に怖いんだが??」


そんな気の抜ける会話をしながら、三人は———というか、響と渇探流だけは手を振って———扉を、くぐった。

———暗い。

なんだ。神話的事象の出口は暗くなきゃいけないという決まりでもあるのか?

渇探流はそんなことを思いながら、暗い暗い、一本道を歩いて行く。

そんな中———突然、渇探流から少し離れたところに———首なし響が、現れた。

血まみれのスーツを身にまとい、渇探流へと手を振っている。


「……ひび、き———?」


思わず、渇探流はそちらへと足を踏み出しかけた———が、当の響が、ストップと言わんばかりに、手を突き出してきたではないか。


「響……?」


渇探流が不思議そうに語りかけると、首なしの死体は、『バイバイ』と、手を振る動作をして———消えた。


「響……!!」


渇探流が一歩、足を踏み出した途端———そこに、床はなかった。


「うぉっ……!?」


渇探流は足を踏み外して下へと落下しそうになるのを、持ち前の反射神経でなんとか耐える。


「ここにきて即死トラップかよ……!!」


身体の半分がずり落ちてしまったが、渇探流は虫のように通路へと這いずり、戻っていった。


「響……結局……どっちがどっちなんだ……?」


渇探流はそう言いながら、再び通路を進む。

そして———光に、包まれた。


「……………んあっ?」

「おはようございます、渇探流君」

「……………おは、よう?」


起きて0秒でウィルフレッド。渇探流はポヤポヤとする頭で、反射的にそう応えた。


「……ウィル……?あれ……夢……?」

「んんっ、かわいっ……いえ、夢ではありませんよ、渇探流君。『今度は大丈夫です』から、もう一度寝直しましょう」

「……うん……」

「かわいっ……食べたい……!!でも、段階……段階が大事ですから……!!」


爆速で寝落ちた渇探流の横で、ウィルフレッドはしばらく———いや、かなり長く、悶絶していた。


「———んっ……?」


白石響は、目を開けた。


「また……か。生きて帰ってこれただけ、御の字だな……」


そう言いながら、ベッドから降りる。今日は夜勤だ。時間を見て、響は仕事へ行くための準備をしに、洗面所へとやってきた。


「———なんだ?これ」


その、首には———ぐるりと一周、『切断面』のような痕が、残っていた。

しばらく響は考えるが、答えが出ない。


「一応……あとで病院にでもいっておくか……?とりあえずネクタイで隠れるし、まあ、いいか」


そう言って、響は日常へと、戻っていった。


『———医里渇探流を、壊して欲しい』


そんな依頼が、裏では動いていた。

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