表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/11

## 第8話「魔王の後継者」

# 『この世界で魔法を使えるのは俺だけだったが、守りたいのはたった一人の笑顔だった』


## 第8話「魔王の後継者」


 風が止まっていた。


 世界そのものが息を潜めているようだった。


---


 空には黒い光。


 大地には巨大な怪物。


 そして――


---


『見つけた』


---


 頭の中に響く声。


---


『我が後継者』


---


 カイは怪物を睨み返した。


---


「勝手に決めるな」


---


 怪物が笑う。


---


『その力を持ちながら知らぬのか』


---


 胸の奥がざわつく。


---


 嫌な感覚だった。


---


 だが同時に。


---


 どこか懐かしい気もする。


---


「……知らねぇよ」


---


 カイは右手を見る。


---


「俺は昨日まで普通の人間だったんだ」


---


『違う』


---


 怪物の声が低くなる。


---


『お前は元から選ばれていた』


---


 その瞬間。


---


 頭の奥で何かが弾けた。


---


 知らない景色。


 知らない文字。


 知らない声。


---


 無数の記憶の欠片。


---


「ぐっ……!」


---


 カイは頭を押さえる。


---


「カイ!」


---


 リリアが支える。


---


 その手が震えている。


---


 怖いのだ。


---


 魔王の後継者。


---


 そんな言葉を聞かされて。


---


 怖くないはずがない。


---


 だが。


---


 それでも彼女は離れなかった。


---


 カイの服を掴んだまま。


---


「……リリア」


---


 少女は俯いていた。


---


 頭の中では、昔から聞かされてきた言葉が響いている。


---


 魔王は世界の敵。


 魔王の後継者は災厄。


 見つけたら滅ぼせ。


---


 ずっとそう教えられてきた。


---


 なのに。


---


 目の前にいるのは。


---


 自分を守るために戦ってくれた人だった。


---


 誰よりも優しい人だった。


---


 だから。


---


 リリアは顔を上げる。


---


「私は……」


---


 涙が滲む。


---


「私は、信じる」


---


 カイが目を見開く。


---


「え?」


---


「魔王とか関係ない」


---


 小さな声だった。


---


 でも。


---


 今までで一番強い声だった。


---


「カイはカイだから」


---


 沈黙。


---


 怪物ですら言葉を失ったようだった。


---


 カイはしばらく何も言えなかった。


---


 そして。


---


 少しだけ笑う。


---


「……参ったな」


---


 頭をかく。


---


「そんなこと言われたら」


---


 立ち上がる。


---


 足はまだ震えている。


---


 体も限界に近い。


---


 それでも。


---


 立つ。


---


「期待に応えたくなるだろ」


---


 リリアの瞳が揺れる。


---


 その笑顔を見た瞬間。


---


 胸が熱くなる。


---


 自分でも理由は分からない。


---


 でも。


---


 この人を失いたくない。


---


 その気持ちは、もう誤魔化せなかった。


---


 怪物が低く唸る。


---


『なるほど』


---


『聖女か』


---


 赤い瞳がリリアを見つめる。


---


『だから目覚めたのだな』


---


「何の話だ」


---


 カイが睨む。


---


 怪物は答える。


---


『お前一人では不完全だった』


---


『鍵と扉は揃わねば開かぬ』


---


 リリアが息を呑む。


---


 またその言葉。


---


 鍵。


---


 扉。


---


 何かが繋がっている。


---


『いずれ全て思い出す』


---


『その時、お前は選ぶ』


---


 怪物の身体が光に包まれる。


---


『世界か』


---


 光が強くなる。


---


『彼女か』


---


 次の瞬間。


---


 巨大な姿は消えていた。


---


 静寂。


---


 風だけが残る。


---


 しばらく誰も動けなかった。


---


「……帰った?」


---


 カイがぽつりと言う。


---


「たぶん……」


---


 リリアも呆然としていた。


---


 だが。


---


 胸の奥には別の感情が残っていた。


---


 世界か。


 彼女か。


---


 そんな選択をさせるな。


---


 そう思った。


---


 隣を見る。


---


 カイも同じように空を見ていた。


---


 そして。


---


「両方守ればいいだろ」


---


 当たり前みたいに言った。


---


 リリアは思わず吹き出した。


---


「そんな簡単じゃないよ」


---


「知ってる」


---


 カイは笑う。


---


「でもさ」


---


 空を見上げる。


---


「諦める理由にはならないだろ」


---


 その横顔を見ながら。


---


 リリアは確信した。


---


 この人は。


---


 きっと世界中が敵になっても。


---


 最後まで前を向く人だ。


---


 だから。


---


 私は――


---


 この人の隣にいたい。


---


 初めて、その想いを自覚した。


---


## 第8話・終わり


---


### 次回


## 第9話「王都への旅」


リリアの過去を知る人物を探すため、二人は王都へ向かう。


だがその道中。


二人は初めて、本当の意味で「デートみたいな一日」を過ごすことになる――。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ