そこは死んどけよマッドハッター
———カチ、カチカチ、カチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチ———
渇探流は仕方なく、トングをカチカチと鳴らし始めた。だって、鳴らさないと五秒後には爆発するんだぜ、このトング。
そんな危険物をカチカチと鳴らしながら、渇探流はグルリと店内を見回した。
店内には、トランプ兵、ドードー鳥、犬なんだか猫なんだかよくわからないものたちが、カチカチとトングを鳴らしながらパンを購入しようとしている。
商品名は、相変わらず酷かった。
『生首のタルト』
『あの子のハートを物理的に射止めるメロメロメロンパン(1%)』
『ワンチャンある食パン(10%)』
『アリスの手首』
「……どれもこれも、購入意欲がわかない……」
「おや、どれも美味しいですよ?お客様」
「店員……そうだ、この場所を知っているか?」
渇探流はトングをカチカチと鳴らしながら、店員にティーパーティーの招待状を見せた。
その招待状を覗き込んだ店員は、ニコリと笑う。
「はい、存じております」
「本当か?場所を知りたい」
「パンを購入して頂いたら、教えて差し上げます」
「……………………………マジか」
カチカチ、カチカチ、と、トングを鳴らしながら渇探流は店内を見回すが———少し思いついたことがあったので、メロンパンを購入した。
店員は、メロンパンを包みながら、意外そうに渇探流を見る。
「どなたか射止めたい御仁がいらっしゃるんですか?」
「さあ、どうだろうな」
渇探流はニヤつきながらパンを購入し、店員にティーパーティーの場所を教えてもらうと、外へと出た。
「……あの二人がいないと、こうもスムーズにことが運ぶのか……」
己の護衛二人を思い浮かべながら、渇探流はちょっぴり切ない気分になる。命の危険がなかったら、前の世界みたいに一人気ままに、フィールドワークを行っていただろうに。自由に一人で出歩けないこんな世の中じゃ、ポイズン。
とまあ、そんなことは置いておいて。
パン屋に教えてもらった通り、パン屋を出てから北に300歩、東に250歩、南に444歩、西に13歩歩けば———空気が、変わった。
森の匂いが消え、代わりに甘ったるい花の香りが鼻につく。
いつの間にか、渇探流は湖面が美しく揺れる、ハート型のピンクの葉っぱが群生している場所へと立っていた。
「———おや?アリス!?アリスじゃないか!!来てくれたんだね!!」
「マッドハッター」
その湖畔で、マッドハッターと眠り鼠、トランプ兵、殻を継ぎはぎにしたハンプティとダンプティが席に座り、ティーパーティーを催している。
———この世界では、言葉遊びですら、人を殺す。
渇探流は、先程購入したメロンパンを取り出して———振りかぶった。
「貴方のハートを物理的に射抜け!!メロンパン!!」
豪速球で放たれたメロンパンは———そのまま、マッドハッターの心臓を正確に撃ち抜いた。
撃ち抜いたあと、ご丁寧にも『ちゅどおぉぉぉん』、という、ドクロマークが出るタイプの爆発までしてくれた。
「よしっ!!説明文に偽りなし———片付いたな!!」
「……いたた……酷いな〜今度のアリスは……まっ、そんなお転婆なところもいいんだけどね!『前回』のアリスは素直すぎて、すぐに飽きちゃったから!!」
「……チッ……おいおい……」
心臓に風穴を開けたマッドハッターは、へらへらと口元だけで笑いながら、その場に普通に立っていた。
なんなら、また殻が割れて中身が出ているハンプティとダンプティの方が重症まであったが、渇探流はそんなことは関係ねえとばかりに、舌を打つ。
「おい、心臓を撃ち抜かれたんだぞ?そこは死んどけよマッドハッター」
「ははっ、心臓なんてただの『飾り』さ!そんなことより、僕のハートを射抜いたんだ。もちろん———責任は、取ってくれるよね?アリス」
「俺はアリスではない。人様の名前も覚えられないやつの責任なんて、取る理由はないな」
「……今度のアリスは、手強いなあ。まあ、とりあえず座りなよ、アリス!招待状を持ってティーパーティーにやって来たんだ、参加をするのが『義務』だろう?」
「……ぐっ……」
マッドハッターの言葉に、渇探流の身体は意識に反して、勝手にフラフラと歩いて、ティーパーティーの席に『座らされた』。
———楽しい楽しいティーパーティーの、始まりである。
「アリス、楽しんでいってね!!」
マッドハッターは、本当に楽しそうに、口角を上げた。
———その心臓から、ドクドクと血を流し、テーブルクロスを汚しながら。




