5-9.後日談
5-9.後日談
前日、デリヴァは、登山、獣の撃退、走っての下山と文字通り駆けずり回り、鳳凰茸の上級ポーションの作成に魔力も使った。筋肉は痛いし、魔力の回復も必要だった。ギルドで盛大におなかを鳴らしてしまったが、どこに入るんだというくらい、戦士3人前くらいの食事を済ませると、起こさないでと念を押して、昼過ぎまで寝倒した。もう午後である。
「女将さん、おはよ。」
「お疲れ様でした。デリヴァさん。もう昼も過ぎましたよ。」
「そうでしたか。昨日は久々によく働きましたから。何かあります?」
「麺類なら作れますよ。」
「それでお願い。」
下着ではない、という程度の簡素な部屋着姿で、食堂に下りてきた。
「はい、きつねうどん。」
「ありがとうございます。胃に優しい。牡蠣入りにしていますよ。」
「わあ、ありがとうございます。女将さん分かってる!」
デリヴァは顔をほころばせた。
「何だか街が静かじゃない?」
エルフの耳が街の喧騒の少なさに反応した。
「ええ…。それが…。」
女将は何やら言いにくそうに、デリヴァの顔を伺った。
「依頼を達成されて、ご満足なところ、申し上げにくいんですけど。」
「はい?」
その時、精霊が騒いだ。
「娘、死んだ。娘、死んだ。」
「えっ…。どうして?」
コトン、と箸を落とした。デリヴァは、完璧なポーションを作ったつもりだったのだ。
「はい、昨夜ヒセラ様が…。」
女将が小声で告げた。
「至りませんでしたか。」
沈痛な面持ちになった。
「いえ…。それが…。」
「迷信を信じてはならぬと、男爵がポーションをお取り上げになり。」
「ああ。私って信用ないもんね。」
「揉み合いになって男爵の腰に掛かってしまったとか。」
「なんてこと?」
「ドメウ男爵は長年の腰痛が一瞬で治られたそうですよ。」
「えっ?」
「気がついたら、ヒセラ様はお亡くなりになっていたということです。なので、一週間歌舞音曲を控え、半旗を掲げているのです。」
「…そう?」
デリヴァはうどんをすすった。しょっぱい味がした。
男爵の城には、神官が呼ばれ、お通夜が行われていた。
エルフの治癒師、ベルタが、夫人に寄り添っていた。
「デリヴァ?聞いたことがありませんでしたが?」
「エルフのベルタ先生すらご存じないのですね。」
「ええ…不勉強ながら。300歳の一級治癒師というならエルフの郷でも有名人のはずですがね。」
「代々伝わることによりますと、デリヴァ様は一流の治癒師ですが、治癒の大魔法を使うと、副作用で存在や功績を街ごと忘れ去られるそうなんです。」
「えっ!?」
ベルタが口を開けた。
――もしや世界樹と何か契約した?
「古老に伝わる秘術を使う方かもしれませんね。エルフの郷に帰ることがあれば確認してみましょう。」
「このポーションいかがですか?」
ドリカがほとんど空になった瓶に再度栓をしたものをベルタに渡してみた。
「こ…。これは?」
ベルタが目を大きく見開いた。
「私でもこんな美しいポーション作れません。」
「…やはり。これを飲めばヒセラは助かっていたでしょうか。」
「…おそらくは。」
「私の実家、モーンゼーン伯爵家には代々、デリヴァ様を讃える銅像や肖像画があり、また記録も残っています。ヒセラの治療契約はこれでおしまいなので、王都にお戻りの前に、兄、モーンゼーン伯爵のもとにお立ち寄り下さいませんか?」
「…分かりました。私も、宮廷治癒師の地位に甘んじ、研鑽を怠っていることが分かりました。上には上がいるものですね。モーンゼーン伯爵のお話を聞いたら、もう一度治癒師としての自分を見つめ直してみます。」
「ドリカ様…。これ?瓶の底に…。」
ベルタが瓶の底にコインが貼られているのに気がついた。
「まあ…レオ銀貨?」
夫人の目から涙がこぼれた。やがて、賛美歌と説教が始まり、ヒセラは天の階段を昇った。
デリヴァの宿。
デリヴァはうどんをすすり終わると、
「お釣りは良いよ。気が変わったので、旅に出ます。うどん、美味しかったです。」
といい、悲しそうに首を振ると、とぼとぼとドメウの街を後にした。




