スタンプを集めないと出られない廃遊園地とか聞いてないんだが
———一度入ったら出られない廃遊園地が、実在する。そう、部屋の手記に書いてあった。
『……本日は……当……園に……お越し……下さり……ありがとう……ございます……医里、渇探流様……士道……ウィルフレッド様……白石、響……様……様……様……』
「……名前……呼ばれたぞ?」
「こちらの存在は、既に認知されてますね」
「お前、落ち着き過ぎてやしないか?」
「……カトゥール?」
「響!?」
渇探流に声をかけてきたのは、白木部屋でも一緒だった、白石響だった。
白木部屋で「カトゥール」という本名しか教えていなかったので、その名前で呼ばれると、渇探流は気が緩んでしまう。
渇探流の表情が、パッと明るくなった。
それを見て、ウィルフレッドが真顔になった。
響は渇探流の肩に手を乗せると、素直に再会を喜んだ。
——数少ない、『まともに話が通じる相手』だ。
「久しぶり———でも、ないな。こんな再会になってしまったが、また会えて嬉しいよ、カトゥール。手の傷は大丈夫か?」
「あっ、ああ。実は———」
「……誰ですか、その男」
渇探流の肩をグイッと引き寄せて、ウィルフレッドは響を睨みつけた。
響は面食らった表情で、ウィルフレッドを見る。しかし、ウィルフレッドを見てから———固まった。
「お前……もしかして、士道、ウィルフレッド……か?」
「そうですが。貴方、渇探流君のなんなんです?」
「なに……?何と聞かれると困るが……あえて言うなら、『戦友』か?」
「貴重な常識人枠だ。放っとけ馬鹿野郎。響、こいつの存在は無視してくれ」
「無視……するには、少し、無理がある……な?」
響は、ピットリとくっ付いている二人を見て、ふむ。と、顎に手を当てた。
「まあ、あの『士道』がいるなら心強い。カトゥールもいるなら尚更だ。早速、探索を———」
「……あっ……あのぉ……」
不意に、背後から聞こえたその声に、その場の全員が、バッと、そちらを向いた。
そこにいたのは、小柄な青年であった。髪は金髪のようだが、黒いフードを被っているせいか、あまり陽キャには見えない。
その青年は、オドオドとしながら話し始めた。
———だが、何故かその目だけは、妙に冷静に見える。
「その……俺、飯島晶って言います……俺も、その……気がついたら、ここにいて……」
「君も『探索者』か?初めてか?継続か?」
「えっ……と……継続……です……」
「継続か。それなら安心だな。職業は何をしている?」
「あっ……そのー……一応、ダンサーを……しています……」
渇探流は、その男をじっくりと観察した。
ダンサーというだけあって、筋肉はそこそこついているようだ。渇探流が何かを言う前に、飯島が皮肉げに笑った。
「だ、ダンサーって言っても……鳴かず飛ばすで……アルバイトで、生計立ててます……」
「……その……頑張れ、よ」
渇探流は思わず、晶の肩を叩いた。
晶は苦笑をして、話を続ける。
「そっ……その……俺、ここの遊園地……来てる……はず……ですんで……案内、します……」
「「「……はっ?」」」
晶の言葉に、全員の声が揃った。
『……館内……放送……です……本日は……閉園……閉園……閉園……———退園、して下さい』
酷くノイズがかった放送が、深夜の廃遊園地にこだまする。『閉園』と繰り返すスピーカーは、この状況の異常性を際立たせていた。
———そういえば。さっきの放送……三人しか、呼ばれてなかった……ような……?
しかし、そんな渇探流の疑問は、響の声によってかき消された。
「……閉園?」
「あっ……退園の放送だ……いっ、急がないと……!!」
「ちょっとまて晶。お前はどこまで知っている?前回はどうやって帰ったんだ?」
響が晶に尋ねると、晶は当然のように、ポケットから一枚の紙を取り出した。
「アトラクションを体験して、スタンプを集めるんだ。全部揃えたら——出口が出る」
———それを言う時だけ、やけに迷いがなかった。
「前回は全てのスタンプを押したら、出口が現れたのか?」
「うっ、うん……そんな感じ」
「2度もこんな廃遊園地に誘われるなんて、お前かなり運がないんだな……」
「……運がないのは……生まれつきだから……」
響と晶が話している横で、渇探流はウィルフレッドの腕の中で、ゴソゴソと自身のポケットを漁ってみた。
確かに、いつの間にかスタンプラリーのカードがポケットに入っている。
そこにはこの遊園地の名称が書かれてあり、ポップな字体で『スマイル⭐︎デッドランド』と書かれていた。……笑っているのに、何一つ楽しくなさそうだった。
渇探流はそのカードをジッと見ると、首を傾げる。
「このスタンプラリー……結構あるぞ?メリーゴーランド、観覧車、ジェットコースター、お化け屋敷……最後のスタンプには何も書かれていないが、これはなんなんだ?晶」
「そっ、それは……その……」
よく、わからなくて……と、晶が俯く。
「よくわからなくて?前回は脱出できたんだ———んぐっ」
渇探流はウィルフレッドに口を押さえられて、モゴモゴと不明瞭な声を出した。
「よくわからないとは、どういうことですか?」
「えっ……ええと……この遊園地から出ると、記憶が曖昧になるん、だ……僕も、全部を覚えてるわけじゃない」
渇探流は、視線だけで響に「本当か?」と尋ねた。響は「そう言うこともよくある」と言って頷いている。
ならば、本当か。
渇探流はウィルフレッドの手を引き剥がすべく、渾身の力を込めた。
「……ぶはっ……!!……ちなみになんだが、スタンプラリーを集められなかった場合……どうなるんだ?」
「…………………」
晶は、少しだけ、微笑んだ。




