5-1.牡蠣
5-1.牡蠣
北風が吹いた。
「さぶっ。」
デリヴァは肩をすくめた。モーンゼーン伯爵家でゆっくりしている内に、秋が深まろうとしていた。よく育った牛の肉を串焼きにして堪能したデリヴァは、そろそろ海産物も食べたいと感じていた。幸い、精霊達もSOSのサインを拾ってこない。レオ銀貨を渡した縁ある人達は、今の所、健康に暮らしているようだ。
デリヴァは、北風を浴びてぶるる、と少し震えると、マジックポーチからコートを出して羽織った。素材の収集もあったので今回は乗合馬車は使わず、山で山菜や珍しいキノコなどを採集した。その関係もあり、山を下りたデリヴァは徒歩でドメウの街に向かっていた。
――ドメウの牡蠣。
誰も見ていないのを良いことに、デリヴァは妄想を膨らませてにまにまと美形に似つかわしくない笑顔を浮かべて歩いていた。
――まずは、そのまま炭火で焼く…。
魚醤を掛けて食べるのも乙だ。
バターも良いな。
レモンをちょっと掛けるとまた良いんだよな。
やっぱり相棒はビールが良いかしら。
とろけるチーズを載せてもいい。
バジルなどを振りかけるのもたまらない。
――蒸し牡蠣も、ほっとする味だ。これも素晴らしい。むしろ、通には焼くより良いかもしれない。第一撥ねないしね。
――蒸し牡蠣は、まずはそのまま、柑橘類は、レモンにスダチ、かぼす、橙、何でも美味しい。
――牡蠣飯。これも外せない。タケノコやキノコと一緒に炊いたご飯がたまらない。
――パスタに混ぜるのも一興。パエリアに入れるのも良い。ああ、この街で何泊しようかな。
と、緩みきった笑顔で楽しく歩いていたデリヴァであったが、ドメウ領に入る関所に到着した。
「一級治癒師、デリヴァ」
「通行税をお願いします。」
「はい。」
デリヴァは所定の銀貨を納入した。
「それと、な?わかるだろ?」
衛兵がくいくいと手首を返してにやついていた。
――賄賂?腐ってやがるな。
関所を壊滅させることくらいは造作ないが、それはそれで問題になり、警備兵から事情聴取を受けたり下手すれば拘束されるリスクもある。デリヴァは長年の経験で、素直に支払うのが一番ロスが少ないのを知っていた。
「おいくらで?」
衛兵が指を三本立てた。
――チッ。
デリヴァは内心舌打ちしながらも、銀貨を4枚差し出した。
「よしなに。」
「姐ちゃん、分かってるじゃねぇか。ありがとよ、へっへっへ。」
門番は野卑た笑みを浮かべながら銀貨を二人で2枚ずつ懐にしまうと、デリヴァに通行を許した。
――確かに私の見かけは小娘だが、エルフ種ということと、単独で山から下りてきたことを想像出来んもんかね?
デリヴァは内心毒づいたものの、世間慣れした愛想笑いで軽く門番を魅了すると、さっさと関所を後にした。
そして、峠から街へ下りると、高くもなければ安くもないという手頃な宿を見つけると、
「しばらくこの街に用がある。とりあえず、10日分」
と言って、部屋を確保した。
その夜は、デリヴァは女将の勧める牡蠣小屋に出向いて、エールと焼き牡蠣を堪能した。
翌朝、一応ギルドに顔を出したが、大した治癒の依頼は登録されていなかったため、
――しばらくは牡蠣三昧で休暇を満喫しよう。
と…ギルドを後にしたまでは良かったが、後ろに距離を取って付いて来る男がいた。
――付けられている?
デリヴァは歩を早めた。




