## 第9話「王都への旅」
# 『この世界で魔法を使えるのは俺だけだったが、守りたいのはたった一人の笑顔だった』
## 第9話「王都への旅」
空は青かった。
あれだけの出来事があった翌日とは思えないほど、穏やかな朝だった。
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「王都まで三日くらいかな」
リリアが地図を広げながら言う。
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「三日か」
カイはため息をついた。
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「遠いな」
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「普通は馬車を使うの」
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「普通じゃないから徒歩なんだな」
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リリアが少し笑う。
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最近、笑う回数が増えた。
本人は気づいていないけれど。
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カイはその笑顔を見るたびに思う。
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(やっぱり笑った方がいいな)
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リリアには。
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泣き顔よりも。
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その方が似合う。
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昼頃。
二人は街道沿いの小さな町へ到着した。
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石造りの門。
木造の家々。
市場の声。
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「おお……」
カイの目が輝く。
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「異世界だ」
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「今さら?」
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「今さらだ」
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リリアが呆れたように笑う。
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その瞬間。
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カイは思った。
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(この顔だ)
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自分が守りたいと思った笑顔。
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理由なんてない。
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ただ。
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見ていると安心する。
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それだけだった。
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市場へ入る。
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焼きたてのパンの香り。
果物。
香辛料。
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全てが新鮮だった。
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「すげぇ」
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カイは完全に観光客だった。
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「落ち着いて」
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リリアが苦笑する。
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「田舎から初めて都会来た人みたい」
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「実際そうだろ」
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異世界初心者である。
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反論できない。
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しばらく歩いていると。
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露店で足が止まる。
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銀色の髪飾り。
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小さな青い宝石がついていた。
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リリアの目が少しだけ動く。
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ほんの一瞬。
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でもカイは見逃さなかった。
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「欲しいのか?」
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「えっ?」
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リリアが慌てる。
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「ち、違うよ」
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「嘘だな」
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「違うってば!」
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顔が赤い。
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分かりやすい。
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カイは笑った。
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「じゃあ買うか」
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「えぇ!?」
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リリアが本気で驚く。
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「なんで!?」
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「似合いそうだから」
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店主から髪飾りを受け取る。
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「ほら」
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差し出す。
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リリアは固まった。
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「……私に?」
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「他に誰がいるんだよ」
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沈黙。
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リリアは恐る恐る受け取る。
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その手が少し震えていた。
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「ありがとう……」
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小さな声。
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宝物みたいに抱きしめる。
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その姿を見て。
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カイは少しだけ安心した。
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高価な物じゃない。
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でも。
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彼女が嬉しそうなら、それでよかった。
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夕方。
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二人は丘の上にいた。
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町を見下ろせる場所。
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夕日が世界を赤く染めている。
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「綺麗だな」
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カイが呟く。
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「うん」
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リリアも空を見る。
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風が吹く。
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銀色の髪が揺れる。
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その髪には。
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昼に買った髪飾り。
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青い宝石が夕日に輝いていた。
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「似合ってる」
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何気なく言う。
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リリアが固まる。
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「え?」
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「いや、その髪飾り」
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カイは笑う。
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「思った通りだなって」
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リリアの顔が真っ赤になる。
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「そ、そういうの急に言わないで!」
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「何で?」
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「何でも!」
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カイは意味が分からない。
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本気で分からない。
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だから余計に困る。
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リリアは顔を隠した。
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(ずるい……)
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こんなの。
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好きにならない方がおかしい。
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優しくて。
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強くて。
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自分のことを特別扱いしないくせに。
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気づかないところで特別扱いしてくる。
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胸が苦しい。
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でも嫌じゃない。
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むしろ――
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嬉しい。
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そのとき。
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遠くの王都の方角で。
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黒い光が一瞬だけ空へ走った。
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カイの表情が変わる。
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「……今の」
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リリアも立ち上がる。
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嫌な予感がした。
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あの日見た光に似ている。
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そして。
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胸の奥で。
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聖女の力が警鐘を鳴らしていた。
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「王都で何か起きてる……」
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夕日の中。
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二人は同じ方向を見つめる。
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楽しい時間は終わった。
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物語は再び、大きく動き始める。
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## 第9話・終わり
### 次回
## 第10話「王都炎上」
王都で待っていたのは歓迎ではなかった。
そしてカイは初めて知る。
この世界で、自分の名前がどれほど恐れられ始めているのかを――。




