5-6.山へ
5-6.山へ
男爵夫人ドリカ様の通行証を見せると、衛兵は一瞬面白くなさそうな顔をしたが、それ以上の意地悪はせずに通行を許可した。
――急げ。
デリヴァは歩を進めた。
この難病は、直接的に大治癒魔法を行使するのが最も確実である。しかし、それがかなわぬのなら、相当な治癒師でないと作成の難しい、鳳凰茸を用いた上級ポーションが不可欠だ。
――今は秋。探せば必ずあるはずだ。
デリヴァは魔物よけの香を焚きながら、どんどんと山に分け入って行った。
猪に突進されては、「ヒラリン」の魔法で交わしたり、熊と睨めっこしては、「ねむねむ」で眠らせたり、狼に見つかっては、「スカンク」の魔法で撃退したりして、デリヴァは山の中腹まで分け入っていった。
――そろそろあってもおかしくないのだが。
どういうわけか、今日に限って鳳凰茸はなかなか見つからなかった。歩き回るデリヴァの額には汗がにじんでいた。
「ちょっと疲れたな。何か食べるか。」
おにぎりでも食べようと、大木の影に腰掛けようとした時だった。
「わっ!」
木のうろが崩れ、デリヴァは空洞に落っこちた。とっさに風魔法で墜落を遅めたが、それでも背中から落ちてしまった。
「いてててて。」
デリヴァは埃を払いながら立ち上がった。幸い打撲だけのようだ。
「ライトヒール」
デリヴァは、自分の怪我をサクッと治した。
どうやら大木のうろは空洞になっており、2-3メートル落っこちたようである。
「参ったなぁ。」
デリヴァは、普通によじ登って出られないかと、蔦や木の根が垂れていないか、周りをキョロキョロと見回した。
――その時である。
「あっ。」
目の前には鳳凰茸が群生していた。
「日陰を好むんじゃなくて暗闇で育つと言うことか。モーンゼーン領だし、ここは秘密の穴場にしておこう。鳳凰茸の養殖には暗闇が良いかもと言う情報はキノコ業者に伝えておこう。」
ひとりごちると、立派な鳳凰茸を10本マジックポーチに放り込んだ。土魔法で梯子を作って地上に出ると、デリヴァは木のうろをまた枯葉などで埋め、うっかり動物が落ちないよう強化しておいた。そして、蓋の真ん中にレオ銀貨を仕込んで呪文を唱えた。
「これで熊が載っても中に落ちることはない。」
そして、ポーチからフラスコと小瓶、すり鉢やすりこぎを取り出した。
小瓶にはノーマルポーションが既に入っていた。
鳳凰茸をすり鉢に入れてすりつぶし、そこにノーマルポーションを注いでいくと、見事な黄金色に変わっていく。
「エクストラ・ヒール!」
すり鉢の中のポーションが、角度によって黄金だったり虹色に見えた。
「成功だ。我ながら上出来。これでヒセラ様には直接お会いしなくてもお救いできるさ。」
フィルターで固形を取り除いて漏斗を用いて小瓶に黄金色の上級ポーションを入れ、しっかりと瓶の蓋を閉めた。マジックポーチの中は魔空間であり、転んでも瓶が割れることはないが怖いのは外に出して人が扱う時である。水を通さぬ袋に二重に入れ、周りをクッション性のある柔らかい布でくるんだ。念のために、ポーション瓶の裏にレオ銀貨を貼り付けておいた。
「これで良いだろう。」
完成した上級ポーションや道具一式をしまうと、デリヴァはすがすがしい笑みを見せた。
「さあ、これからドメウの街まで駆け通しだから。私も補給しないとね。」
と一旦、今度こそ安定した大きさの石の上に腰掛けておにぎりをほおばった。そして、お茶も飲んで一息ついた。
「良し!」
すっくと立つと、
「急ごう!神速!」
脚にスピードアップの魔法を掛けるやいなや、ドメウの街めがけて走り出した。




