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半月の帰蝶〜歴史の先にあなたがいる〜  作者: 日向 葵衣


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5 夢なら覚めて

読んでいただきありがとうございます!

 しばらく、二人の間には沈黙が流れた。玲奈は頭が真っ白になり、身体の力が抜け、膝から崩れ落ちていった。


 女性が慌てて玲奈に駆け寄った。


 「帰蝶様!どうなさいましたか?やはりまだ具合が悪いのですね?医師(くすし)を呼びにいってまいります!」


 「だ、だいじょうぶ。ちょっと目眩がしただけだから」


 落ち着け、まずは落ち着こう。夢なら、いつか覚める。もしそうでなければ、映画やアニメのように何かの拍子に元の身体へ戻れるかもしれない。


 そもそも、本当に私は帰蝶の身体に入っているのだろうか。


 玲奈はちらりと、目の前の女性を見た。この人は、私のこの顔を見て帰蝶と言ったのだ。


「あの……」


「はい、帰蝶様」


「あなたのお名前を、聞いてもいいですか?」


 女性は驚き、訝しげな顔をした。


「私の名でございますか?」


「ううん……あ、いえ、うん。そうです」


 言い直した玲奈に、女性は少し困ったように微笑んだ。


「お福にございます。いつもお側におりますのに、まさかお忘れになってしまわれたのでしょうか」


「お福さん……」


 玲奈は、その名を小さく何度も繰り返した。


 この人は、帰蝶の側に仕えている侍女なのだろう。お福の表情には、心配と戸惑いが浮かんでいた。


 当然だ。


 いつも一緒にいるはずの姫が、突然、自分の名前も分からないようなことを言い始めたのだから。


「ごめんなさい。ちょっと、頭が混乱していて……」


「やはり、医師をお呼びしたほうがよろしいでしょうか」


「くすし?」


「はい。昨夜から具合が優れぬご様子でしたので」


 玲奈は口をつぐんだ。


 医者か。この時代にも医者はいる。それは歴史の本で読んで知っている。


 けれど、今ここで医者に診てもらったら、何か分かるのだろうか。そもそも医者ではなく医師(くすし)とは、薬剤師といったところか。


 医者に診てもらったところで、自分は帰蝶ではないと訴えても、信じてもらえるはずがない。それどころか、頭がおかしくなったと思われるだけだ。


「ううん。大丈夫。少し、一人で考えたいの」


「ですが……」


「お願い」


 思ったより強い声が出た。


 お福は驚いたように目を見開いたあと、静かに頭を下げた。


「かしこまりました。何かございましたら、すぐにお呼びくださいませ」


 お福が立ち上がり、襖へ向かう。


 その背中を見ながら、玲奈は慌てて声をかけた。


「お福さん!」


「はい?」


「……ありがとう」


 お福はきょとんとした。


 それから、ふっと表情を和らげる。


「もったいないお言葉にございます」


 部屋に、再び静けさが戻ってくる。玲奈は長く息を吐いた。


「……どうしよう、マジで何がどうなってるんだろう」


 誰もいない部屋で、本音がこぼれる。


 両親の顔、友人たち、スマートフォンに美味しい食事、当たり前にある住みやすい家、必需品の電化製品。常に空を飛んでいる飛行機に、5分刻みで来る電車…見慣れた日常が頭に浮かぶ。


 目の前が涙で滲む。唇を噛み締め、涙がこぼれ落ちないよう上を向いた。


 帰りたい。帰りたいに決まっている。けれど、どうすれば帰れるのだろう。頬を涙が伝う…


 最後に月を見たことは覚えている。


 半月だった。


 あの夜、何かが起きた。それだけは間違いない。


 玲奈は袖で涙を拭い、障子の向こうを見つめた。


 今、月は見えない。


 朝の光が庭を照らしているだけだった。


「……とにかく、確認しなきゃ」


 本当に戦国時代の帰蝶の中にタイムリープしてしまったのか…そして、元に戻る方法はあるのか。


 ひとつずつ確かめていくしかない。玲奈はそっと、帰蝶の髪に触れた。指の間を、長い黒髪がさらさらと滑り落ちる。


 お気に入りのミルクティーグレージュに染めた短い髪が、今や漆黒でお尻の下まで届きそうなほどに長い。


「……ほんとに、私の身体じゃないんだな」


 口にした途端、胸の奥がきゅっと痛み、また目元が熱くなる。


 これは夢だ。夢であってほしい。


 けれど、指先に触れる髪の感触も、畳の冷たさも、鼻をかすめる香の匂いも、あまりにも生々しかった。


 玲奈はゆっくりと立ち上がった。まずは、この部屋の外を見てみよう。


 そう思った時、廊下の向こうから複数の足音が聞こえてきた。


 誰かが、こちらへ近づいてくる。玲奈は反射的に背筋を伸ばし、身体を固くした。


 足音は部屋の前で止まった。


「帰蝶様。お館様がお呼びでございます」


 知らない男性の声が、襖の向こうから告げる。涙は引っ込み、玲奈の顔からはすーっと血の気が引いた。それもそのはず。


 お館様とは…帰蝶の父、斎藤道三、美濃の蝮《まむし》


 私が研究していた一人が、私を呼んでいる。


「……えっ?」


 思わず声が漏れた。


 お願い!夢なら、早く覚めて。


 玲奈は心の中で、そう繰り返した。

今日は、アプリの調子が悪く、やっとアップだーと思ったら保存すら出来ていないこと3回…

玲奈じゃないけど泣きました。

素人初心者にはきつかったです。眠い…


4回目の正直ということで、遅くなりましたが書き上がりました!焼き立てです(笑)


4回とも同じ話ではなく、ちょっとずつニュアンスが違うので、いずれ加筆修正するかもしれないです。


だいたいのところまでは、この先の分も書けてはいるのですが、校正に時間を要しおそらく今後も深夜になりますね(´Д`ι)アセ


では、今後も玲奈共々頑張りますので、応援よろしくお願いいたします!

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