本物を選べと言われたが、俺が二人いる時点でもう詰んでいる
———本物を選べ。と、言外に言われた。
「その……うーん……晶の……方に、する……」
渇探流は悩みに悩んだ結果、そう判断した。
視界の隅で、首なし響が「なんでだよ!!」と言わんばかりに床でのたうっているが、渇探流はそれから視線を外す。
「渇探流君がそう言うなら」
「うむ。晶のことも信用していいんじゃないか?」
「……ありがとう」
2人の同意を得て、進んだ先は———映画館だった。
「———はっ……?」
そこには、響が『死ぬ時』の映像が、延々と流れていた。
———びしゃ。
『———3回目までは、大丈夫』
不意に、どこかで聞いた声が、頭の奥で反響する。
———びしゃ。
「……やめろ」
———びしゃ。
「やめてくれ……」
———びしゃ。
……今、何回目だ……?
数えようとして、思考が滑る。
一回目。二回目。三回目。
———びしゃ。
……四回目?
「———あ?」
おかしい。
『3回目まで』のはずだ。
なのに、まだ続いている。
———びしゃ。
「やめろって、言ってんだろ……!!」
渇探流は叫んで、目を閉じ、耳を塞ぐ。
———びしゃ。
それでも、『見える』。
それでも、『聞こえる』。
それどころか———
……近い
さっきよりも、音が近い。
血の飛び散る音が、まるで『すぐ隣で起きている』みたいに。
「わあああああああああ!!」
叫んで誤魔化す。
だが、その叫びの中に———
———びしゃ。
自分の声じゃない『音』が、混ざっている。
「……気分が悪いな」
「渇探流君?大丈夫ですか?早くここから出ましょう」
響とウィルフレッドの声が、遠い。
晶の声だけが、やけに近い。
「ほら、オススメって、言ったでしょう?」
ニコニコと笑いながら、晶が言う。
「良いシーンだから、ちゃんと見て欲しかったんですよね」
「あっ……晶……お前……」
渇探流は、血の気の引いた顔で、晶を見る。
その瞬間。
———びしゃ。
視界が、赤く染まった。
「……あ?」
一瞬。
ほんの一瞬だけ。
『自分の手』が、映像の中に見えた気がした。
……今の……俺、か……?
理解したくない考えが、浮かびかける。
その背を———
首なしの死体が、そっと押した。
「……うっ……クソッ……!!」
渇探流は、押し出されるようにして、映画館を抜ける。
口元に、手を当てた。
「……気持ち悪い……」
口元を押さえたまま、渇探流は息を吐く。
その手のひらに———
ぬるり。とした感触があった。
「……は?」
手を離す。
そこには、何も付いていない。
だが———
———びしゃ。
耳の奥で、まだ音が鳴っていた。
……これは……本当に『映像』だった、のか……?
「大丈夫ですか?渇探流君、キスしましょうか?」
「……そのノリで、今は返せねぇ……」
「大丈夫か?カトゥール」
「……響……」
渇探流は、私服姿の響と首なし死体の響に背中をさすられ、情緒がぶっ壊れた。
「1番処理に困るやつやめろ!!」
「普通に背中を撫でただけなんだが!?」
「そうなんだけどそうじゃねぇんだ!!」
渇探流は両手で顔を覆う。それでも、背中を撫でる手は2本———いや、3本に増えた。
「……ウィルフレッド……心臓に悪いからやめてくれ……」
「手当ての語源は、手を当てるというところから来ているらしいですよ?」
「だからなんなんだ!!ああもう、とりあえず俺は大丈夫だから……!!」
渇探流は丸めていた背中を、スッと伸ばした。
首なしの方の響は親指を立てているが、私服姿の響は心配そうにこちらを見ている。ウィルフレッドはあえて除外だ。
「———よし、すまん。行こう」
「地獄までお供しますよ」
「1人でもう一回あそこ通ってこい」
そのあとは、割と典型的なお化け屋敷であった。
実際に上半身しかない女に追いかけられたり、骸骨が日本刀持って追いかけてきたり、やたらリアルなゾンビが追いかけてきたり。
「やたら追いかけて来る系多くねぇか!?」
「渇探流君がそれだけ魅力的だということですね」
「なんて???」
そんな中をコミカルな動きでついてくる首なし響。正直これが1番怖かった。私服響が冷静なのに何故か首なしの方はテンションが高い。なんでだ。普通に怖い。
そうして出口への一直線、あとは出口まで走り抜けるだけ———と、なった時。
「…………へっ?」
グイッ。と、首なし響が突然渇探流を引っ張って、動きを止めた。
「なんっ………」
ガシャン。
渇探流の目の前をギロチンの刃が通り抜けて行き、渇探流は理解が遅れて、次に恐怖がやって来た。
「ひっ……!!」
しかし、首なし響から背中を思いっきり押されて、その勢いで走り出し、皆に追いつく。
後ろを振り返れば———
首なしの、死体のはずの響が、軽く手を振っていた。
「ありが……」
とう。と言う前に、目の前で、お化け屋敷の扉が閉まった。
「カトゥール……!?大丈夫だったか!?なんか普通にギロチン神回避してたが……!!」
「見事な反射神経でした渇探流君。まあ、保護がかかっているのでどちらにしろ無事でしたが」
「……サプライズ、失敗しちゃった……」
残念そうな晶と明後日の方向を向いてるウィルフレッドは置いといて、渇探流は響と視線を合わせる。
「その……ありがとう、響」
「……なぜ、俺に礼を言うんだ?」
「……生きてる、から……?」
「うん?うむ、まあ。この響様に訳もなく礼を言いたくなる気持ちはわかるぞカトゥール。ありがたく貰っておいてやろう」
「おう……貰っといてくれ」
そうして4人は、最後の欄だけ残して、アトラクションのスタンプを全て押し終えた。
———館内放送が、流れ出す。
『医里……渇探流様……士道……ウィルフレッド様……白石……響……様……は……お近くの……スタッフから……スタンプを……お受け取り……下さっ、さっ、ささっ、ささささささキャハハハハハハハハハ!!』
最後に哄笑だけのこして、ブツリ。と、放送は切れた。
「だからジャンプスケアは苦手だって言ってるだろ!?」
「今のジャンプスケアにカテゴライズされますか?」
「微妙なところだが……それより、スタッフなんて———」
いないが。と、響が周りを見回した時———晶が、ニッコリと笑った。
すると、突然ポンッ。と、コミカルな音がなったかと思うと、晶が『マスコット』に、変身した。
『やあ⭐︎僕はスマイル⭐︎デッドランドのマスコット、デッドちゃんだよ⭐︎皆も気安くデッド様〜って、呼んでね⭐︎』
「何も気安くないんだが?」
思わず渇探流はツッコンでから———己が、いつ間の間にか、垂れ幕の内側にいることに気がついた。
「———へっ?」
『さあ⭐︎ドキドキ⭐︎本物はどっちかなショー!!』
そのムカつく声と共に、ジャッ。と、垂れ幕が開く。
目の前には、ウィルフレッドと、響。
『本物を当てればスタンプを押してあげる⭐︎外したら———アハッ⭐︎それは外れた時のお楽しみぃ⭐︎』
「「当てた時じゃなくて、外れた時なのかよ!!」」
渇探流と、その隣から『同時』に聞こえて来た声に、渇探流は「「はっ?」」と言いながら、隣を見た。
そこには———よく見知った。自分の顔。
「「……地獄、か……??」」
2人の渇探流は、全く、同時に、同じ言葉を吐いた。




