5-5.ポーション
5-5.ポーション
ディーデはうっすらと涙を浮かべた。懐からハンカチを出してそれを拭うと、彼は話を続けた。
「ヒセラ様は可憐なお嬢様です。ご夫妻はもちろん、使用人もみんなお慕いしているのです。」
「ええ。」
「可能であれば、デリヴァ様に診察も治療もして頂きたい。」
「旅の治癒師には信用がないでしょう?」
「あ、いや、いえ。」
ディーデはしどろもどろになったが気を取り直した。
「実は奥方様のご実家はモーンゼーン伯爵家なのです。」
「あっ。」
デリヴァは思わず声を上げた。
「ハンス様の妹君、ドリカ様が当家に嫁いでおります。」
「なるほど?」
「ドリカ様は、モーンゼーン家では、デリヴァという一級治癒師は福の神だ。串焼きを与えて歓待せよ、と教えられているそうです。それを徹底するために、そのエルフを見かけたら当主に通報する法律まで作ってしまったとか。」
「存じてますよ。私はモーンゼーン伯爵領からやって来たのですから。なるほど、なので、ドリカ夫人は、私をお捜しだったのですね?」
「ええ。ただ…。ドリカ様は、何度もお願いなさったのですが。御館様も、ベルタ様も、『そんな名前は聞いたことがない』、の一点張りで。」
「確かに…。」
デリヴァは目を覆って天を仰いだ。大きくため息をついた。
「そこで、ギルドにご依頼を掛け、ヒセラ様のやまいに向けた上級ポーションをお作り頂けないでしょうか?」
「なるほど。全容が見えました。」
ディーデが不安そうにデリヴァを見つめていた。
「医師の見立ては何と?」
「免疫が落ちる不思議な病気のようで。10万人に一人くらい掛かるそうですが。1ヶ月もしない内に、いえ、悪くすると1週間くらいで。感染症で全身が食われて亡くなるそうです。」
「分かりました。だいたいどんな病気かも。」
デリヴァは既に席を立った。
ディーデは慌てた。
「断られるので?」
「ごめんなさい。びっくりさせちゃいましたか?」
「心臓が止まりそうですよ。」
「ギルドに正式依頼を出して下さい。素材を取りに行きます。一刻も早く。」
「お受け頂けるので?」
「もちろん。特殊なキノコが必要です。モーンゼーン伯爵領の山中にあるはずなので、取ってきます。」
「ありがとうございます。」
「それで…一つお願いなんですがね。」
「何でしょう?」
「通行税以外に関所の門番が賄賂を取ってますよね?」
「ああ。申し訳ないことです。」
「男爵家の客で素通しせよというような、通行証を頂けませんか?ご依頼で動くのに、一々賄賂を要求されてはたまりません。」
「確かに、ドリカ様のサイン入りの通行証です。これをお持ち下さい。きっと無事に通れるはずです。」
「ありがとうございます。でも、そもそも賄賂を取らないように、役人を取り締まって頂いた方がいいですよ。今回は急ぐので甘えますが。」
「ご指摘の通りです。面目ない。」
「あなたが謝ることでもありません。」
「それでは、すぐに山へ行きますね。ディーデさんは、ギルドに依頼を掛けて下さい。内諾のサインはこれに。受諾が先になっていますが、これがあれば正式依頼と受諾が成立するはずです。」
デリヴァはマフラーを首に巻いたが早いか、女将にしばらく留守にするが部屋はそのままで、と念を押し、颯爽と出て行った。




