表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
102/134

アリスではない

「……はい、はい……承知致しました……今度の医里渇探流は……『もつ』かと……はい……現在、発狂の兆しは見られません……はい……」


ウィルフレッドは病室から出た瞬間、通話先の相手に『報告』をしていた。

なんてことない、くだらない報告だ。渇探流が壊れていないかと、上のお偉い方は、口だけは心配している———己の、保身のために。

まだ渇探流が『使える』ことを報告し終わると、ウィルフレッドは病室へと急いで戻って行った。

そこは———


「……渇探流……君……?」


誰もいない、病室で。

———ベッドを触ってみると、まだ暖かい。


「渇探流君……!!」


ウィルフレッドは病室を出て———そこで、『異常』に対して、足を止めた。

病室を出た途端に、鬱蒼とした森。

ウィルフレッドは辺りを注意深く観察し———一つの木に、目を止める。


「……おやおやぁ。君、目がいいねえ?みつかっちゃったにゃあ」

「お前……ここは、以前の場所か?もしかして、渇探流君もここに来たのか?」

「……かたる?だれだにゃあそれは。アリスならきたにゃあ」

「……アリス、だと?」

「そう、次のアリス。マッドハッターのお気に入り。お転婆で口が悪くて、マッドハッターは趣味が悪い」

「……口を慎め、化け猫」


ウィルフレッドは、拳銃をホルスターから引き抜いた。


「彼は、『医里渇探流』だ。アリスだと?あの方をそんな概念に押し込めるな、クソ猫」

「……アリスと一緒にいないときは、あんたも口が悪いにゃあ」

「吐け。『医里渇探流』は、どこにいる?」


キヒッ、と、チェシャ猫は笑った。


「執念だけでここまで追ってくるアリスのストーカーに、場所を教えるわけないにゃあ〜?」

「……ならば、死ね」


軽い発砲音が、二度、響く。

しかし、ウィルフレッドが撃ち抜いたのは———先程までチェシャ猫がいた、木の幹だけだった。


「……チッ」


ウィルフレッドは舌打ちをして、空になった弾倉を捨てる。すぐに次弾を装填して———もう、周りに何の気配もないことを確認すると、懐から方位磁石を取り出した。

ブツブツと低く呪文を唱えると、その磁針がグルグルと高速で回り出す。

そして———ピタリと突然止まると、とある方向を赤い磁針が指し示す。

ウィルフレッドはそちらに視線を向け———


「……待っていて下さい。渇探流君」


拳銃と方位磁石、両方を持って、駆け出した。


「やあ!みない顔だね?アリスを探して———」


いきなり話しかけてきた亀の顔面を撃ち抜き。


「そんなに急いでどこへ———」


美しい声のカナリアを撃ち抜き。


「ぼくの音楽を聞いて———」


バイオリンを抱えるバッタを踏み潰す。

全ては、最短、最速で、『医里渇探流』に会うために。

そうして息も切らさずに走り続けた先に———渇探流の後ろ姿が見えてきた。


「渇探流く———」


ウィルフレッドが椅子に座っている渇探流に声をかける、その一瞬前に———

マッドハッターが、動き、渇探流に———口付けた。


「……はっ……?」


ウィルフレッドは、反射でマッドハッターに向けて、弾倉が空になるまで弾を撃ち込む。

文字通りの蜂の巣になったマッドハッターは、全身から血を流しながら———帽子を取った。


「———おや、招かれざる客人だ……招待状は、持っているかい?」


その顔は———鼻から上が、『存在していなかった』。


「マッドハッター、死ね」


しかし、これしきのことでウィルフレッドは止まらない。すぐさま弾倉を変え、撃つ。撃つ。撃つ。

しかし、それを止めたのは———ふらりと立ち上がった、渇探流だった。


「……やめろ」

「……渇探流君……!?なんで、そんなやつを庇うんですか……!?」

「……?マッドハッターは、俺の友人だ……友人を庇うのは……自然なことだろう……?」


———あと、俺の名前はアリスだ。


「……違います!!あなたの名前は、『医里渇探流』です……!!」

「……いざ、と……かた……る……?」

「彼はいったい、誰の話をしてるんだろうね?ねぇ?アリス」

「……マッド……ハッター……だい、じょう、ぶ?」

「僕の心配をしてくれるのかい!?アリスは優しいなあ、さっきまでのお転婆アリスも好きだけど、やっぱり素直なアリスが一番だよ!!」

「……渇探流君……!!」


医里渇探流の、いつも強いぐらい輝いている瞳に、光がなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ