6-1.コバラ村
第6章 境界のハグ
6-1.コバラ村
ドメウ男爵領を後にし、デリヴァは少し南下した。
キノコが採れだしている。晩秋がやってくる。その後は冬だ。
世界樹の生えるエルフの北の国は、白夜もあるとは言え、デリヴァはあまり寒いのは得意ではない。毎年、寒くなると南下し、暑くなると北上すると言ったパターンで旅を繰り返すことが多い。夏の暑い地方や冬の寒い地方の素材が必要になると例外的に逆の行程を歩むこともあるが…。
コバラの村は、風光明媚で、大きなレモンが採れるかと思えば、ワインも独特の風味がある。
コバラの素材は魔法やポーションに有益な物も多く、気に入れば予定を決めずに長逗留と決め込んで、梟の巣亭の鍋料理を全制覇しようという腹づもりである。
昼下がり、夜の食堂の開店準備中の店に、デリヴァがふらりと現れた。
「ごめん下さい。お部屋はありますか?」
「まあ、綺麗な方!ございますよ!」
「決めてないけどとりあえず十日ほど、良いですか?」
「そんなにも?もちろんでございます。」
壮年の女将が愛想良くなった。
「ジャンヌ、こちらのお客さんをご案内して。」
「はーい。」
若い娘がサッときた。栗毛で大きな目をしている。
「デリヴァと言います。」
「ジャンヌです。初めまして。宿帳の記入をお願い致します。へえ、治癒師でいらっしゃるんですか?」
「ああ、素材集めをしているから。日中は山に行くと思うけど。」
「かまいませんよ。夕飯はウチ、食堂も兼ねていますんでぜひ召し上がって下さい。今夜は猪が捕れたのでぼたん鍋ですよ。」
「それは良いですね。串焼きってありますか?」
「もちろんです。デリヴァさん、食いしん坊でしょ?」
「分かる?」
「お肉と聞いて目が光りましたもん。私、人間観察良く当たるんですよ。」
「へえ!鋭いなぁ。他には分かる?」
ジャンヌは、試すように自分を見るデリヴァの瞳の奥に、陰を見た。
「うふふふ。違ってたらごめんなさい?一人旅されている割には寂しん坊じゃありません?」
「な…。参ったなぁ。大当たりだ。私の機微を見抜く給仕さんは、滞在中お世話になるでしょうから、はい。これ。」
気を良くしたデリヴァはレオ銀貨を与えた。
「うわー綺麗!見たことない。」
「出来れば記念品として大事にしてくれたら嬉しい。」
「分かりました!さ、こちらがお部屋と、鍵ですね。」
「ありがとう。」
「では、ごゆっくり。今夜はもう山にはいらっしゃらないでしょう?」
「そうですね。」
「おなかがすいたらぜひ、下りてきて下さい。」
「分かりました。」
ジャンヌは、鈴のような声でてきぱきと言うと、さっさと食堂の手伝いに下りていった。
デリヴァは埃を落としたり、素材を整理したり、荷下ろしを済ませる内に、夕刻を迎えていた。
ぐーー、と腹の虫が鳴ったところで、食堂に下りたのだった。
「あら、満席?」
デリヴァは目を丸くして食堂の入り口に立ち尽くしていた。




