ただ、そばに
「貴方はアリスでも、今までの医里渇探流とも違う———カトゥール・ウェンライト」
「……はっ……」
渇探流はドクドクと心臓から送られてくる熱が、顔に集まるのを感じていた。
ウィルフレッドが、概念としての『医里渇探流』ではなく、『カトゥール・ウェンライト』という、『個』を認識した。ただ、それだけの出来事だ。
それだけの出来事だと言うのに———渇探流は、どうしようもなく、嬉しくなってしまっている自分を、制御することができなかった。
「うぃ、ウィルフレッド……?」
「はい、渇探流君。いえ———白石のように、カトゥールと、呼びましょうか?」
渇探流は、心臓が握りつぶされるかと思った。
「いっ、いいっ!!今更、お前にカトゥールと呼ばれるのは、ちょっ、調子が狂う!!」
「……そうですか?」
ウィルフレッドは、ずいっと、渇探流に顔を近づけた。
「……顔が、赤いですね」
「きっ、気のせいじゃないか!?」
「いいえ、気のせいなんかじゃありません」
ウィルフレッドは———渇探流の顎を掴んで、上にあげる。
「……赤いです」
「うっ、うるさ———」
渇探流がその言葉を言う前に。
ドビャッ、と、渇探流の全身から血が吹き出した。
「渇探流君!?ああそうだった、反動、が———ゴブッ」
ウィルフレッドのその言葉を、どこか遠くで聞きながら———渇探流の意識は、急速に暗闇へと落ちて行った。
———そして、次に目を覚ましたのは、やはり病室だった。
「……ウィル……?」
「はい、なんですか?渇探流君」
無意識に渇探流がそう呼ぶと、隣から———たくさんの管に繋がれた、ウィルフレッドが普通に返事を返すものだから、渇探流は仰天した。
「ウィル!?ちょっ、大丈夫なのかその状態は!?」
「渇探流君に治癒の呪文を使ったあと、瀕死の重傷を負っただけです。大したことではありません」
「大したことだが!?」
渇探流は急いでウィルフレッドの隣へと駆け寄ると、治癒の呪文を使おうとして———まだ使えないことを悟って、ガックリとした。
「……すまん、ウィル……もうちょっと、まってくれ」
「渇探流君が謝ることではありません」
それより———と、ウィルフレッドは重症のくせに、いやに楽しそうに語りかける。
「貴方にウィル、と、愛称で呼ばれるのは———いつぶりでしょう」
「……………??…………???………あっ」
渇探流は完全に無意識でやらかしてしまった事実に気がついて、茹だってしまうのではないかというほど、顔を真っ赤に染めた。
それを見て、更にウィルフレッドは笑みを深める。
「貴方に、私が侵食しているようで———なによりです」
「……うるさい。侵食してない。キモい。バカ」
「はい、私は貴方に、狂っているのです」
「……『医里渇探流』に、狂ってるんだろ」
「いいえ」
ウィルフレッドは、ハッキリと言い切った。
「カトゥール・ウェンライト———貴方に、狂っております」
「………………っ!!……そっ、そう……かよ……!!」
渇探流は、バクバクと鳴る心臓を鎮めるように、上から強く押さえつけた。
「渇探流君、愛しております」
「……頼むから、それ以上喋らないでくれ……!!」
「いいえ、黙りません。こんな絶好の機会———ゴホン……貴方に愛を捧ぐのに、時と場合は関係ありません」
「そこは関係あれよ……!!瀕死の重症者……!!」
「以前、貴方を別個に認識できたら、考えるとおっしゃいましたよね?」
「……言った」
「……考えて、いただけますか?」
「……考えるだけ、だぞ……考えるだけだからな……!?」
「はい。思う存分、考えて———私で、いっぱいいっぱいになって下さい」
「……このやろう……!!」
渇探流は色々と耐えきれなくなって、病室から出ようとして———しかし、その足はピタリと止まると、ウィルフレッドのベッドの隣の椅子へと、進んで行った。
ぽすん、と簡素な椅子に座り、俯いたまま、渇探流は話す。
「……考えてやるよ、ウィル。高確率で……期待には添えねぇがな」
「私は、賭け事は強い方なんですよ」
「……そうかよ」
渇探流は、その言葉を最後に、黙った。
ただ、黙って、ウィルフレッドのそばに、いた。




