隕石降り注ぐ観覧車の中で心理戦をやらせるな
「晶」
「はい」
「お前———さっきから、『何回目』だ?」
響と晶は、特になんの異常もないまま、観覧車に乗っていた。
足を組んだ響が、油断のない目で、晶を見る。
晶は、キョトンとして、口を開いた。
「……なんの、話ですか……?」
「あのバカップルは気づいてないかもしれないが———いや、士道は気づいていても興味がないだけかもしれんが———お前、『こっち側』じゃ、ないだろう?」
「……こっち、側……?」
コテン。と、首を傾げる晶に、響はトントン。と、指先で座席を叩く。
「メリーゴーランドの時、お前、数を数えていたろう?なんなんだ?あの行為は。怪しんでくれと言っているようなものだろう?」
「数……?なんの、ことですか……?」
「……あくまで、シラを切るつもりか?」
「———あれ、3回目までは、大丈夫なんですよ『減ってない』ですから」
シン。と、ゴンドラの中の音が消える。
響は、視線を逸さなかった。
晶も、視線を逸さなかった。
しばらくして、ニコリと、晶が笑う。
「皆様が楽しんで下さるのなら、それ以上のことはございません」
「お前……やっぱり———」
「もう、観覧車、一周しましたね」
「……?何を、言って……?」
響は、そう言いながら、外を見た、すると、観覧車の入り口に———『今まさに』、観覧車に、乗り込んでいる、響自身がいた。
「なんっ……?」
響の認識が、『ズレ』た。
今、自分は、観覧車に乗った。
「乗れ」
「……降りろ」
下にいる響、上にいる響、二人が『ズレ』て、口走る。
響は、自分の口元を押さえた。
———どっちかは、『俺の声』では、なかった。
「———3回目までは、大丈夫なんですよ」
ニッコリと、笑顔を浮かべて、晶は言った。
「ウィッ、ウィル……!?」
「なんですか?渇探流君」
「うっ、うう、腕っ、腕が……!!」
「腕……?普通ですが……」
———ウィルフレッドには、見えていないのか!?
渇探流は、己から『生えた』3本目の腕を掴み———ギチギチと、引きちぎろうとした。
「かっ……渇探流君!?何をしているんです!?」
「いっ、異物を……排除しようとしてる、だけだ……!!『侵食』、される前に……!!」
「何をしてるんです———!?『それ』は、貴方の腕ですよ!?」
ウィルフレッドは、渇探流の『3本目』の腕を、取り押さえた。
それでも渇探流は、その腕が自身にくっ付いていることが気色悪くて、力を緩めない。
「渇探流君……!!それは、『貴方の腕』です!!正気に戻って下さい!!」
パチンッ!!と、ウィルフレッドが、渇探流の両頬を叩く。するとそこには———自身の『左腕』を、引きちぎろうとしている、己の手が、あった。
「…………あっ………?」
理解を拒む、一瞬。
———遅れて、やってくる『痛み』。
「……いっ……いだっ……!!」
「渇探流君!!」
身体を丸める渇探流の背中を、ウィルフレッドは優しく撫ぜる。そんな中、渇探流は———脂汗と、己がやろうとしていた事象への理解ができず、頭を上げられないでいた。
「渇探流君、渇探流……大丈夫、大丈夫ですよ……私が、私が側にいますから……!!」
ウィルフレッドの、焦った声が聞こえる。
相変わらず、ネクタイは『2本』ある。
それを、聞いて———
渇探流は、更なる絶望へと、落ちていった。
「………俺は、どっちだ?」
「その問いが出ると言うことは、響さんはお強い方なんですね」
「……踏んだ場数が、違うんでな」
響は、更に下の『響』を観察しようとした。が———しかし、そこには、『何もいなかった』。
「……相変わらず、理不尽だな……」
「突然出て、突然消える。『この世界』は、そう言うものでしょう?」
「そうだな……お前が、絶対的に、正しい」
響は、浮かんだ冷や汗を、雑に拭った。
「この世界は理不尽で、不条理で、狂っている———そんなの、『貴方』には、わかりきったことでしょう?」
「……ああ……こんな仕事をしていると、嫌でもわかる……それでも」
キッ。と、響は、晶を睨みつけた。
その、瞬間。
隕石が、一つのゴンドラを、撃ち落とした。
「ひっ……!?」
「渇探流君!!」
渇探流は、突然の揺れに頭を守る。そんな渇探流に覆い被さるように、ウィルフレッドは渇探流を守った。
バコン。ゴゴン。と、その間にもまるでシューティングゲームのように、隕石はゴンドラを撃ち抜いていく。
「これは……!!流石に……!!」
ウィルフレッドは、ぶつぶつと何かを唱えると、しばらくして、渇探流の身体を、何か膜のようなものが覆う感覚がした。
「ウィル……フレッド……?」
「無いよりは……マシです……!!渇探流君、身を、低くして———」
そんなことを言っているウィルフレッドの隣のゴンドラが、隕石にぶち当たって消えていった。
「……これは……渇探流君と共に死ねる、チャンスでは……?実質、結婚では……?」
「……えっ?」
ウィルフレッドの最低な発言は、幸運なことに隕石が落ちる音によって、かき消された。
「晶!?これはどういう———!!」
「お客様に楽しんで頂く、イベントですよ」
ニッコリと、晶は笑う。その背中を、赤い彗星が横切った。
「死ぬが!?」
「そんな世界でしょう?」
「死ぬんだが!?」
「そうですね、そんな世界でしょう?」
「そうなんだが!!これでは、楽しむどころでは無いだろう!?」
「………?……そう言われてみれば、そうですね」
その一言で、ピタリと、『隕石』が、消えた。
「…………おおい……」
響は、隕石の痕跡が何一つ『残っていない』観覧車を、見る。
とりあえず息を吐いて、席へと座り直した。
「とりあえず……助かった……?」
「別の催しを用意しますね」
「えっ」
「リアル百鬼夜行、行きましょうか」
「楽しさの基準を人間寄りにしてくれ頼む晶」
「遊園地にパレードは必須でしょう?」
「そんなパレードは嫌だ選手権があったら優勝できるぞ」
「…………そうですか?おかしいですね、俺が1番、ニンゲンなんですが……」
そんなこんなしているうちに、観覧車は一周して、地上へと降りた。
ちなみに、ウィルフレッドのネクタイは『2本』のまま、変わらなかった。
「おい……なんか……すげえ疲れたんだが……」
「今回のMVPは俺だと主張したい……しかし、なんで士道のネクタイは2本になってるんだ……?」
「2本……?何を言って……本当ですね……」
ウィルフレッドは2本のうち、一本をシュルリと解くと、そのネクタイを渇探流の左手首に縛りつけた。
「……?ウィルフレッド……なに……?」
あまりの訳のわからなさに、渇探流は困惑の声を上げる。
ウィルフレッドは、ニコリと笑った。
「結婚指輪みたいですね」
「お前の頭は×××なのか?」
放送禁止用語が、滑らかに口からでた。




