## 第7話「封印の魔王」
# 『この世界で魔法を使えるのは俺だけだったが、守りたいのはたった一人の笑顔だった』
## 第7話「封印の魔王」
黒い光は、まだ空を貫いていた。
まるで世界に開いた傷口のように。
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「急ぐよ!」
リリアが走り出す。
カイも後を追った。
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「説明!」
「走りながら!」
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「雑だな!」
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こんな状況なのに、リリアは少しだけ笑った。
ほんの一瞬。
でもカイは見逃さなかった。
(笑ったな)
そのことが、なぜか少し嬉しかった。
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だが次の瞬間。
リリアの表情は再び険しくなる。
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「千年前」
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走りながら話し始める。
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「この世界には魔王がいた」
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「お約束だな」
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「全然お約束じゃない」
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珍しく即答だった。
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「その魔王は国を滅ぼしたわけじゃない」
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「じゃあ何したんだ?」
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リリアは苦しそうに答える。
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「魔法そのものを書き換えようとした」
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カイの足が少し止まりそうになる。
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「……は?」
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「世界の法則を変えようとしたの」
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風が吹く。
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「だから封印された」
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「なるほど」
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「でも封印した代償で、本物の魔法は世界から消えた」
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カイは黙る。
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嫌な予感がしていた。
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「おい」
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「うん」
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「それで俺を見るな」
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リリアが視線を逸らした。
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「だって……」
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「俺も世界の法則壊してる側じゃねぇか」
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沈黙。
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図星だった。
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「まぁ、そうだな」
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カイは苦笑する。
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「ははっ」
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笑うしかない。
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そのときだった。
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地面が揺れた。
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ドゴォォォン!!
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遠くの山が崩れる。
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「なっ!?」
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土煙が空へ舞う。
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そして。
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黒い光の中心から。
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巨大な影が現れた。
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「……嘘」
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リリアの顔が青ざめる。
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影は山より大きかった。
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竜。
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いや。
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竜ですらない。
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何かもっと古い存在。
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目だけが赤く輝いている。
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「グオォォォォォォォ!!」
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咆哮。
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衝撃波だけで森が揺れる。
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「おいおい」
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カイは引きつった笑みを浮かべた。
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「初見殺しにもほどがあるだろ」
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その瞬間。
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怪物の目が動く。
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こちらを見る。
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「……っ!」
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リリアが息を呑む。
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赤い瞳。
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明らかにこちらを認識した。
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「逃げるぞ!」
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カイが叫ぶ。
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二人は走る。
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だが。
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怪物の口元に黒い光が集まる。
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「まずい!」
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リリアが叫んだ。
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次の瞬間。
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黒い閃光。
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一直線に迫る破壊。
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森が消し飛ぶ。
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「くっ!」
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カイは咄嗟に右手を上げた。
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すると。
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世界が静止する。
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あの感覚。
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空気。
時間。
魔力。
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全部が手の中にあるような感覚。
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「消えろ!」
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閃光に向かって手を振る。
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ズッ――
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黒い光が途中で消えた。
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まるで最初から存在しなかったように。
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「なっ……!?」
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リリアが目を見開く。
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だが。
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カイの異変に気付く。
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「カイ!」
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鼻から血が流れていた。
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「……あれ?」
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視界が揺れる。
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足元がふらつく。
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「おいおい」
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初めてだった。
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魔法を使って疲れたのは。
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「無限じゃないのかよ……」
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膝をつく。
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リリアが支える。
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「大丈夫!?」
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「たぶんな」
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全然大丈夫じゃない。
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胸が痛い。
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頭も割れそうだ。
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そのとき。
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怪物が動きを止めた。
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赤い瞳がカイを見つめている。
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そして。
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聞こえた。
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『見つけた』
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頭の中に直接。
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『継承者』
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カイの背筋が凍る。
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「……誰だ」
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『ようやく会えた』
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怪物は笑っていた。
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竜の顔で。
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確かに笑っていた。
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『我が後継』
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リリアの顔から血の気が消える。
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「そんな……」
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「知ってるのか?」
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リリアは震える唇で言った。
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「伝承にある……」
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そして。
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最悪の言葉を口にした。
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「魔王の力を受け継ぐ者……」
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風が止まる。
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世界が静まる。
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カイは空を見上げる。
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怪物の赤い瞳。
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そして自分の右手。
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(魔王の……後継?)
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そんなはずない。
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そう思うのに。
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胸の奥の力が。
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怪物の存在に共鳴していた。
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## 第7話・終わり
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### 次回
## 第8話「魔王の後継者」
カイの力の正体が少しずつ明らかになる。
そしてリリアは選択を迫られる。
「世界を守るか」
それとも――
「カイを信じるか」。




