## 第8話「魔王の後継者」
# 『この世界で魔法を使えるのは俺だけだったが、守りたいのはたった一人の笑顔だった』
## 第8話「魔王の後継者」
風が止まっていた。
世界そのものが息を潜めているようだった。
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空には黒い光。
大地には巨大な怪物。
そして――
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『見つけた』
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頭の中に響く声。
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『我が後継者』
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カイは怪物を睨み返した。
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「勝手に決めるな」
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怪物が笑う。
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『その力を持ちながら知らぬのか』
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胸の奥がざわつく。
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嫌な感覚だった。
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だが同時に。
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どこか懐かしい気もする。
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「……知らねぇよ」
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カイは右手を見る。
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「俺は昨日まで普通の人間だったんだ」
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『違う』
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怪物の声が低くなる。
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『お前は元から選ばれていた』
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その瞬間。
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頭の奥で何かが弾けた。
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知らない景色。
知らない文字。
知らない声。
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無数の記憶の欠片。
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「ぐっ……!」
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カイは頭を押さえる。
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「カイ!」
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リリアが支える。
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その手が震えている。
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怖いのだ。
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魔王の後継者。
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そんな言葉を聞かされて。
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怖くないはずがない。
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だが。
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それでも彼女は離れなかった。
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カイの服を掴んだまま。
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「……リリア」
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少女は俯いていた。
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頭の中では、昔から聞かされてきた言葉が響いている。
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魔王は世界の敵。
魔王の後継者は災厄。
見つけたら滅ぼせ。
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ずっとそう教えられてきた。
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なのに。
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目の前にいるのは。
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自分を守るために戦ってくれた人だった。
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誰よりも優しい人だった。
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だから。
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リリアは顔を上げる。
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「私は……」
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涙が滲む。
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「私は、信じる」
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カイが目を見開く。
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「え?」
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「魔王とか関係ない」
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小さな声だった。
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でも。
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今までで一番強い声だった。
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「カイはカイだから」
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沈黙。
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怪物ですら言葉を失ったようだった。
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カイはしばらく何も言えなかった。
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そして。
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少しだけ笑う。
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「……参ったな」
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頭をかく。
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「そんなこと言われたら」
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立ち上がる。
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足はまだ震えている。
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体も限界に近い。
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それでも。
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立つ。
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「期待に応えたくなるだろ」
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リリアの瞳が揺れる。
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その笑顔を見た瞬間。
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胸が熱くなる。
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自分でも理由は分からない。
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でも。
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この人を失いたくない。
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その気持ちは、もう誤魔化せなかった。
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怪物が低く唸る。
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『なるほど』
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『聖女か』
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赤い瞳がリリアを見つめる。
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『だから目覚めたのだな』
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「何の話だ」
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カイが睨む。
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怪物は答える。
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『お前一人では不完全だった』
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『鍵と扉は揃わねば開かぬ』
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リリアが息を呑む。
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またその言葉。
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鍵。
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扉。
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何かが繋がっている。
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『いずれ全て思い出す』
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『その時、お前は選ぶ』
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怪物の身体が光に包まれる。
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『世界か』
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光が強くなる。
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『彼女か』
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次の瞬間。
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巨大な姿は消えていた。
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静寂。
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風だけが残る。
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しばらく誰も動けなかった。
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「……帰った?」
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カイがぽつりと言う。
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「たぶん……」
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リリアも呆然としていた。
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だが。
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胸の奥には別の感情が残っていた。
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世界か。
彼女か。
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そんな選択をさせるな。
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そう思った。
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隣を見る。
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カイも同じように空を見ていた。
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そして。
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「両方守ればいいだろ」
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当たり前みたいに言った。
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リリアは思わず吹き出した。
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「そんな簡単じゃないよ」
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「知ってる」
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カイは笑う。
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「でもさ」
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空を見上げる。
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「諦める理由にはならないだろ」
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その横顔を見ながら。
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リリアは確信した。
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この人は。
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きっと世界中が敵になっても。
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最後まで前を向く人だ。
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だから。
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私は――
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この人の隣にいたい。
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初めて、その想いを自覚した。
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## 第8話・終わり
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### 次回
## 第9話「王都への旅」
リリアの過去を知る人物を探すため、二人は王都へ向かう。
だがその道中。
二人は初めて、本当の意味で「デートみたいな一日」を過ごすことになる――。




