君が来たからだよ!!
「チェシャ猫、マッドハッターに会わせろ」
「マッドハッターは神出鬼没。会おうと思って会える相手じゃないにゃあ」
「じゃあ、どうすれば会える?」
「……アリスが死にそうになった時、とか?」
「おい!不穏な言葉を残していくな!!おいクソ猫!!おい!?」
渇探流がそう言っている間にも、チェシャ猫は徐々に消えていき———姿を消した。
渇探流は、チッ、と、大きく舌を打つ。
この世界のルールは把握済みだ。
改変すれば、『戻った時』にデカいツケが来る。
「とりあえずマッドハッターを探して……」
「「やあ!君が新しいアリスだね!!黄身だけに!!」」
「…………………………帰っていいか?」
渇探流は突然現れた双子の『卵』に、辟易した視線を向けた。
双子の卵———ハンプティとダンプティは、そんな渇探流の周りをグルグルと回りだす。
「今度のアリスは男の子?」
「可愛くなーい。目が怖ーい」
「でもマッドハッターのお気に入り!!」
「そう!!マッドハッターのお気に入り!!」
「……目がまわる……」
同じ卵がグルグル回りながら話しかけてくるという地獄絵図に、渇探流は早くもギブアップしそうになった。
しかし、ここで挫けないのが渇探流である。
渇探流はグルグルと回っている二つの卵と、会話を試みた。
「お前ら、マッドハッターの居場所は知ってるか?」
「マッドハッターの」
「居場所?」
「「知らなーーーーい」」
「……そうか、それじゃあな」
「えっ、ちょっとまってよアリス!!」
「マッドハッターの居場所は知らないけど、お茶会の招待状なら持ってるよ!!」
「……招待状?」
渇探流は卵たちから離れようと足を向けた途端、気になる言葉にその足を止めた。
双子の卵は、それぞれの手に招待状を持ち、渇探流にヒラヒラとそれを見せてくる。
渇探流はその一枚を奪い取って、中身を見た。
そこにはポップな字体で『マッドハッターの血祭りティーパーティー♡』と書いてあって、渇探流は無言で拳を握りしめた。
「とりあえずその卵、かち割っていいか?」
「えっ!?なんで!?」
「今度のアリスは怖ーい!!前のアリスは優しかったのに!!」
「……前のアリス?」
ここで、渇探流は片眉を上げた。
「前のアリスとやらは、どこに行ったんだ?」
「「えっ?死んじゃったけど??」」
「……だろうな。なんで死んだ?」
双子の卵は、手に手をとって首を傾げる。まるで、『なんで当たり前のことを聞いてくるんだろう』とでも言うかのように。
「「アリスじゃなくなったからだよ!!」」
「……なんで、アリスじゃなくなったんだ?」
「「君が来たからだよ!!」」
「……はっ?」
渇探流は、思わず間抜けな声を出してしまった。
双子の卵は、代わる代わる喋りだす。
「君が次のアリスとしてマッドハッターに気に入られたから!」
「『前のアリス』はいらなくなっちゃった!!」
「「だから首を刎ねられた!!」」
ねー!!と言って、双子の卵はゲラゲラと笑い出した。
———渇探流は、何も言わずに拳を振り抜いた。
すると、双子の卵は両方ともパックリと割れて、中の黄身を露出させる。
「痛いよ!!痛いよー!!」
「何するのさアリス!酷いよー!!」
「……無邪気なのが、逆に悪い」
渇探流は一応、もう一枚の招待状も奪い、二人分のお茶会の招待状を持って———その場を離れた。
背後から子供のような鳴き声が延々と聞こえたが、それでも渇探流は、振り返らなかった。
———振り返る価値も、なかった。
「……さて、お茶会の場所だが……」
渇探流は奪った招待状を見て、さっそく首を捻っていた。なんせ開催場所が『赤いハートの木から斜めに45歩行った先にあるレンガの家を半周した湖畔』と書かれていて———意味がわからない。
「誰だこの地図書いたやつ……無能か?分からせる気ゼロだろこれ……書いたやつ殺すぞ……?」
ブツブツと呟きながら、渇探流は当てもなく歩を進める。
そうやって進んでいくと、可愛らしい外観の家が見えて来たではないか。
ちょうどいい。中に人がいたら、この場所を聞いてみよう———
そんな思いで渇探流はその愛らしい外観の扉をノックして、「すみません」と声をかけてみた。
そうしてみれば———「どうぞいらっしゃいませ」と返事が返ってきた。
「すみません、少しお尋ねしたいことがあるのですが———」
「とりあえず中へお入り下さい。お話は中でしましょう」
「……ありがとうございます」
渇探流はそう言うと、カランカラン、と鈴が鳴るドアを開けて中へと入っていった。
すると、そこには———
カチ、カチ、カチカチ、カチカチカチカチカチカチカチカチカチカチ———
金、銀、銅のトングを鳴らす、大量の客、客、客。
「いらっしゃいませ『お客様』」
「おまっ、お前お前お前ーーー!!またトングかよ!!」
渇探流は、思いっきりツッコミをしたあと、パクパクと口を開閉するしかなかった。
———そして、その手に銅色のトングが、強制的に握らされた。




