護衛の声が二重に聞こえてくるんだが???in観覧車の中
「こちらはだいじょう———ぶではないな!?」
「『こいつら』と、目を合わせるな!!」
渇探流と響は叫んだ。晶は、首を傾げた。
響は乗っている馬の口角が上がり、響を見つめていることに気がつくと、渇探流の言う通り、すぐさま目を逸らす。
響が急いで馬から離れようとして———それを、晶が止めた。
「危ないですよ……降りたら、『どうなるか』分かりません」
「そんな場合か!?」
「『ルール』は、守りましょう?」
「ぅぐっ……!!」
響は歴戦の探索者である。こういった空間で、『ルール』を破るとどうなるか、身をもって経験してきた。
「……渇探流!!晶!!ついでに士道!!メリーゴーランドが止まるまで、目を閉じておけ!!」
「……わかった!!」
渇探流は無意識にウィルフレッドの手をぎゅうと握り、目を閉じた。
『———ありがとう…ございました……お客様は……お気をつけて……お降り……下さい……』
——自分の呼吸音だけが、やけに大きく響いている。
永遠にも思えた、数十秒。
そのアナウンスが聞こえたと同時に、渇探流達はメリーゴーランドからまろび出た。
——黒い『人影』達は、目を開けた時には既に居なかった。
メリーゴーランドから降りると———影達がいた場所には、大量の黒い『シミ』がこびりついていた。
「……最後まで……持つ気がしねえ……」
「大丈夫ですよ。何度でも私が、『守って』差し上げますから」
「銃で撃って終わりなら、俺でも戦えるんだがなぁ……」
———まだ、呼吸が整っていない。
渇探流はウィルフレッドの言葉をスルーし、一応、全員、メリーゴーランドのスタンプを押すことができた。
微妙な沈黙が、辺りを包む。
誰も、一歩目を、踏み出せなかった。
「さて……次は、観覧車、か……」
「もう、いやな予感しか……」
「そういう感覚は大事だぞカトゥール。俺も嫌な気しかしない」
薄暗い廃遊園地、誰もいないその中を縫って、渇探流達は観覧車へと辿り着く。
その観覧車の入り口には、デカデカと『ご乗車人数はお2人まで』と、書かれていた。
「……4人で乗れねぇのかよ!!」
「これは……組み分けとして……」
「もちろん、渇探流君と私で乗ります」
「あっ、ちよっ、まっ、ウィルフレッド!!引っ張るな!!」
「……あっ、ちょっと待って下さい」
さっそく渇探流を引っ張って観覧車に乗ろうとしていたウィルフレッドを、晶が止める。
「……ちゃんと、選んだ方が、いいですよ?」
「……何か思い出したのか?」
「どうでしょう」
ウィルフレッドのキツい視線に、晶はヘラリと笑って返した。
ウィルフレッドは舌打ちを一つすると、観覧車をじっくりと『視る』。そして———
「……たぶん、これなら大丈夫です。いきましょう渇探流君」
「なあ俺に拒否権をくれよ」
「存在しないものを求められても困ります」
「存在ごと消滅させるなよ!!あるだろ!?あるよな!?」
あるって言ってくれ!!と渇探流は叫びながら、ウィルフレッドと共に観覧車に乗って———というか、乗らされていた。
「……さて、俺たちも行くか、晶」
「はい」
「『どれ』に乗る?」
「……響さんは、どれに乗りたいですか?」
「俺は、晶が乗りたいと思ったやつに乗りたい」
「……かしこまりました……では、こちらへどうぞ」
響は晶に案内され、別のゴンドラへと乗り込んだ。
———渇探流は、握られたままの手と、ピットリとくっ付いてくるウィルフレッドに対して、辟易していた。
「……近い」
「何かあった時、近くにいた方が守りやすいでしょう?」
「この距離では逆に守りにくいだろう」
「適正距離です」
ニッコリと笑うウィルフレッドを見て、渇探流はため息を吐く。いつもの調子のこの男に、安心すればいいのか、呆れればいいのか。
———いや、コイツに対して安心しちゃ、ダメだろ。俺。
自分が考えたことにゾッとして、渇探流は景色でも見ようと、外へ目を向けた。
「…………?」
その瞬間。『外』ではなく、『手』に、違和感があった。
手が、冷たい。
「ウィルフレッド……?」
「………なんですか?渇探流君」
「………なんですか?渇探流君??」
そこに、いる。
——なのに。
「声……おかしくない、か……?」
「そうですか?」
「そうですか??」
「…………!?」
ウィルフレッドの声が、『二重』に、聞こえた。
指の感覚が、鈍い。
渇探流はもう片方の手で、ウィルフレッドのネクタイを掴んだ。
「ウィルフレッド……!?お前……なんだ、それ……!!」
「……何がですか?どうしたんですか?渇探流君」
「っ、はっ………」
突然、正常に聞こえたウィルフレッドの声に、渇探流は間抜けな吐息を漏らした。
ウィルフレッドは、渇探流の手を、そっと包み込む。
その手は———生きている温度では、なかった。
「なっ、なあ。ウィルフレッド……」
「——————」
ウィルフレッドは、渇探流を見ている。
いや、見ている、『だけ』であった。
「ウィル?」
「……何がですか?どうしたんですか?渇探流君」
「——————っ、」
先ほどと全く同じ言葉を返されて、今度こそ、時が止まった。
———握っている。この手の先にいるのは『誰』だ?
「渇探流君?」
「………はっ?」
『後ろから』聞こえてきた声に対して、渇探流は———
いや、目の前にも。
掴んでいるネクタイが、『2本』に、なっていた。
「…………えっ?」
パチリ。と、渇探流は瞬きをする。
しかし、ネクタイが2本ある現実は、変わらなかった。
いや、それよりも。
手が、足りない。
——いや、違う。
足りないんじゃない。
増えてる。
「……なんで……?」
———理解が、止まる。




